東京都心を中心に新築マンション価格の高騰が続くなか、住宅を実際に必要とする人が購入しにくくなることへの問題意識が強まっています。
そこで令和9年度税制改正要望では、国土交通省が実需に基づかない投機的取引を抑制するための方策について、必要な検討を行い、所要の措置を講じることを求めました。
特に意識されているのが、都心の大規模マンションなどでみられる短期売買です。
ただし、具体的にどのような税制措置を導入するのかは現段階では示されていません。
今回は、なぜマンションの短期売買が問題になっているのか、税制にはどのような役割があるのかを整理します。
実需と投機は何が違うのか
住宅の実需とは、自分や家族が実際に住むために住宅を購入する需要を指します。
一方、投資目的で住宅を購入する場合には、賃料収入や将来の値上がり益を期待します。
さらに、短期間で価格が上昇すると予想して購入し、値上がりしたところで売却する取引も考えられます。
同じマンション購入でも、住むために購入するのか、資産運用のために購入するのかでは目的が異なります。
今回の税制改正要望で問題意識が示されているのは、主として実需に基づかない投機的な取引です。
なぜ短期売買が問題になるのか
マンションを購入して短期間で売却すること自体が直ちに問題というわけではありません。
転勤や家族構成の変化などによって、購入後すぐに売却する必要が生じる場合もあります。
問題になるのは、値上がりを前提とした取引が大量に行われることで住宅価格に影響を与える可能性がある場合です。
人気物件に投資目的の購入が集中すれば、自分で住むために住宅を探している人と購入希望者が競合します。
限られた住宅を多くの人が購入しようとすれば、価格には上昇圧力がかかります。
住宅が住むための財であると同時に、投資対象でもあることから生じる問題です。
タワーマンションが注目されやすい理由
特に注目されるのが都心の大規模マンションです。
立地条件が良く、供給戸数が限られ、将来の価格上昇への期待が強い物件では、実際に住む人だけではなく投資目的の購入者も集まりやすくなります。
新築時の販売価格より中古市場で高く売れる状況が続けば、購入時点から転売益を狙う動きも出やすくなります。
その結果、住宅としての価値だけではなく、短期的な値上がり期待が価格形成に影響する可能性があります。
今回の要望では具体的な物件種類までは制度化されていませんが、都心の大規模マンションを中心とする短期売買が背景の一つとして意識されています。
日本にはすでに短期売却への税制がある
不動産の売却益に対する税金は、所有期間によって異なります。
個人が土地や建物を売却した場合、一定の基準による所有期間が5年を超えるかどうかによって、長期譲渡所得と短期譲渡所得に区分されます。
短期譲渡所得には、長期譲渡所得より高い税率が設定されています。
つまり、日本の税制にはすでに不動産の短期売却に対して税負担を重くする仕組みがあります。
それでもマンションの短期売買が政策課題になるのであれば、既存制度だけで十分なのかという問題が出てきます。
どのような税制になるかはまだ分からない
ここで注意したいのは、今回の要望には具体的な税制措置が記載されていないことです。
短期売却への課税をさらに強化するのか。
取得段階の税制を見直すのか。
住宅関連の特例について投資目的と居住目的をより明確に区別するのか。
現時点では決まっていません。
したがって、タワーマンションに新しい税金が導入されると決まったと考えるのは早計です。
令和9年度税制改正の議論を通じて、具体的な制度が示されるかどうかを見る必要があります。
投資と投機の線引きは難しい
制度設計で難しいのが、正常な不動産投資と政策上抑制したい投機的取引をどう区別するかです。
賃貸住宅を供給するためにマンションを購入する投資家もいます。
中古住宅市場では、投資家による売買が市場の流動性を高める面もあります。
また、自宅として購入した人が仕事の事情などで短期間に売却することもあります。
単純に所有期間だけで投機と判断すると、本来抑制する必要のない取引まで影響を受ける可能性があります。
税制を導入する場合には、どの取引を対象にするのかという線引きが大きな課題になります。
税制だけでマンション価格は決まらない
マンション価格の高騰には、さまざまな要因があります。
建築費や人件費、土地価格、金利、住宅供給量、購入者の所得、投資資金の流入などが複雑に影響します。
投機的取引を抑制したとしても、それだけでマンション価格が大幅に下がるとは限りません。
特に都心部では土地の供給に限界があり、利便性の高い住宅への需要が強ければ価格が高止まりする可能性があります。
税制は価格高騰対策の一つの手段ですが、住宅供給など他の政策と合わせて考える必要があります。
住宅は住む場所か投資資産か
今回の議論の根底には、住宅の二つの性格があります。
住宅は人が暮らすための生活基盤です。
一方、不動産という資産でもあり、売却益や賃料収入を得る投資対象にもなります。
価格が安定しているときには、この二つの性格が大きな問題にならないこともあります。
しかし、価格が急激に上昇すると、資産として購入する人と住むために購入する人が競合します。
住宅政策としてどちらをどこまで優先するのかが問われることになります。
結論
令和9年度税制改正要望では、国土交通省が新築マンション価格の高騰を踏まえ、実需に基づかない投機的取引を抑制するための方策について税制を含めた検討を求めています。
背景には、都心の大規模マンションなどで短期売買が増えることで、実際に住むために住宅を購入したい人への影響が懸念されていることがあります。
ただし、現段階では具体的な税制措置は決まっていません。
さらにマンション価格は、投機的取引だけではなく土地価格や建築費、供給量など多くの要因によって決まります。
重要なのは、マンション価格が上がっているという結果だけを見るのではなく、誰が何の目的で購入し、どのような取引が価格形成に影響しているのかを見極めることです。
令和9年度税制改正では、住宅という生活基盤と不動産という投資資産を税制上どのように整理するのかが注目されます。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 各省庁の9年度税制改正要望が出そろう、エッセンシャルサービス確保の特例に税制上の軽減措置を