子育て世帯を呼び込むには何が必要なのか 住宅だけでは人口が増え続けない理由編

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人口を増やしたい自治体にとって、住宅の供給は重要です。

どれほど魅力的な地域でも、住む家がなければ新しい住民を受け入れることはできません。

しかし、住宅を建てれば自動的に子育て世帯が増え続けるわけでもありません。

子育て世帯には住宅以外にも必要なものがあります。

仕事があります。

保育があります。

学校があります。

交通があります。

買い物や医療などの日常生活もあります。

全国で子どもが減少するなか、一部の自治体で子どもが増えている事例を見ると、子育て世帯から選ばれる地域には複数の条件が組み合わさっていることが分かります。

住宅は人口を受け入れる最初の条件になる

人口を増やすには、まず住宅が必要です。

千葉県流山市では、つくばエクスプレスの開業とともに沿線で土地区画整理が進み、マンションや戸建て住宅が供給されました。

東京都中央区では、晴海フラッグなどの大規模住宅開発によって短期間に多くの住民が流入しました。

住宅供給には、人口を受け入れる器をつくる役割があります。

特にファミリー向け住宅が増えれば、子育て世帯が流入する可能性も高まります。

ただし、これは人口増加の出発点にすぎません。

家があっても仕事がなければ住めない

住宅価格が安いというだけで移住を決められる家庭は多くありません。

住宅費を払うには収入が必要だからです。

地方への移住では、仕事の確保が大きな問題になります。

そこで一つの変化をもたらしているのがリモートワークです。

北海道東川町では、関東の会社に勤めながらリモートワークを利用し、子どもの教育を理由に移住する例があります。

勤務先を変えなくても居住地を変えられるのであれば、地方を選択できる家庭は増えます。

住宅政策と雇用や働き方は切り離せません。

共働き世帯には保育環境が欠かせない

親が働き続けるためには、子どもを預ける環境も必要です。

流山市では、認可保育所が2010年の17園から2026年9月には106園まで増えました。

さらに2007年から駅前送迎保育ステーションを導入しています。

保護者は駅前で子どもを預け、そのまま電車で勤務先へ向かうことができます。

単に保育所の数を増やすだけではありません。

通勤と保育を一つの生活動線として設計しています。

共働き世帯にとっては、保育所があるかどうかだけでなく、毎日無理なく利用できるかどうかが重要です。

子どもが成長すれば学校が重要になる

乳幼児期には保育所が重要ですが、子どもは成長します。

やがて小学校へ入り、中学校へ進みます。

そのため子育て世帯が長期間住み続けるには、学校教育も重要になります。

北海道東川町では東川小学校を中心とした教育環境が移住の吸引力になっています。

奈良県川上村のかわかみ源流学園では、移住者の子どもが6割から7割を占めています。

住宅があるから移住するだけではありません。

どのような環境で子どもを育てられるのかが、居住地選択の理由になっています。

教育そのものが地域の差別化になる

住宅だけで地域の違いをつくることには限界があります。

新築住宅を供給する自治体はほかにもあります。

子育て支援制度を設ける自治体も数多くあります。

そこで重要になるのが、その地域でしか得られない教育です。

東川町では自然や農地を教育環境として利用できます。

川上村では少人数教育や学年を越えた交流があります。

つくば市では約2万人の研究者という地域資源を学校教育へ取り込んでいます。

地域独自の資源と教育を組み合わせることで、住宅価格だけではない居住地の魅力をつくることができます。

交通が仕事と生活をつなぐ

都市近郊では交通インフラも重要です。

流山市の人口増加では、2005年に開業したつくばエクスプレスが大きな役割を果たしました。

東京都心へ通勤できるため、仕事を変えずに流山市へ住むことができます。

地方でも交通は重要です。

東川町は旭川空港に近く、リモートワークをしながら必要なときに都市部へ移動するという働き方がしやすくなります。

交通の役割は単に移動時間を短くすることではありません。

仕事を維持したまま住める地域の範囲を広げることにあります。

日常生活が成立することも重要になる

移住は旅行ではありません。

毎日の生活が続きます。

食料品を買う場所が必要です。

病院や診療所も必要です。

子どもが遊べる場所も必要です。

行政手続きや子育て相談ができる場所も必要になります。

流山市では2024年度から子育て支援センターを毎年増設し、現在は15カ所あります。

子育て世帯を呼び込むだけでなく、その後も安心して暮らせる環境をつくることが定住につながります。

移住前に暮らしを体験できる仕組みも必要になる

地方移住の場合、地域の情報をホームページで調べるだけでは実際の生活は分かりません。

奈良県の奥大和では、移住希望者が地域の家庭に滞在する取り組みなどが行われています。

2022年度から4年間で15組を受け入れ、そのうち6組が移住を決めました。

移住前に地域で暮らすことで、学校、仕事、買い物、人間関係などを確認できます。

自治体側にとっても、移住後のミスマッチを減らすことにつながります。

人口を呼び込むだけでなく、長く住んでもらうための仕組みです。

人口を増やすことと定住してもらうことは違う

住宅開発によって短期間に人口を増やすことはできます。

しかし、その人たちが長く住み続けるかどうかは別の問題です。

子どもが成長した後も住みたいと思えるのか。

親の働き方が変わっても暮らせるのか。

住宅が古くなった後も地域の魅力があるのか。

一時的な人口増加だけを目標にすると、数十年後に同じ世代が一斉に高齢化する可能性もあります。

人口政策では転入者数だけでなく、定住まで考える必要があります。

子育て世帯の奪い合いには限界がある

さらに大きな視点では注意が必要です。

ある自治体で子どもが増えても、別の自治体から移ってきただけであれば、日本全体の子どもの数が増えたわけではありません。

2026年1月1日時点の15歳未満人口は1,364万6,698人で、5年前より10.9%減っています。

子育て世帯の誘致は自治体の人口政策として重要ですが、国全体の少子化問題とは分けて考える必要があります。

自治体間で限られた子育て世帯を奪い合うだけでは、全国の子どもの減少そのものは止まりません。

地域政策と少子化対策は役割が違う

地域政策では、子育て世帯に選ばれる環境をつくることが重要です。

住宅、教育、保育、仕事、交通などを整えることで、人口流出を抑えたり転入を増やしたりできます。

一方、国全体の少子化対策では、結婚や出産を希望する人がその希望を実現しやすい社会をどうつくるかという問題があります。

所得や雇用、住宅費、教育費、子育て負担など、より広い政策が関係します。

自治体の人口増加と日本全体の出生数増加は同じではありません。

この違いを理解しておくことが重要です。

子育て政策を点ではなく面で考える

子育て世帯を呼び込む政策では、一つの目玉施策をつくりたくなります。

住宅補助を出す。

保育料を軽減する。

学校を新しくする。

移住支援金を支給する。

もちろん、それぞれ意味があります。

しかし家族の生活は一つの制度だけで成立しているわけではありません。

住む。

働く。

預ける。

学ぶ。

移動する。

買い物をする。

地域の人と関わる。

こうした生活全体を支えられるかどうかが重要です。

結論

子育て世帯を呼び込むために、住宅は欠かせません。

しかし住宅だけでは人口を増やし続けることはできません。

流山市では、つくばエクスプレス、住宅開発、保育所、駅前送迎保育ステーション、子育て支援センターを組み合わせています。

北海道東川町では、特徴ある学校教育とリモートワーク、旭川空港へのアクセスが組み合わさっています。

奈良県川上村では、少人数教育や地域の自然が移住理由になっています。

つくば市では、約2万人の研究者という地域資源を教育に結び付けています。

共通しているのは、一つの政策だけで子育て世帯を呼び込もうとしていないことです。

住宅があり、仕事を続けられ、子どもを預けられ、魅力ある学校があり、日常生活を送れる。

こうした条件がつながって初めて、子育て世帯にとって「住める街」から「住みたい街」へ変わります。

人口政策で重要なのは、住宅を何戸つくったかだけではありません。

そこで家族がどのような生活を送れるのかまで設計することなのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月19日 朝刊 教育移住で子ども増 奈良の山村など48自治体

日本経済新聞 2026年9月19日 朝刊 中央区、子ども増に対応 晴海の小学校、新校舎急ぐ

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