民事信託で取得した空き家も特例対象になるのか 相続と家族信託の税制上の違い編

税理士
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高齢になった親の財産管理に備えて、家族信託などの民事信託を利用する家庭があります。

ところが、相続対策として民事信託を利用するときには、税制上の扱いにも注意が必要です。

似たような形で親の住宅を子どもが引き継いだとしても、相続によって取得した場合と、信託契約の終了によって取得した場合では、税制上の特例の適用関係が異なることがあるからです。

令和9年度税制改正要望では、国土交通省が相続空き家の3000万円特別控除について、相続や遺贈と同視できる一定の民事信託契約の終了によって家屋や敷地などを取得した場合も対象に加えることを求めています。

民事信託とは何か

民事信託とは、財産を持つ人が信頼できる人に財産の管理や処分などを任せる仕組みです。

家族の間で利用されるものは、一般に家族信託と呼ばれることがあります。

たとえば親が所有している不動産について、将来、自分で管理することが難しくなった場合に備えて、子どもを受託者として管理を任せることが考えられます。

財産そのものを単純に子どもへ贈与する仕組みとは異なります。

誰が財産を管理するのか、誰がその財産から利益を受けるのか、信託が終了したときに誰が財産を取得するのかなどを信託契約で定めます。

相続と民事信託では財産の移り方が違う

通常の相続では、所有者が亡くなると、その財産を相続人などが承継します。

一方、民事信託を利用している場合には、信託契約で定められた条件によって信託が終了し、その契約内容に従って残った財産が帰属する人に移ることがあります。

最終的には子どもが親の住宅を取得するという点では似ていても、法律上の財産移転の仕組みは同じではありません。

この違いが税制上の特例を利用できるかどうかに影響する場合があります。

空き家3000万円特別控除との関係

相続空き家の3000万円特別控除は、一定の要件を満たした被相続人の居住用家屋やその敷地などを相続または遺贈によって取得し、売却した場合に利用できる制度です。

制度の入口に相続や遺贈という取得原因があります。

そのため、経済的には相続に近い形で住宅を取得したとしても、民事信託契約の終了によって取得した場合には、現在の制度上そのまま同じ扱いになるとは限りません。

ここに制度上の差が生じます。

国土交通省が対象拡大を要望

令和9年度税制改正要望では、この点を見直すことが求められています。

国土交通省は、相続や遺贈と同視し得る民事信託契約の終了に伴って家屋や敷地などを取得した場合についても、空き家特例の対象に加えることを要望しています。

ポイントは、すべての民事信託を無条件に対象とするという話ではないことです。

相続や遺贈と同視し得る場合という考え方が示されています。

どのような信託契約がこれに該当するのかは、制度が具体化する場合の重要な確認事項になります。

なぜ見直しが必要なのか

空き家特例の目的は、相続をきっかけとして利用されなくなった住宅が放置されることを防ぐことです。

ところが、親が生前に民事信託を利用していたという理由だけで、実質的に同じような空き家が特例の対象外になるのであれば、制度目的とのずれが生じる可能性があります。

重要なのは、財産を取得した法律上の形式だけではありません。

親が住んでいた住宅が、その後利用されずに空き家となることをどう防ぐかという政策目的があります。

今回の要望は、民事信託の普及によって生じてきた実務と税制のずれを調整しようとするものと見ることができます。

家族信託をすれば相続税対策になるとは限らない

家族信託という言葉から、相続税を節税できる制度だと思われることがあります。

しかし、民事信託は本来、財産管理や財産承継の仕組みです。

信託を設定しただけで、自動的に相続税が安くなるわけではありません。

また、税制上の特例についても、信託を利用していない場合と完全に同じ扱いになるとは限りません。

民事信託を利用するときには、財産管理上のメリットだけでなく、所得税、相続税、贈与税、不動産に関係する税金などを個別に確認する必要があります。

契約終了時まで考えて設計する

民事信託では、契約を始めるときだけを見るのではなく、最後に財産がどうなるのかまで考えておくことが重要です。

親が亡くなった場合に信託は終了するのか。

その後、不動産を誰が取得するのか。

取得した人はその住宅に住むのか。

売却する可能性があるのか。

こうした出口まで考えなければ、信託終了後に想定していなかった税務上の問題が出てくる可能性があります。

特に実家については、将来空き家になる可能性まで含めて考える必要があります。

税制が家族の財産管理の変化に追いつくか

高齢化が進むと、本人が元気なうちから将来の財産管理を準備する必要性が高まります。

その選択肢の一つとして民事信託が利用されるのであれば、相続を前提につくられてきた税制との間に新しい問題が生じることもあります。

今回の空き家特例の要望は、その一例です。

制度の目的が同じであれば、財産承継の方法が違うだけで大きな税負担の差が生じることが適切なのか。

令和9年度税制改正では、こうした観点も検討されることになります。

結論

民事信託は、高齢になった親などの財産を家族が管理し、将来の財産承継まで設計できる仕組みです。

しかし、相続と民事信託では法律上の財産移転の方法が異なるため、税制上の特例について同じ扱いにならない場合があります。

相続空き家の3000万円特別控除も、その一つです。

令和9年度税制改正要望では、相続や遺贈と同視し得る民事信託契約の終了によって家屋や敷地などを取得した場合について、特例の対象に加えることが求められています。

重要なのは、家族信託を契約することだけではありません。

信託が終了した後に誰が財産を取得し、その財産をどうするのかまで考えて設計することです。

高齢社会で財産管理の方法が多様化するなか、税制も従来の相続だけを前提とした仕組みからどこまで対応できるのかが注目されます。

参考

税のしるべ 2026年9月7日 各省庁の9年度税制改正要望が出そろう、エッセンシャルサービス確保の特例に税制上の軽減措置を

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