少子化対策というと、児童手当や保育料、教育費など子どもに直接かかる費用が注目されます。
しかし、家庭をつくるためにはもう一つ大きな支出があります。
住宅費です。
2025年の出生動向基本調査では、1年以内に結婚するとした場合のハードルとして、資金面に続いて住居の問題が挙げられました。
結婚して二人で暮らし、さらに子どもを持とうとすれば、それまでより広い住居が必要になります。
家族が増えるほど住宅費が上昇するのであれば、住宅問題はそのまま少子化問題につながります。
一人暮らしと子育て世帯では必要な住宅が違う
一人暮らしであれば、比較的小さな住宅でも生活できます。
結婚して二人になれば、必要な広さは変わります。
さらに子どもが生まれれば、寝る場所だけでなく、子どもの荷物を置く場所や生活する空間も必要になります。
子どもが成長すれば、子ども部屋を考える家庭もあるでしょう。
一人から二人、二人から三人、三人から四人と家族が増えるにつれて、求める住宅の広さも大きくなります。
その結果、家賃や住宅購入費が増えることになります。
子どもが増えるほど住居費も増えやすい
子どもにかかる費用というと、食費や衣服、保育、教育などを思い浮かべます。
しかし、実際には住宅費も子どもの人数と無関係ではありません。
夫婦と子ども1人なら現在の住居で暮らせても、2人目が生まれれば手狭になる場合があります。
そこで広い賃貸住宅へ引っ越したり、住宅購入を検討したりします。
すると家賃や住宅ローンの負担が増えます。
子どもが1人増えたことによって増える費用は、その子の食費や教育費だけではありません。
家族全体の住居費まで一段階上がる可能性があるのです。
都市部では住宅価格や家賃の影響が大きい
特に問題になりやすいのが都市部です。
記事では、東京都など都市部を中心に、コロナ禍以降も住宅価格や家賃の上昇が続いていることが指摘されています。
若い世代は仕事の多い都市部に集まりやすい一方、その都市部では住宅費が高くなります。
一人で暮らせる住宅は確保できても、子育てに適した広さの住宅になると家賃が大きく上昇することがあります。
住宅を購入する場合には、さらに大きな資金が必要です。
仕事がある場所と子育てしやすい価格の住宅がある場所が一致しないことが、家庭形成を難しくする要因になります。
郊外へ移れば解決するとは限らない
それなら住宅費の安い郊外へ移ればよいという考え方もあります。
確かに、都心から離れるほど同じ予算でも広い住宅を確保しやすくなる場合があります。
しかし、別の問題が発生します。
通勤時間です。
夫婦とも都市部で働いている場合、郊外へ移れば毎日の通勤時間が長くなる可能性があります。
片道30分増えれば、往復で1時間です。
その時間は家事や育児に使えなくなります。
住宅費を節約する代わりに時間を失うことになります。
子育て世帯にとっては、お金だけでなく時間も重要な資源です。
共働き世帯ほど職場との距離が重要になる
現在は共働きを前提に家計を組み立てる家庭が増えています。
夫婦二人が働き続けるためには、住宅と職場の位置関係が重要です。
保育園へ子どもを送り、その後会社へ向かう。
仕事が終われば保育園へ迎えに行く。
帰宅後には食事や入浴などの家事と育児があります。
通勤時間が長くなれば、この生活を維持する負担は大きくなります。
住宅費の安さだけで住む場所を決められない理由です。
職場に近く、子育てに十分な広さがあり、家計でも負担できる住宅という条件を同時に満たすことが難しくなっています。
住宅費は2人目の壁にもなる
住宅問題は結婚や第1子だけではなく、第2子以降にも影響します。
夫婦と子ども1人なら現在の住宅で生活できる。
しかし、もう1人子どもが増えると部屋が足りない。
その場合、第2子を考えることは、同時に引っ越しや住宅購入を考えることになります。
教育費や生活費が増えるだけでも家計への負担は大きくなります。
そこへ住宅費の増加まで加われば、第2子を持つ判断に慎重になる家庭があっても不思議ではありません。
住宅費は見えにくい子育て費用の一つと考えることができます。
住宅購入なら長期間の負担になる
住宅を購入する場合には、さらに長期的な問題になります。
住宅ローンは数十年間返済することが一般的です。
若いうちに大きな住宅ローンを組めば、その後の家計に長期間影響します。
住宅ローンを返済しながら教育費を準備し、老後資金も形成する必要があります。
金利が上昇すれば、借入条件によっては住宅費への不安も大きくなります。
子どもを何人持つかという判断は、住宅ローンを含めた長期の家計設計とも密接に関係しています。
住宅政策も少子化対策になる
少子化対策というと、子どもが生まれた後に給付する政策を考えがちです。
しかし、住宅問題まで考えると政策の範囲はもっと広くなります。
若い世代や子育て世帯が負担可能な住宅を確保できること。
職場から極端に離れなくても子育てに必要な広さの住宅を選べること。
保育施設や学校など子育てに必要な環境が住宅の近くにあること。
こうした街づくりや住宅政策も、家庭形成を支える重要な政策になります。
住宅政策と少子化対策を別々に考えるのではなく、両者を一体として考える必要があります。
結論
住宅費は、結婚や出産とは直接関係のない支出のように見えます。
しかし、家族が増えれば必要な住宅も変わります。
子どもが増えるほど広い住宅が必要になり、家賃や住宅購入費が増える可能性があります。
住宅費を抑えるため郊外へ移れば、今度は通勤時間が長くなり、共働きと子育ての両立が難しくなることもあります。
つまり、子育て世帯は住宅費と時間の両方を考えなければなりません。
少子化対策を児童手当や教育費だけで考えるのでは十分ではありません。
若い世代が仕事を続けながら、家族の人数に合った住宅を無理なく確保できること。
住宅政策もまた、結婚や子どもの人数を左右する重要な少子化対策の一つなのだと思います。
参考
日本経済新聞 2026年9月12日 朝刊 一生結婚しない2割超
日本経済新聞 2026年9月12日 朝刊 生活不安で結婚ためらう 家庭築く準備、支援薄く