株式投資では、配当金だけでなく株主優待を楽しみにしている個人投資家も少なくありません。
ところが最近は、社債でもこれに似た仕組みが登場しています。
企業が社債の利息を現金だけで支払うのではなく、自社のポイントや電子マネー、さらには商品やサービスの体験などを組み合わせる動きです。
背景にあるのが、ブロックチェーンを利用したデジタル社債の普及です。
デジタル社債とは何か
社債とは、企業が投資家からお金を借りるために発行する有価証券です。
投資家は企業にお金を貸し、その対価として利息を受け取り、満期になると原則として元本が返ってきます。
この基本的な仕組みはデジタル社債でも変わりません。
大きく違うのは、ブロックチェーンなどのデジタル技術を利用して社債の発行や保有者情報を管理できることです。
セキュリティートークン社債と呼ばれることもあります。
デジタル化によって、小口で販売したり、ポイントを付与したりするなど、従来より柔軟な商品設計が可能になっています。
ドンキの社債は実質利回り最大6パーセント
象徴的なのが、ドン・キホーテを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスのデジタル社債です。
2026年8月に償還した社債は期間1年で、現金による利率が0.3パーセント、ポイントによる利率が0.7パーセントでした。
合計すると1パーセントです。
さらに24歳以下の場合、5万円以上購入すると2500ポイントを受け取れる特典がありました。
24歳の投資家が5万円購入した場合、通常の利息やポイントと特典を合わせると実質3000円相当となり、投資額5万円に対して6パーセントに相当します。
ただし、ここでいう6パーセントはすべて現金で受け取れる利率ではありません。
ポイントや年齢条件付きの特典まで含めた実質的な数字であることには注意が必要です。
なぜ企業はポイントを付けるのか
企業側から見ると、デジタル社債は単なる資金調達手段ではありません。
マーケティングにも利用できます。
たとえばドンキで使えるポイントを受け取った投資家は、そのポイントを利用するために店舗を訪れる可能性があります。
社債を買ってもらうことが、その企業の商品やサービスを利用してもらうきっかけになるわけです。
株主優待と似た発想です。
特に消費者向けの商品やサービスを提供する企業にとっては、社債保有者を顧客として囲い込める可能性があります。
デジタル社債なら投資家の顔が見える
従来型の社債では、企業が社債を発行しても、実際に誰が保有しているのかを企業自身が直接把握しにくい仕組みになっています。
証券会社が販売し、銀行などが利払い事務を担うためです。
これに対してデジタル社債では、専用のプラットフォームを利用して企業が保有者情報を管理しやすくなります。
企業が自ら投資家を募集する自己募集との相性もよくなります。
つまり企業と社債保有者を直接つなぐことができるのです。
ここがデジタル社債の大きな特徴です。
丸井やトヨタも参入
同様の取り組みはほかの企業にも広がっています。
丸井グループはエポスカード会員を対象としたデジタル社債を複数回発行しています。
2026年に発行した社債では、現金による利率1.0パーセントに加えて、エポスポイント1.0パーセントが付与されました。
さらにカードの種類や提携サービスの利用状況によって追加ポイントを受け取れる仕組みもあります。
トヨタ自動車の金融子会社であるトヨタファイナンスも、2026年10月に1年物のデジタル社債を発行します。
利率は1.72パーセントで、条件を満たせばトヨタグループの電子マネーを最大4000ポイント受け取れます。
最低投資額10万円の場合、ポイントを含めた利回りは5.72パーセント相当になります。
募集金額10億円に対して10倍を超える応募があったことからも、個人投資家の関心の高さがうかがえます。
少額投資との相性がよい
従来の社債は、株式や投資信託と比べると個人投資家には少し距離のある金融商品でした。
デジタル社債はこの状況を変える可能性があります。
パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスの社債は1万円から購入できました。
少額化できれば、これまで社債を購入した経験のない若い世代にも対象を広げることができます。
日本のセキュリティートークン社債は、累計発行額ではまだ国内社債市場全体のごく一部ですが、個人向けの発行が中心となっています。
日本ではデジタル社債が個人投資家を開拓する金融商品として発展している点が特徴です。
実質利回りだけで判断しない
もっとも、ポイント込みで5パーセントや6パーセントという数字だけを見て投資判断をするのは注意が必要です。
社債は預金ではありません。
発行企業の信用状況が悪化すれば、利息や元本の支払いに影響する可能性があります。
またポイントには利用できる店舗やサービスが限定される場合があります。
自分が使わないポイントなら、額面通りの価値を感じられるとは限りません。
年齢やカード保有などの条件によって受け取れる特典が変わる商品もあります。
そのためデジタル社債を見るときには、現金でもらえる利率、ポイントでもらえる部分、特典を受けるための条件、満期までの期間、発行企業の信用力を分けて確認することが大切です。
社債が金融商品から顧客接点へ変わる
デジタル社債で興味深いのは、単に紙の社債をデジタル化しただけではないことです。
従来の社債は企業にとって資金調達の手段でした。
ところがデジタル社債では、投資家がそのまま自社の顧客にもなります。
ポイントを渡す。
店舗に来てもらう。
サービスを使ってもらう。
そして企業のファンになってもらう。
資金調達とマーケティングが一体化し始めています。
株式の世界で定着した株主優待に続き、社債にも優待のような仕組みが広がる可能性があります。
結論
金利のある世界が戻ったことで、個人のお金の置き場所は預金だけではなく、国債や社債へと広がっています。
そこへデジタル技術が加わり、社債そのものの姿も変わり始めました。
ポイントや電子マネーを組み合わせたデジタル社債は、企業にとっては資金調達と顧客獲得を同時に行える仕組みであり、個人にとっては少額から社債へ投資できる新しい選択肢です。
ただし、ポイント込みの実質利回りと現金で受け取る利率は同じではありません。
高い数字だけを見るのではなく、信用リスクや特典の条件まで含めて判断する必要があります。
デジタル社債の本当の新しさは、社債をデジタル化したことよりも、企業と投資家を直接つなぐ金融商品へ変えつつあることにあるのかもしれません。
参考
日本経済新聞 2026年9月16日 朝刊 ファイナンス新潮流 社債版「優待」で個人開拓