相続預金の流出を防ぐには何が必要なのか 金融機関が親だけでなく子ども世代とも取引する理由編

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地方の金融機関にとって、相続は大きな転換点になります。

親が何十年も地元の信用金庫を利用していても、その預金を相続する子どもが同じ金融機関を利用し続けるとは限りません。

特に子どもが東京や大阪などの都市部で暮らしていれば、自分が普段利用している銀行やネット銀行へ相続資金を移すことがあります。

相続預金の流出を防ぐためには、親が亡くなってから相続人へ営業するだけでは十分ではありません。

親が元気なうちから子ども世代との関係をつくり、世代をまたいで金融サービスを提供することが重要になります。

相続は金融機関が選び直されるタイミング

例えば、地方に住む80代の父親が地元の信用金庫へ3000万円を預けているとします。

父親は給与振込や住宅ローン、年金受取などを通じて、その信用金庫と40年以上付き合ってきました。

ところが父親が亡くなり、東京に住む50代の子どもが3000万円を相続します。

子どもは東京で利用している銀行へ相続資金を移すかもしれません。

あるいは金利の高いネット銀行へ預け、一部をNISAなどで投資することも考えられます。

相続は資産の所有者が変わるだけでなく、金融機関そのものが選び直されるタイミングでもあるのです。

親との長い取引関係だけでは預金を守れない

金融機関にとって難しいのは、親との長い取引実績が子どもとの取引を保証してくれないことです。

親が担当者を信頼していても、子どもはその担当者を知らないかもしれません。

親にとって便利だった店舗も、遠く離れて暮らす子どもには利用する機会がありません。

金融機関から見れば、親との40年間の取引関係が相続によって突然途切れる可能性があります。

財産は親から子へ相続されますが、金融機関との関係まで自動的に相続されるわけではないのです。

相続前から家族との関係をつくる

そこで重要になるのが、相続が発生する前からの関係づくりです。

高齢の顧客が元気なうちに、将来の資産承継について話し合う機会をつくります。

どのような財産を持っているのか。

誰にどの財産を引き継ぎたいのか。

配偶者の生活資金をどのように確保するのか。

子どもはどこで生活しているのか。

こうした問題を整理する過程で、本人だけでなく家族にも参加してもらうことができれば、金融機関と子ども世代との接点が生まれます。

相続が発生する前に顔の見える関係をつくることが重要なのです。

資産承継支援は預金だけを考えるものではない

相続対策というと、預金をどのように引き継ぐかという話に見えます。

しかし、実際の相続財産には不動産や株式などさまざまな資産があります。

自宅を誰が相続するのか。

金融資産をどのように分けるのか。

遺言を作成する必要があるのか。

相続税を支払うための資金をどう確保するのか。

事業を経営している場合には、自社株や事業用資産の承継も問題になります。

金融機関がこうした資産承継全体の相談窓口になれば、預金取引だけでは得られない長期的な関係を築くことができます。

専門家との連携も重要になる

相続には法律や税務、不動産登記など複数の専門分野が関係します。

金融機関だけですべての問題を解決できるわけではありません。

必要に応じて税理士や司法書士、弁護士などの専門家につなぐ役割も重要になります。

顧客から見れば、どの専門家に相談すればよいのか分からないこともあります。

普段利用している金融機関が入口となり、適切な専門家につないでくれれば安心感があります。

金融商品を販売するだけではなく、相続に必要なサービスをつなぐ役割を担うことも地域金融機関の強みになります。

子ども世代には子ども世代の金融ニーズがある

相続人との関係をつくる場合、親の預金をそのまま残してもらうことだけを目的にしてはいけません。

50代の子どもが相続した場合、その人には親とは違う金融ニーズがあります。

住宅ローンが残っているかもしれません。

自分自身の老後資金を準備する必要もあります。

子どもの教育費が必要な場合もあります。

NISAなどを使って資産形成をしたい人もいるでしょう。

相続資金の一部を住宅ローンの返済に使うことが合理的な場合もあれば、預金として残しておく方が適切な場合もあります。

相続人の生活全体を考えた提案が必要になります。

金融商品を売るだけでは関係は続かない

金融機関から見れば、まとまった相続資金を受け取った人は重要な顧客です。

しかし、その資金を狙って投資信託や保険などを販売することだけを考えれば、長期的な信頼関係を失う可能性があります。

相続人が必要としているのは、必ずしも高い収益を狙う商品ではありません。

近いうちに使うお金なら預金として確保する必要があります。

長期間使わない余裕資金なら投資を検討できます。

相続税の支払いが予定されているなら、その資金を価格変動の大きな商品へ投資することは慎重に考える必要があります。

顧客の目的に合わせて預金と投資を使い分けることが、結果として長い取引につながります。

世代をまたいだ顧客戦略が必要になる

これからの金融機関には、一人の顧客を一代限りで考えない視点が必要になります。

親が預金を持つ。

子どもがそれを相続する。

さらに将来は孫の世代へ資産が移る。

金融資産は何十年という時間をかけて世代間を移動していきます。

そのたびに金融機関との関係が切れてしまえば、地域金融機関は高齢顧客の死亡とともに顧客基盤を失うことになります。

反対に家族全体との関係を築くことができれば、親から子、子から孫へと取引をつなげられる可能性があります。

個人単位から家族単位へ顧客を見る発想の転換が必要です。

デジタル化も次世代との関係づくりに欠かせない

子ども世代が都市部に住んでいる場合、地元の店舗へ頻繁に来てもらうことは難しいでしょう。

そこでデジタル化が重要になります。

残高確認や振り込みなどの日常的な金融サービスをスマートフォンで利用できれば、地域外に住んでいても取引を続けやすくなります。

一方、相続や資産承継など複雑な問題については、人による相談サービスに価値があります。

日常的な取引はデジタルで便利にし、重要な相談には人が対応する。

この組み合わせによって、地域密着という強みを残しながら、遠隔地に住む次世代とも関係を維持しやすくなります。

預金流出を防ぐことが最終目的ではない

相続預金の流出を防ぐというと、金融機関が自分たちの預金残高を守るための戦略に見えるかもしれません。

しかし、本来の目的は顧客の資産を金融機関に囲い込むことではありません。

親が築いた資産を家族の希望に沿って円滑に引き継ぎ、次の世代の生活や資産形成に役立ててもらうことです。

その支援に価値があると相続人が感じれば、結果として金融機関との取引が続く可能性があります。

預金を動かさないよう説得するのではなく、資産をどう使うのが本人にとって適切なのかを一緒に考えることが、長期的な信頼につながります。

結論

相続預金の流出を防ぐために最も重要なのは、相続が発生する前から次の世代との関係をつくることです。

親が何十年も利用してきた金融機関だからといって、子どもが同じ金融機関を選ぶとは限りません。

特に子どもが都市部に住み、メガバンクやネット銀行、ネット証券を日常的に利用していれば、相続を機に資金が地域外へ移る可能性があります。

だからこそ金融機関には、相続相談や資産承継支援を通じて親だけでなく子どもとも接点を持ち、それぞれの世代に合った金融サービスを提供することが求められます。

これからの大相続時代に必要なのは、預金を囲い込む戦略ではありません。

親から子、そして孫へと資産が移っても相談相手として選ばれ続けることです。

相続預金を本当の意味でつなぎ止めるものは、高い預金金利でも便利な金融商品でもなく、世代をまたいで築かれる信頼なのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年9月10日 朝刊 信金の個人預金、初の2年連続減 昨年度

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