タワーマンションをはじめとする住宅価格の上昇が続くなか、これまでとは少し違った住宅ローンが登場しています。
それが2階建て住宅ローンです。
正式には期日一括返済併用型住宅ローンと呼ばれる仕組みで、住宅ローンの元金の一部を毎月返済せず、最終返済日にまとめて返します。
毎月の返済額を抑えられることから、高額な住宅を購入したい人にとって魅力的に見えます。
しかし、毎月の返済額が少ないことと、住宅ローンの負担そのものが小さいことは同じではありません。
仕組みを理解して利用することが重要です。
2階建て住宅ローンとは何か
通常の住宅ローンでは、借りた元金を返済期間中に少しずつ返していきます。
例えば35年ローンなら、基本的には35年間かけて元金を減らし、最後には残高をゼロにします。
これに対して2階建て住宅ローンでは、借入金を実質的に2つの部分に分けます。
1つは通常の住宅ローンと同じように毎月元金を返済していく部分です。
もう1つは元金の返済を最終返済日まで先送りする部分です。
ドコモSMTBネット銀行が提供する商品では、返済最終日に元金の50%を一括返済する仕組みとなっています。
つまり住宅ローンを完済するまで、かなり大きな元金が残り続けることになります。
なぜ毎月の返済額を減らせるのか
毎月の返済額を減らせる理由は単純です。
元金の半分を毎月返さなくてよいからです。
通常の住宅ローンでは元金と利息を毎月返していきます。
一方、2階建て住宅ローンでは、据え置いた部分については元金を返済せず、基本的に利息を負担します。
そのため毎月のキャッシュフローには余裕が生まれます。
住宅価格が高くなればなるほど、この違いは大きく感じられるでしょう。
特に東京都心のタワーマンションなどでは1億円を超える物件も珍しくありません。
月々の住宅ローン返済額を少しでも抑えたいという需要が出てくるのは自然なことです。
返済を免除されるわけではない
ここで最も注意したいのが、毎月返さなかった元金が消えるわけではないことです。
単純に返済時期を後ろへ移しているだけです。
元金の50%を据え置いた場合、その50%は最終返済日に残っています。
例えば1億円を借り、そのうち50%を最終返済まで据え置くと考えれば、最終的に5000万円という大きな元金を処理する必要があります。
実際の商品条件や返済方法は個別に確認する必要がありますが、重要なのは月々の返済額だけを見ないことです。
住宅ローンでは今月いくら払うのかだけでなく、最後にいくら残っているのかを見る必要があります。
金利も通常の住宅ローンより高くなる
月々の返済額を抑えられる一方、コスト面にも注意が必要です。
記事で紹介された商品では、通常の住宅ローンと比較して金利が0.35%上乗せされます。
さらに元金の一部を長期間返済しないため、その部分には長期間にわたって利息が発生します。
したがって、月々の返済額が少ないから経済的に得だとは限りません。
住宅ローンを見るときには、毎月返済額、適用金利、総返済額、最終返済時の残高をセットで確認する必要があります。
30代にも関心が広がっている
興味深いのは、こうした住宅ローンに若い世代も関心を示していることです。
金融機関側は当初、利用者の大半を40代以上と想定していました。
ところが実際には30代の検討者も全体の2割に達したとされています。
背景の1つに資産形成があります。
住宅ローンの毎月返済額を抑え、その分のお金をNISAなどを通じた投資へ回すという考え方です。
住宅ローンの返済を後ろへずらし、手元資金を運用するわけです。
一見すると合理的に見える戦略です。
ただし、ここには大切な前提があります。
投資の利益は確定していない
住宅ローンの返済義務は契約によって決まっています。
一方、投資によって得られる利益は確定していません。
例えば住宅ローンの返済を抑えて浮いた資金を投資信託へ積み立てても、最終返済時に十分な資産が形成されている保証はありません。
市場が大きく下落している可能性もあります。
つまり確定している将来の債務に対して、不確定な投資収益を充てようとする構造になります。
長期投資には資産形成の効果が期待できますが、住宅ローンの返済資金として考える場合には、通常の余裕資金による投資とは違ったリスク管理が必要になります。
最後はどうやって返すのか
2階建て住宅ローンを考えるうえで最も重要な質問は、最後に残った元金をどう返すのかです。
考えられる方法はいくつかあります。
長期間かけて金融資産を積み立て、その資金で返済する方法があります。
退職金などまとまった資金を利用する方法も考えられます。
そして住宅そのものを売却し、売却代金で住宅ローンを返済する方法もあります。
ただし、いずれにも不確実性があります。
投資資産の価格は変動します。
退職金も勤務先や働き方によって変わる可能性があります。
そして住宅価格も将来必ず上昇するとは限りません。
住宅価格が下がると問題が表面化する
特に注意したいのが住宅を売却して返済するケースです。
例えば最終返済時に5000万円の元金が残っているとします。
住宅を7000万円で売却できれば返済できます。
しかし住宅価格が下落し、4000万円でしか売れなければ1000万円不足します。
この不足分は自分の金融資産などから用意しなければなりません。
住宅価格が高い時期に大きなローンを組むほど、将来の売却価格との関係は重要になります。
住宅価格が上昇している間は目立ちにくいリスクですが、価格が下落したときに一気に表面化する可能性があります。
月々払える金額と借りてよい金額は違う
2階建て住宅ローンが広がると、これまでなら毎月返済額が大きすぎて購入できなかった住宅にも手が届くように見えるかもしれません。
ここには注意が必要です。
毎月の返済額を小さくする金融技術によって住宅そのものが安くなったわけではありません。
借金が減ったわけでもありません。
返済時期を将来へ移動させている部分があるだけです。
住宅購入では毎月払える金額から購入可能額を考えがちですが、本来は将来まで含めた総負担から考える必要があります。
金融商品が工夫されるほど、この違いは見えにくくなります。
利用者を選ぶ住宅ローン
2階建て住宅ローンそのものが悪い商品というわけではありません。
将来まとまった資金が入る見込みが高い人や、十分な金融資産を保有している人などにとっては、毎月のキャッシュフローを柔軟にできるメリットがあります。
問題は、毎月の返済額が少ないからという理由だけで利用することです。
住宅ローンの返済能力は現在の収入だけでは判断できません。
将来の収入、金融資産、退職時期、住宅価格、金利、売却可能性などを合わせて考える必要があります。
住宅ローンの商品が多様化することは、利用者にとって選択肢が増えることを意味します。
しかし選択肢が増えるほど、その仕組みを理解する力も必要になります。
結論
2階建て住宅ローンは、住宅ローンの元金の一部を最終返済日まで据え置くことで、月々の返済負担を抑える仕組みです。
ドコモSMTBネット銀行の商品では、元金の50%を最終返済日に一括返済します。
そのため毎月の返済額は小さくできますが、借金そのものが減るわけではありません。
最後には大きな元金が残ります。
さらに通常の住宅ローンより金利が上乗せされ、据え置いた元金には長期間利息がかかります。
大切なのは月々いくら払えるかだけで住宅購入を判断しないことです。
最後に残る住宅ローンを何によって返済するのか。
その出口まで決めて初めて、2階建て住宅ローンを安全に利用できるかどうかを考えることができます。
住宅ローンでは目の前の返済額だけでなく、30年後、35年後の残高まで見ることが重要です。
参考
日本経済新聞 2026年9月17日 朝刊 タワマン購入へ「2階建て」ローン、月々の負担減に落とし穴