人口減少が進む地域では、スーパーや小売店など生活に必要不可欠なサービスを維持することが難しくなっています。
令和9年度税制改正要望では、経済産業省が地域における生活環境の維持に必要なサービスを確保するため、新たな税制上の特例を求めています。
注目したいのは、単に法人税を軽くするという話ではないことです。
要望では、登録免許税、不動産取得税、固定資産税という、不動産などを取得し保有するときに発生する税負担の軽減が挙げられています。
なぜこの三つの税金が対象になるのでしょうか。
初期負担と継続的負担がある
店舗などの事業拠点を整備するときには、物件そのものの購入代金だけを考えればよいわけではありません。
不動産を取得したり登記したりすれば、それに伴う税負担が発生します。
さらに、取得した不動産を保有している間にも税負担があります。
今回の税制改正要望では、こうした負担を大きく二つに分けて考えています。
一つが初期負担です。
もう一つが継続的負担です。
登録免許税や不動産取得税は主として取得段階の負担となり、固定資産税は保有している間の継続的な負担になります。
登録免許税とは何か
土地や建物などの不動産を取得すると、所有権などについて登記を行います。
この登記の際に課税されるのが登録免許税です。
事業者が地域のサービスを維持するために不動産を取得した場合でも、原則として登記に伴う税負担が発生します。
大規模な事業再編などになれば、こうした初期負担も無視できません。
そこで一定の認定計画に基づいてエッセンシャルサービスを維持する事業者について、登録免許税を軽減することが今回の要望に盛り込まれています。
不動産取得税とは何か
不動産を取得すると、登録免許税とは別に不動産取得税が課税される場合があります。
名前のとおり、土地や建物などの不動産を取得したことに対して課される税金です。
登録免許税が登記に関係する国税であるのに対し、不動産取得税は都道府県税です。
同じ不動産の取得でも、それぞれ別の税金が関係してきます。
エッセンシャルサービスを維持するために必要な施設を取得する際、この負担を軽減できれば、事業再編などを進める際の初期コストを抑えることにつながります。
固定資産税は毎年の負担になる
登録免許税や不動産取得税と性格が異なるのが固定資産税です。
固定資産税は、土地や家屋などを所有している人に対して課される市町村税です。
基本的には不動産を保有している限り、毎年負担することになります。
ここがエッセンシャルサービスを考えるうえで重要です。
人口が減って売上が低下しても、保有する土地や建物に対する固定資産税が売上と同じ割合で減るわけではありません。
地域でサービスを続けるためには、こうした固定的な費用を継続的に負担する必要があります。
今回の要望では、この固定資産税についても軽減措置を講じることが求められています。
なぜ三つの税金を組み合わせるのか
仮に登録免許税だけを軽減したとします。
事業を始めたり再編したりする段階では負担が軽くなりますが、その後の固定資産税は毎年発生します。
反対に固定資産税だけを軽減しても、不動産を取得する段階で大きな負担が発生すれば、新たな事業再編に踏み切りにくいかもしれません。
そこで今回の要望では、初期負担と継続的負担の双方に対応しようとしています。
登録免許税と不動産取得税で入口の負担を軽くし、固定資産税でその後の負担を軽くするという考え方です。
税制を一つだけ見るのではなく、事業開始から継続までを一連の流れとして支援するところがポイントです。
税金を軽くすればサービスを維持できるのか
もっとも、税負担を軽減すれば、それだけで地域のスーパーなどを維持できるとは限りません。
人口減少による利用者の減少、人手不足、物流費や人件費の上昇など、地域の事業者が抱えている問題は複数あります。
税制は、そのすべてを解決できるものではありません。
そのため、今回の制度では税制だけではなく金融支援なども組み合わせることが想定されています。
事業運営そのものを効率化し、そのうえで初期負担や継続的負担を軽減するという考え方です。
誰でも減税されるわけではない
今回の税制改正要望を読む際には、もう一つ注意したい点があります。
地域で小売業を営んでいれば、すべての事業者の登録免許税や固定資産税が軽くなるという話ではありません。
産業競争力強化法の改正によって、エッセンシャルサービスの持続性確保に向けて事業運営の効率化を図る認定計画に金融支援などを講じる制度が創設される予定です。
今回の税制上の特例も、こうした政策の枠組みと結びついたものとして検討されています。
どの事業が対象になるのか、どの資産について軽減されるのか、軽減期間はどの程度になるのかなど、具体的な制度設計を今後確認する必要があります。
固定資産税を軽減する意味は大きい
三つの税金の中でも、地域サービスの継続という観点から注目したいのが固定資産税です。
固定資産税は毎年発生するため、長期間事業を続けるほど継続的なコストになります。
地域住民のために店舗を維持したくても、人口減少によって十分な売上を確保できなければ、固定的な負担が相対的に重くなります。
固定資産税を一定期間軽減する仕組みが設けられれば、事業者にとってサービスを維持するための一つの支援になります。
これは新しい企業を呼び込むための減税とは少し性格が違います。
すでに地域に存在している生活サービスを将来に残すための税制という側面があります。
結論
令和9年度税制改正要望では、エッセンシャルサービスを維持するため、登録免許税、不動産取得税、固定資産税の軽減措置が求められています。
登録免許税と不動産取得税は主として事業再編などの際に生じる初期負担、固定資産税は事業を続ける間の継続的負担という違いがあります。
この両方を軽減することで、地域で必要なサービスを持続しやすくしようという考え方です。
ただし、税制だけで人口減少地域の問題を解決できるわけではありません。
金融支援や事業運営の効率化などと組み合わせながら、限られた利用者でもサービスを維持できる仕組みをつくれるかが重要になります。
人口が減少する時代には、税制にも企業の成長を後押しする役割だけではなく、地域の生活基盤を維持する役割が求められるようになっているといえそうです。
参考
税のしるべ 2026年9月7日 各省庁の9年度税制改正要望が出そろう、エッセンシャルサービス確保の特例に税制上の軽減措置を