生命保険を解約して、そのお金を投資信託へ移す動きがみられます。
2026年1月から6月に生命保険会社が支払った解約返戻金は7.2兆円となり、同期間として2020年以降で過去最高になりました。
一方、2026年4月から6月期には投資信託へ3.9兆円の資金が流入しています。
新NISAの普及によって投資信託が身近になり、貯蓄目的で加入していた保険を見直して、より高い収益を期待できる金融商品へ資金を移す人もいます。
しかし、保険を解約して投資信託へ移せば得になると単純に考えることはできません。
保険と投資信託では、そもそもの役割が違うからです。
さらに保険を解約するときには、解約返戻金だけでなく、失われる保障や再加入の条件まで考える必要があります。
保険と投資信託は目的が違う
生命保険の重要な役割は保障です。
死亡などによって家族が大きな経済的損失を受ける場合に、保険金によってその損失を補います。
一方、投資信託は株式や債券などへ投資して資産形成を行う金融商品です。
投資した資金が値上がりする可能性がありますが、値下がりする可能性もあります。
生命保険を投資信託へ変更するということは、単純に金融商品を入れ替えるだけではありません。
保障を持つ商品から、価格変動を伴う資産形成商品へお金を移すことになります。
利回りだけなら投資信託が魅力的に見えることがある
貯蓄型保険と投資信託を比較すると、投資信託の方が高い収益を期待できる場合があります。
特に株式を中心に運用する投資信託では、長期的な企業成長や株価上昇の恩恵を受けることが期待できます。
新NISAを利用すれば、一定の条件を満たす運用益を非課税で受け取ることもできます。
そのため、資産形成だけを目的に比較すると、投資信託に魅力を感じる人がいるのは自然です。
ただし、期待できる収益と確実に受け取れる収益は同じではありません。
投資信託の収益は保証されていない
例えば100万円を株式型の投資信託へ投資したとします。
市場環境がよければ120万円や150万円になることがあります。
反対に株式市場が大幅に下落すれば、80万円や70万円になることもあります。
過去の運用実績が高かったとしても、将来も同じ収益が得られるとは限りません。
特に短期間で使う予定のお金を投資信託へ移すと、必要な時期に価格が下落している可能性があります。
利回りの高さだけでなく、価格変動を受け入れられる期間があるかどうかを考える必要があります。
解約返戻金が払込保険料を下回ることがある
保険を解約するときには、まず現在の解約返戻金を確認する必要があります。
例えば、これまでに保険料を300万円支払っていたとしても、解約返戻金が300万円とは限りません。
契約してからの期間や商品によっては、それより少ない金額になる場合があります。
特に契約から早い時期の解約では、払込保険料の累計を大きく下回ることがあります。
将来の運用利回りだけを見て投資信託へ移しても、保険を解約した時点ですでに損失が発生していれば、それを取り戻すところから始めることになります。
解約すると保障もなくなる
貯蓄型保険を解約すると、受け取れるお金だけに目が向きがちです。
しかし、同時に失うものがあります。
保障です。
例えば死亡保障1000万円の生命保険を解約すれば、原則としてその契約による1000万円の死亡保障もなくなります。
解約返戻金を投資信託へ移しても、投資信託に死亡保障が付くわけではありません。
家族に必要な保障が残っているのであれば、別の方法でその保障を確保する必要があります。
新しい保険へ入り直せるとは限らない
現在の保険を解約してから、必要になったら再び保険へ加入すればよいと考えることもあります。
しかし、生命保険は新しく加入するときの条件が重要です。
年齢が上がれば、一般的に同じ保障でも保険料が高くなる場合があります。
また、加入時にはその時点の条件による審査などがあります。
以前と同じ条件で加入できるとは限りません。
現在持っている保険を解約するということは、契約時に確保した条件を手放すことでもあります。
古い保険には有利な条件が残っている場合がある
古い保険だから見直した方がよいとも限りません。
生命保険の中には、市場金利が現在より高かった時期に契約されたものがあります。
そのような保険には、現在では得にくい高い予定利率が設定されている場合があります。
契約当時の条件が長期間維持される商品であれば、現在の金利環境だけを見て解約すると有利な条件を失う可能性があります。
逆に低金利時代に契約した保険については、新しい商品と比較する余地がある場合があります。
加入時期と契約条件を確認することが重要です。
税金の扱いも確認する必要がある
保険の解約返戻金を受け取った場合、契約形態や受取額などによって税金が関係することがあります。
一方、投資信託についても、通常は売却益や分配金などに税金がかかります。
新NISAを利用する場合には、制度の範囲内で一定の運用益が非課税になります。
保険と投資信託では税制上の扱いも同じではありません。
単純な表面上の利回りだけではなく、税引き後でどれだけのお金が残るのかという視点も必要です。
一部だけ見直す方法もある
保険を見直すというと、現在の契約をすべて解約するか、そのまま続けるかという2つの選択肢だけを考えがちです。
しかし、家計によっては保障を確保しながら資産形成の方法を変える考え方もあります。
まず、現在必要な保障額を確認します。
その保障を確保するために必要な保険を残します。
そのうえで、長期間使う予定のない余裕資金について投資信託などを利用します。
保障と資産形成を分けて考えることで、保険か投資かという二者択一を避けることができます。
判断する順番が重要になる
保険を解約するか考えるときには、最初に投資信託の期待利回りを見るのではなく、現在の保険契約を確認することが重要です。
現在の死亡保障などはいくらあるのか。
その保障は今も必要なのか。
これまで支払った保険料はいくらなのか。
現在の解約返戻金はいくらなのか。
予定利率などの契約条件はどうなっているのか。
解約後に必要な保障をどう確保するのか。
そのうえで、資産形成に回せるお金を考えます。
この順番なら、投資を増やすために必要な保障まで失うことを防ぎやすくなります。
結論
保険を解約して投資信託へ資金を移せば、必ず得になるわけではありません。
投資信託には長期的な資産成長を期待できる一方、市場価格の変動によって元本を下回る可能性があります。
生命保険には投資信託にはない保障機能があります。
さらに途中解約によって解約返戻金が払込保険料を下回ったり、有利な予定利率を持つ契約を手放したりする可能性もあります。
2026年1月から6月の生命保険の解約返戻金は7.2兆円となり、同期間で過去最高になりました。
同時に投資信託への資金流入も拡大しています。
家計のお金の置き場所が変わる中で大切なのは、利回りの高低だけで金融商品を入れ替えないことです。
まず必要な保障を確認する。
次に現在の保険を解約した場合の条件を確認する。
そのうえで長期間使わない資金を資産形成へ振り向ける。
保険と投資信託を競争相手として考えるのではなく、保障と資産形成という異なる役割を持つ金融商品として考えることが重要です。
参考
日本経済新聞 2026年9月18日 朝刊 家計、株式・投信へシフト