訪問介護は、高齢者が住み慣れた自宅で生活を続けるために欠かせないサービスです。
ホームヘルパーが利用者宅を訪れ、食事や入浴、排せつなどの介助や、生活を支えるための援助を行います。
施設へ入所しなくても必要な介護を受けられることは、利用者にとって大きなメリットです。
しかし、サービスを提供する職員の立場から見ると、利用者の自宅に一人で入って仕事をするという訪問介護特有の難しさがあります。
カスタマーハラスメントから介護職員をどう守るのかは、在宅介護を維持するうえでも重要な課題です。
訪問介護とは何か
訪問介護は、ホームヘルパーなどが利用者の自宅を訪問して提供する介護サービスです。
代表的なのが身体介護です。
食事や入浴、排せつ、着替えなど、利用者の身体に直接触れて行う介助があります。
生活援助では、利用者本人の日常生活を支えるため、掃除や洗濯、調理、買い物などを行います。
介護施設では利用者がサービスを提供する場所へ移動しますが、訪問介護では職員が利用者の生活の場へ入ります。
この違いが、訪問介護の大きな特徴です。
利用者宅では第三者の目が届きにくい
訪問介護の安全を考えるうえで重要なのが、サービスを提供する場所です。
介護施設なら、同じ建物の中にほかの職員がいます。
問題が起きれば、同僚や管理者へ助けを求めることができます。
利用者宅ではそうはいきません。
ホームヘルパーが一人で訪問すれば、利用者と一対一になることがあります。
家族がいる場合でも、事業所側の第三者がその場にいるわけではありません。
暴言や威圧的な言動があっても、ほかの職員がその場で確認することが難しくなります。
利用者宅という私的な空間が、職員にとっては閉鎖された職場になることがあるのです。
利用者との距離が近くなりやすい
訪問介護では、利用者の日常生活の非常に近いところで仕事をします。
食事や排せつ、入浴など、生活の中でも特にプライベートな部分に関わります。
さらに、同じホームヘルパーが継続して訪問すれば、利用者や家族との関係も深くなります。
信頼関係を築けることは訪問介護の大きな長所です。
一方、距離が近くなりすぎることで、利用者や家族が職員を家族のように捉えてしまう場合があります。
契約で決められたサービスを超えて、あれもやってほしい、これもやってほしいという要求が増えることも考えられます。
親しい関係と専門職としての関係の境界を保つことが必要になります。
できないことを断る難しさがある
訪問介護では、利用者や家族から頼まれたことを何でもできるわけではありません。
介護保険サービスとして提供できる内容には一定の範囲があります。
しかし、利用者の自宅で直接頼まれると、職員にとって断りにくい場合があります。
少しくらいならという対応を繰り返すと、それが当然のサービスだと受け止められる可能性もあります。
次に訪問した別の職員が断ったことで、なぜ前の人はやってくれたのにあなたはやらないのかとトラブルになることも考えられます。
職員個人の判断に任せず、事業所として提供できるサービスの範囲を明確にすることが重要です。
家族からカスハラを受ける場合もある
訪問介護では、サービスを受ける高齢者本人だけが相手とは限りません。
同居する家族や離れて暮らす家族と接することもあります。
本人はホームヘルパーとの関係に満足していても、家族から過剰な要求を受ける場合があります。
細かなサービス内容について繰り返し苦情を言われたり、職員個人を非難されたりするケースも考えられます。
介護では本人と家族の希望が一致するとは限りません。
その間に立つ職員の精神的な負担が大きくなることがあります。
一人で抱え込ませない仕組みが必要
訪問介護のカスハラ対策で特に重要なのは、現場のホームヘルパーを孤立させないことです。
利用者宅で問題が起きた場合、その日のうちに事業所へ報告できる仕組みが必要です。
どのような言動があったのかを記録し、管理者やほかの職員と共有します。
同じ利用者宅を別の職員が訪問するときにも、過去の情報が分かるようにしておきます。
危険性が高い場合には、複数人で訪問する方法もあります。
防犯ブザーやICレコーダーなどを活用することも選択肢になります。
問題を担当者だけの経験として終わらせず、事業所全体のリスクとして管理することが重要です。
訪問介護が増えるほど安全対策も重要になる
2024年度には、訪問介護の利用者が初めて160万人を超えました。
高齢化が進む一方、すべての高齢者を施設だけで支えることはできません。
住み慣れた地域や自宅で暮らし続けるためには、訪問型のサービスが重要になります。
しかし、利用者が増えても、そこで働く人がいなければサービスは提供できません。
訪問介護の人材確保を考える際には、賃金などの待遇だけでなく、安心して一人で利用者宅へ向かえる環境を整える必要があります。
安全性に不安を抱えたまま働く仕組みでは、人材の定着も難しくなります。
利用者の自宅であっても職員にとっては職場
訪問介護を考えるときに重要な視点があります。
利用者にとって自宅は自分の生活空間ですが、ホームヘルパーにとってはサービスを提供する職場でもあるということです。
自宅だから利用者側が何をしてもよいわけではありません。
同時に、事業所の中ではないから職員の安全管理ができないということでもありません。
訪問先を含めて職場と考え、安全を確保する仕組みを整える必要があります。
在宅介護が拡大するほど、この考え方は重要になります。
結論
訪問介護には、高齢者が住み慣れた自宅で生活を続けられるという大きなメリットがあります。
一方、サービスを提供するホームヘルパーは、第三者の目が届きにくい利用者宅で一人で働くことがあります。
利用者との距離が近くなりやすく、契約の範囲を超えた要求を受けたり、本人だけでなく家族から暴言や威圧的な言動を受けたりする可能性もあります。
だからこそ、カスハラを職員個人の問題にしてはいけません。
問題となる言動を記録して組織で共有し、必要に応じて複数人訪問や防犯機器を利用するなど、事業所全体で安全を管理する必要があります。
利用者にとっては自宅であっても、ホームヘルパーにとっては仕事をする場所です。
在宅介護を拡大するのであれば、サービスを利用する人の生活を守ることと同じように、利用者宅で働く人の安全を守る仕組みも整えなければなりません。
訪問介護を持続可能にするためには、密室になりやすい職場で働く人を孤立させないことが重要なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月10日 朝刊 ケアマネ8割に「カスハラ」