事業承継税制があれば自社株評価は関係ないのか 納税猶予制度と株価評価を別々に考える理由編

税理士
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非上場株式の評価額が高くなると、事業承継時の相続税や贈与税の負担が問題になります。

そこでよく登場するのが事業承継税制です。

一定の要件を満たして後継者が非上場株式を相続や贈与によって取得した場合、その株式に対応する相続税や贈与税について納税猶予を受けられる制度です。

それなら、事業承継税制を使えば自社株がいくらになっても問題ないのでしょうか。

実際にはそう単純ではありません。

自社株をいくらと評価するのかという問題と、その株式にかかる税金をいつ納めるのかという問題は別だからです。

自社株評価は株式の税務上の価値を決めます

まず自社株評価の役割を確認します。

非上場株式には証券取引所で売買される市場価格がありません。

そのため相続や贈与があった場合には、税務上のルールに従って株式の評価額を計算します。

この評価額が相続税や贈与税を計算する基礎になります。

国税庁が現在検討している新ルール案は、この株式そのものの評価方法を見直そうとするものです。

簿価純資産と残余利益を使って会社の資産と収益力を評価する方向が示されています。

事業承継税制は税金の納付を猶予する制度です

一方、事業承継税制は株式の価値を決める制度ではありません。

一定の要件を満たした後継者が非上場株式を相続や贈与で取得した場合、その株式に対応する相続税や贈与税について納税を猶予する仕組みです。

つまり考える順番が違います。

まず非上場株式を税務上のルールで評価します。

その評価額などをもとに税額を計算します。

そして事業承継税制の要件を満たせば、対象となる税額について納税猶予を受けるという流れです。

自社株評価と納税猶予は別々の段階にある制度なのです。

納税猶予は非課税とは違います

事業承継税制を理解するときに重要なのが納税猶予という言葉です。

猶予とは、一定の要件のもとで税金の納付を先送りする仕組みです。

最初から株式の評価額をゼロにする制度ではありません。

また、単純に税金が最初から存在しなくなるという意味でもありません。

一定の事由が生じた場合には、猶予されていた税額を納付しなければならないことがあります。

一方で、その後一定の要件を満たせば猶予されている税額が免除される場合があります。

納税猶予と免除は区別して考える必要があります。

自社株が高ければ猶予される税額も大きくなります

例えば自社株の評価額が1億円の場合と10億円の場合を考えてみます。

他の条件が同じであれば、10億円の株式を承継する方が税額計算への影響は大きくなります。

事業承継税制を利用して対象税額の納税が猶予されたとしても、そもそもの自社株評価額が高ければ猶予税額も大きくなる可能性があります。

したがって、自社株評価額がいくらなのかという問題が消えるわけではありません。

どれだけの税額が制度によって猶予されているのかを把握するうえでも、自社株評価は重要です。

制度を使い続けるための管理も必要です

事業承継税制は、株式を相続した日に手続きをすればそれで終わりという制度ではありません。

適用を受けるための要件や手続きがあり、その後も一定の報告や管理が必要になります。

制度の適用から外れる事由が生じれば、猶予税額の納付が必要になる場合があります。

そのため、将来にわたって制度を利用することを前提に事業承継を設計する必要があります。

単に相続時の納税額だけを見て判断できる制度ではありません。

すべての株式問題を解決する制度ではありません

事業承継税制の対象になるのは、一定の要件を満たした非上場株式に関する相続税や贈与税です。

しかし事業承継には税金以外にも多くの問題があります。

例えば兄弟姉妹など他の相続人との遺産分割があります。

後継者へ自社株を集中させれば、他の相続人へどの財産を渡すのかという問題が生じます。

場合によっては後継者が代償金を支払う必要があります。

この資金は事業承継税制によって用意されるわけではありません。

株式の買い取りにも株価が関係します

自社株がすでに親族などへ分散している会社もあります。

後継者が安定した経営権を確保するため、他の株主から株式を買い取ることがあります。

この場合にも株式の価値が重要になります。

自社株評価額が高い会社では、株式を集約するために多額の資金が必要になる可能性があります。

事業承継税制は、こうした株式買い取り資金を直接軽減する制度ではありません。

したがって、自社株評価の問題は税金だけに限られません。

新ルールで株価が変われば影響も変わります

国税庁が検討している新ルール案では、会社によって自社株評価額が現在より下がる場合と上がる場合があるとみられています。

簿価純資産を使うことで、不動産の含み益が大きい会社では評価額が下がる可能性があります。

一方、残余利益を使って収益力を評価するため、高収益企業では評価額が上昇する可能性があります。

自社株評価額が変われば、事業承継税制を利用する場合の税額計算にも影響する可能性があります。

新しい評価制度と事業承継税制は別の制度ですが、実務では互いに無関係ではありません。

事業承継税制を使わない場合もあります

すべての企業が事業承継税制を利用するとは限りません。

会社や後継者の状況によっては、通常の相続や贈与によって株式を承継する場合もあります。

その場合、自社株評価額の変化はより直接的に税負担へ影響する可能性があります。

また、株式を一度に移すのか、時間をかけて承継するのかによっても考え方は変わります。

新しい株式評価制度を見るときには、事業承継税制を使う企業だけでなく、使わない企業への影響も考える必要があります。

評価と納税を分けて考えることが重要です

事業承継を考えるときには、少なくとも2つの問題を分けると分かりやすくなります。

1つは、自社株はいくらなのかという評価の問題です。

もう1つは、その評価額をもとに計算された税金をどのように納めるのかという納税の問題です。

国税庁が検討している新ルール案は主に前者を変えるものです。

事業承継税制は主に後者に関係します。

両者を混同すると、事業承継税制を使えば自社株評価を考えなくてもよいという誤解につながります。

結論

事業承継税制があるからといって、自社株評価が関係なくなるわけではありません。

自社株評価は、非上場株式が税務上いくらの価値を持つのかを決める仕組みです。

事業承継税制は、その株式の承継によって生じる一定の相続税や贈与税について納税を猶予する仕組みです。

株価を決める制度と税金の納付を猶予する制度は役割が違います。

さらに自社株評価額は、他の相続人との遺産分割や株式の買い取りなど、税金以外の事業承継問題にも関係します。

国税庁が検討している新ルールによって自社株評価額が大きく変われば、事業承継全体の設計にも影響する可能性があります。

これからの事業承継では、自社株がいくらになるのかと、その株式をどの制度を使って後継者へ移すのかを分けて考えることが重要です。

参考

日本経済新聞 2026年9月17日朝刊 非上場株の相続巡る新ルール案 中小の5割超、評価額減少

国税庁 事業承継税制の特例の概要

中小企業庁 法人版事業承継税制

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