日本の家計のお金の持ち方が変わり始めています。
その変化を象徴する考え方の1つが、投資は証券、保障は保険という金融商品の役割分担です。
これまで生命保険は、万一への保障だけでなく、将来のためのお金を蓄える手段としても広く利用されてきました。
しかし、新NISAの普及などによって、株式や投資信託を利用した資産形成が身近になっています。
その結果、資産を増やす目的には証券商品を使い、死亡などの大きなリスクへの備えには保険を使うという考え方が若い世代を中心に広がっています。
これは保険が不要になるという話ではありません。
金融商品ごとの役割を明確にして使い分けるという変化です。
証券と保険はそもそも役割が違う
株式や投資信託などの証券商品は、主として資産形成に利用されます。
投資したお金を株式や債券などで運用し、その値上がりや配当などによって資産を増やすことを目指します。
一方、生命保険の重要な役割は保障です。
死亡や病気など、自分の貯蓄だけでは対応することが難しい大きな経済的リスクに備えます。
証券は将来の資産をつくるための商品です。
保険は将来起こるか分からない大きな損失に備えるための商品です。
この違いを理解することが役割分担の出発点になります。
保険は少ない資金で大きなリスクに備えられる
生命保険には、投資信託にはない特徴があります。
例えば家族の生活を支えている人が死亡した場合、残された家族には長期間にわたる生活費が必要になることがあります。
必要な金額が3000万円だとしても、すぐに3000万円を貯蓄できるわけではありません。
そこで生命保険を利用します。
契約条件に応じた保険料を支払うことで、契約後の早い段階から一定額の死亡保障を確保することができます。
多数の契約者でリスクを分担する保険だからできる仕組みです。
投資は時間をかけて資産をつくる
一方、投資信託などによる資産形成は基本的に時間をかけて行います。
例えば毎月5万円を積み立てれば、年間の投資額は60万円です。
10年間では元本だけで600万円になります。
その間の運用成果によって、資産額は600万円より多くなる場合も少なくなる場合もあります。
投資には資産を成長させる可能性がありますが、始めた直後から数千万円の資産を確保できるわけではありません。
そのため、資産が十分に形成されるまでの大きなリスクを保険で補うという考え方ができます。
若い世代ほど保障が必要になる場合もある
若いから生命保険は必要ないとは限りません。
重要なのは年齢ではなく、万一のときに経済的に困る人がいるかどうかです。
独身で扶養する家族がおらず、十分な金融資産がある人なら、大きな死亡保障が必要ない場合があります。
一方、若くても子どもがいて、家族の生活費を主に負担している場合には、死亡したときの経済的影響が大きくなります。
必要な保障額は、年齢だけで決めるものではありません。
家族構成や収入、金融資産などによって変わります。
新NISAが資産形成の選択肢を広げた
2024年に始まった新NISAは、家計が証券商品を利用する大きなきっかけになりました。
一定の条件を満たす投資による利益を非課税で保有できます。
投資信託を毎月一定額ずつ購入する積立投資にも利用できます。
2026年4月から6月期には、投資信託へ3.9兆円の資金が流入しました。
6月にはETFを除く公募株式投信の設定額が6兆3958億円となり、過去最高を記録しています。
証券商品を使って長期的な資産形成を行う仕組みが、家計の中に入り始めています。
金融リテラシーの変化も影響する
家計の投資行動が変わっている背景には、制度だけでなく金融に対する考え方の変化もあります。
記事では、若い世代を中心に投資は証券、保障は保険という金融商品の使い分けが進んでいるとの指摘があります。
投資は危険だから避けるという考え方から、リスクを理解したうえで長期的な資産形成に利用するという考え方への変化です。
同時に、保険についても貯蓄商品としてだけではなく、保障を購入する商品として考える人が増えているとみられます。
金融商品の役割を理解して選択する動きです。
貯蓄型保険から投資信託へ動く場合もある
これまで資産形成のために貯蓄型保険を利用していた家計もあります。
しかし、新NISAなどによって投資信託を利用しやすくなったことで、資産形成部分を証券商品へ移す選択肢が広がりました。
2026年1月から6月に生命保険会社が支払った解約返戻金は7.2兆円となり、同期間として2020年以降で過去最高でした。
その中には、貯蓄目的の保険を見直し、より高い収益を期待して投資信託などへ資金を移す動きもあるとされています。
ただし、解約返戻金のすべてが投資へ向かったわけではありません。
保険を減らして投資を増やせばよいわけではない
役割分担という考え方を、保険を減らして投資を増やすことだと理解するのは適切ではありません。
必要な保障まで削減してしまえば、万一のときに家族の生活を守れない可能性があります。
一方、必要以上に大きな保障を持ち続ければ、保険料負担によって資産形成へ回せるお金が少なくなる場合があります。
まず必要な保障を考え、そのうえで長期的に使わない資金を投資へ回すという順番が重要です。
資産が増えれば必要な保障も変わる
保険と投資の役割分担は、一度決めたら一生同じではありません。
若い時期には金融資産が少ないため、大きな死亡保障が必要になる場合があります。
その後、積立投資や貯蓄によって金融資産が増え、住宅ローンが減り、子どもが独立すれば、家族が必要とする保障額も変わります。
自分の資産で対応できるリスクが増えれば、保険で備える必要のある部分が小さくなることがあります。
資産形成と保障は別々のものですが、家計全体では互いに関係しています。
商品ではなく目的から考える
金融商品を選ぶときには、最初に株式、投資信託、生命保険のどれを買うかを決める必要はありません。
先に目的を考えます。
突然の死亡による家族の生活費を準備したいのであれば、保障を考えます。
10年後や20年後の老後資金を準備したいのであれば、長期的な資産形成を考えます。
数年以内に使うお金なら、価格変動の小さい現預金を中心に考える方法があります。
目的が決まれば、それに適した金融商品を選びやすくなります。
結論
投資は証券、保障は保険という考え方は、金融商品を目的によって使い分けるということです。
株式や投資信託は、価格変動を受け入れながら長期間かけて資産を形成するために利用できます。
生命保険は、死亡などによって発生する大きな経済的損失に備えるために利用できます。
新NISAの普及によって投資信託などを使った資産形成が身近になり、若い世代を中心に両者の役割を分けて考える動きが広がっています。
ただし、これは保険をやめて投資へ移ればよいという意味ではありません。
必要な保障額は家族構成や収入、保有資産によって異なります。
資産形成が進めば必要な保障も変化します。
重要なのは、商品を先に選ぶことではありません。
何のためのお金なのかを最初に考え、資産形成には証券、万一への備えには保険、近く使うお金には現預金というように、それぞれの役割を整理することです。
金融商品の役割が明確になれば、家計全体のお金の持ち方も考えやすくなります。
参考
日本経済新聞 2026年9月18日 朝刊 家計、株式・投信へシフト