NISAというと、株式や投資信託を購入する制度というイメージが強いと思います。
そのNISAの対象に国債を加えてはどうかという議論が出ています。
令和9年度税制改正要望では、財務省と金融庁が国債に関する税制の検討を掲げました。
具体的な税制措置はまだ決まっていませんが、その選択肢として注目されているのが国債のNISA対象化です。
なぜ今、国債をNISAで買えるようにするという議論が出ているのでしょうか。
NISAで国債を買うとはどういうことか
NISAは、制度の対象となる金融商品から得られる利益を一定の範囲で非課税にする仕組みです。
現在のNISAでは、株式や投資信託などが主要な対象商品となっています。
ここに一定の国債を加えれば、NISA口座を利用して国債を保有するという選択肢が生まれます。
国債は国が資金を調達するために発行する債券です。
投資家は国債を購入し、条件に応じて利子を受け取り、満期まで保有すれば原則として額面金額の償還を受けます。
株式とは異なる性格の金融商品をNISAに組み込むことになるわけです。
なぜ今になって国債なのか
背景の一つに金利環境の変化があります。
長期間にわたって金利が極めて低い状況では、個人にとって国債の利回りは大きな魅力になりにくいものでした。
しかし、金利のある環境になれば事情は変わります。
元本の値動きをできるだけ抑えながら利子を受け取りたい人にとって、国債は資産形成の選択肢の一つになります。
特に資産全体を株式だけで保有したくない人にとっては、異なる性格を持つ資産を組み合わせる意味があります。
国が国債の保有者を増やしたい理由
国債のNISA対象化には、個人の資産形成とは別の視点もあります。
国は毎年度、多額の国債を発行しています。
その国債を誰が保有するのかは、国債市場の安定を考えるうえで重要です。
金融機関など特定の投資家だけに保有が偏るのではなく、個人を含む幅広い投資家が国債を保有することができれば、国債保有者層の多様化につながります。
今回の税制改正要望でも、国債を安定的に発行し、消化していくための環境整備が重要な背景となっています。
個人向け国債の商品性の見直しなどと合わせて、税制面からも国債を保有しやすくできないかという議論です。
NISAに入れば何が変わるのか
国債から受け取る利子には通常税金がかかります。
仮に一定の国債がNISAの対象となり、その利子がNISAの非課税対象となれば、税引き後で受け取れる金額は増えることになります。
金利が低いときには、この違いはそれほど大きく感じられないかもしれません。
しかし、金利が上昇すれば、利子に対する税負担の有無も無視できなくなります。
そのため、NISA対象化は個人に国債を保有してもらうための魅力向上策の一つになり得ます。
株式と国債では役割が違う
国債をNISAに加える議論で重要なのは、株式と国債を同じ投資商品として考えないことです。
株式は企業の成長による値上がりや配当などを期待する資産です。
一方、国債はあらかじめ決められた条件に基づいて利子や償還を受ける債券です。
リスクや期待できる収益の性格が異なります。
そのため、NISAに国債が加われば、非課税制度の中で株式や投資信託だけでなく、債券を組み合わせた資産配分を考えやすくなる可能性があります。
高齢者との相性も論点になる
資産形成では、年齢によって求めるものが変わる場合があります。
若い時期には長期間の運用を前提として価格変動のある資産を多く持つことができます。
一方、資産を取り崩す時期が近づけば、大きな値下がりを避けたいという需要が強くなることがあります。
その場合、株式だけではなく預貯金や債券などを組み合わせる考え方が出てきます。
国債がNISAの対象になれば、NISAを若年層の積立投資だけではなく、高齢期を含む幅広い世代の資産管理に利用するという議論にもつながります。
貯蓄から投資へとの関係も難しい
一方で、国債をNISAの対象にすることには検討すべき問題があります。
これまでNISAは、家計の資金を預貯金から株式や投資信託などの投資へ動かし、長期的な資産形成を促す政策の一つとして拡充されてきました。
国債まで対象にすると、この政策との関係をどのように整理するのかという問題が出てきます。
さらにNISAには非課税投資枠があります。
その枠を国債購入に利用できるようにすることが、NISA本来の政策目的に合うのかという議論も必要になります。
国債をNISAで買えると決まったわけではない
ここは特に注意が必要です。
令和9年度税制改正要望で示されているのは、国債に関する税制を検討するという段階です。
国債のNISA対象化が正式に決定したわけではありません。
どの国債を対象にするのか。
NISAのどの投資枠で利用できるようにするのか。
非課税投資枠をどのように扱うのか。
こうした具体的な制度設計も今後の論点になります。
したがって、現時点では国債のNISA対象化を前提に資産運用を考えるのではなく、税制改正の議論を見ていく必要があります。
家計と国の双方に意味を持つ制度
国債のNISA対象化が興味深いのは、一つの税制に二つの政策目的が重なる可能性があることです。
家計側から見れば、資産形成の選択肢を増やす制度です。
国側から見れば、個人を含む幅広い投資家に国債を保有してもらうための制度になり得ます。
家計の資産形成と国債の安定的な保有者確保を、一つの税制でどこまで両立させることができるのか。
これが今回の議論を見る重要なポイントです。
結論
令和9年度税制改正要望では、財務省と金融庁が国債に関する税制の検討を掲げています。
その具体策として議論されている選択肢の一つが、国債をNISAの対象にすることです。
金利のある環境になれば、国債は個人にとっても資産運用の選択肢として存在感を増します。
一方、国にとっては個人を含む国債保有者層を広げ、国債市場の安定につなげたいという目的があります。
ただし、国債のNISA対象化はまだ決定事項ではありません。
NISAの政策目的との整合性や対象となる国債、非課税枠の使い方など、検討すべき問題があります。
国債をNISAで買えるようになるのかという問題は、単なる金融商品の追加ではありません。
家計の資産形成政策と国の資金調達政策が交わる税制改正として、今後の具体的な制度設計に注目する必要があります。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 各省庁の9年度税制改正要望が出そろう、エッセンシャルサービス確保の特例に税制上の軽減措置を