少子化対策というと、児童手当や保育料、教育費など、子育て世帯への経済的支援が注目されます。
子どもを育てる家庭の負担を軽くすることは重要です。
しかし、2025年の出生動向基本調査を見ると、日本の少子化は子どもが生まれた後だけの問題ではなくなっています。
18歳から34歳の未婚者で、一生結婚するつもりはないと答えた割合は男性24.0パーセント、女性21.5パーセントとなりました。
男女とも初めて2割を超えています。
児童手当は子どもが生まれた家庭を支援する制度です。
しかし、結婚や出産に至る前の若者には直接届きません。
児童手当には重要な役割がある
児童手当は、子育て世帯の経済的負担を軽くするための代表的な制度です。
子どもが生まれれば食費や衣服など様々な支出が増えます。
成長すれば教育関連の負担も増えていきます。
こうした家計を継続的に支える意味があります。
子どもを育てる家庭への支援を充実させること自体に問題があるわけではありません。
むしろ、理想の人数の子どもを持たない理由として、子育てや教育にお金がかかりすぎるという回答が52.9パーセントで最多だったことを考えれば、経済支援は欠かせません。
問題は、それだけで少子化のすべてに対応できるわけではないことです。
児童手当が届く前に少子化が始まっている
児童手当を受け取るためには、当然ながら子どもがいることが前提になります。
ところが現在の少子化では、その前の段階で変化が起きています。
いずれ結婚するつもりと答えた18歳から34歳の未婚者は、男性75.1パーセント、女性77.8パーセントでした。
初めて男女とも8割を下回っています。
つまり、子育て支援の対象になる前に、結婚そのものを希望しない人が増えています。
結婚しなければ児童手当の充実を意識する機会も少なくなります。
子どもが生まれた後の政策だけでは届かない層が広がっているのです。
結婚の壁には所得がある
現在は結婚を望んでいない人でも、条件が変われば結婚したいと考える可能性があります。
特に重要なのが所得や貯蓄です。
結婚希望に転じる可能性のある人のうち、収入や貯蓄の増加を要因として挙げた割合は男性56.1パーセント、女性44.6パーセントでした。
結婚する前から経済的不安が存在していることが分かります。
結婚すれば住居が必要になります。
新生活の費用もかかります。
さらに将来の出産や教育まで考えれば、長期間の家計を見通さなければなりません。
将来の所得に自信を持てなければ、結婚そのものをためらう可能性があります。
住居も子どもが生まれる前の問題
2025年の調査では、1年以内に結婚するとした場合のハードルとして資金面が最も多く、次に住居の問題が挙げられました。
住宅問題も児童手当だけでは解決できません。
結婚して二人で暮らせる住宅を確保できるのか。
将来子どもが増えても暮らせる広さがあるのか。
職場まで無理なく通勤できる場所なのか。
住宅価格や家賃が高ければ、結婚や出産を考える段階から家計への不安が大きくなります。
少子化対策と住宅政策を別々に考えられない理由です。
子どもが生まれた後にも別の壁がある
結婚して第1子を持つことができても、それで少子化問題が解決するわけではありません。
夫婦が予定する子どもの数は2025年に平均1.95人となり、初めて2人を下回りました。
第2子以降には別の壁があります。
教育費があります。
広い住宅が必要になることがあります。
育児時間も増えます。
夫婦とも仕事を続けられるかという問題もあります。
児童手当はこうした経済的負担の一部を軽減しますが、時間不足や長時間労働まで直接解消するものではありません。
少子化には段階がある
少子化対策を考えるときには、家庭形成をいくつかの段階に分けると分かりやすくなります。
まず、若者が将来の生活を描けることです。
次に結婚を希望する人がその希望を実現できることです。
そして第1子を希望する夫婦が子どもを持てることです。
さらに第2子、第3子を希望する家庭が、その人数を実現できることです。
それぞれの段階で壁は異なります。
所得、住居、出会い、出産、保育、教育費、働き方など、必要な政策も違います。
一つの給付制度だけですべての段階を支えることはできません。
結婚前から支えるという考え方
これから重要になるのは、子育て支援だけではなく家庭形成支援という視点です。
これは結婚を強制したり、結婚する人を優遇したりするという意味ではありません。
結婚したい人が経済的な理由で諦めなくてもよい環境をつくるということです。
若い時期から安定した所得を得られる。
無理のない負担で住居を確保できる。
結婚や出産をしても仕事を続けられる。
将来の教育費を見通せる。
こうした環境があれば、結婚や子育てを人生設計の中に入れやすくなります。
政策の順番も重要になる
子どもが生まれた後に大きな支援を用意しても、その制度を利用する段階まで若者が到達しなければ少子化への効果には限界があります。
結婚前。
結婚時。
妊娠や出産。
乳幼児期。
学校教育。
それぞれを切り離さず、人生の流れとして政策を考える必要があります。
子育て支援を減らして結婚前支援へ振り替えるという単純な話ではありません。
支援の入口をもっと前へ広げるという考え方です。
結論
児童手当は、子どもを育てる家庭の経済的負担を軽減する重要な制度です。
しかし、現在の少子化は子どもが生まれる前から始まっています。
2025年の出生動向基本調査では、一生結婚するつもりはないと答えた18歳から34歳の未婚者が男女とも初めて2割を超えました。
さらに、結婚を望まない人の中にも、収入や貯蓄が増えれば結婚希望に変わる可能性のある人がいます。
少子化対策を子どもが生まれた後だけに集中させるのでは十分ではありません。
所得、雇用、住宅、働き方など、家庭をつくる前の生活基盤から支える必要があります。
児童手当を充実させることと、結婚前の若い世代を支えることは二者択一ではありません。
結婚前から子育てまで切れ目なく支援すること。
少子化対策を子育て政策から人生設計を支える政策へ広げていくことが必要なのだと思います。
参考
日本経済新聞 2026年9月12日 朝刊 一生結婚しない2割超
日本経済新聞 2026年9月12日 朝刊 生活不安で結婚ためらう 家庭築く準備、支援薄く