信用金庫に預けられている個人のお金が減り始めています。
全国の信用金庫の個人預金残高は2025年度に2年連続で減少しました。2年連続の減少は、比較できる1966年度以降で初めてです。
背景には金利上昇による金融機関同士の預金獲得競争だけでなく、相続によって地方から都市へ資産が移動するという大きな構造変化があります。
信用金庫の個人預金が2年連続で減少
2025年度末の全国254信用金庫の個人預金残高は、前年度比0.3パーセント減の約119兆8000億円でした。
2024年度末も0.3パーセント減の約120兆1000億円だったため、2年間で約6000億円減少したことになります。
信用金庫にとって個人預金は重要です。預金全体のおよそ4分の3を個人預金が占めているからです。
一方、銀行の個人預金は2025年度末に587兆円となり、前年度から2パーセント増えています。
つまり、日本人全体が預金を大きく取り崩しているから信用金庫の預金が減っているわけではありません。
預金の置き場所が変わっていると考えることが重要です。
相続が預金の移動を引き起こす
大きな要因が相続です。
例えば、地方に住む親が地元の信用金庫を長年利用していたとします。
親が亡くなり、東京や大阪などで暮らす子どもが預金を相続するとどうなるでしょうか。
子どもには親が利用していた信用金庫との取引関係がありません。
相続したお金を、自分が普段使っているメガバンクやインターネット銀行へ移すことは自然な行動です。
相続によって資産の所有者が親から子へ変わるだけでなく、預金を預ける金融機関まで変わるわけです。
年間約46兆円もの資産が相続される
この問題が大きいのは、日本で相続される資産の規模が非常に大きいためです。
日本総合研究所の推計では、国内で1年間に相続される資産は足元で約46兆円に上ります。
さらに死亡者数の増加などによって、2030年には48兆8000億円、2040年には51兆円まで増えると見込まれています。
年間50兆円前後もの資産について、誰が受け継ぎ、どこで管理するのかという巨大な資金移動が起きることになります。
高齢者が多くの金融資産を保有している日本では、相続は家族だけの問題ではありません。
金融機関の預金残高や地域間の資金移動を左右する問題でもあります。
金利の復活も信用金庫には逆風になる
もう一つの変化が金利です。
日本銀行が2024年3月にマイナス金利政策を解除して以降、銀行は預金金利を引き上げています。
長い超低金利時代には、金融機関による預金金利の差を意識する必要性はそれほど高くありませんでした。
しかし、金利のある世界になると状況は変わります。
資金力のあるメガバンクやインターネット銀行が高い預金金利を提示すれば、預金者が資金を移す動機になります。
さらに2024年から新しいNISAが始まりました。
銀行預金だけでなく、投資信託などの金融商品も個人のお金をめぐる競争相手になっています。
信用金庫は地域内の金融機関との競争だけを考えていればよい時代ではなくなっています。
預金減少が直ちに経営危機を意味するわけではない
ただし、信用金庫の預金が減ったからといって、すぐに経営が悪化すると考えるのは早計です。
信用金庫は集めた預金を地域の中小企業などへの融資に回します。
ところが信用金庫業界全体の預貸率は50パーセント程度です。
100円の預金を集めても、融資として運用しているのはおよそ50円というイメージです。
融資先が十分にない状態で預金だけを増やせば、余った資金を債券などで運用する必要があります。
金利が動く時代には市場運用にもリスクがあります。
したがって、預金は多ければ多いほどよいとは限りません。
重要なのは地域で集めた資金を、地域の企業や個人への融資として有効に循環させられるかどうかです。
信用金庫は相続人との関係づくりを始めている
信用金庫側も対策を始めています。
これまでの地域金融機関は、預金者本人との長期的な関係を重視してきました。
しかし、これからは本人だけでは十分ではありません。
預金者の子どもや孫との関係をつくらなければ、相続が発生した瞬間に取引が終了してしまう可能性があるからです。
実際に信託業務へ参入し、遺産整理や遺言代用信託などを通じて相続人との接点をつくる信用金庫も出てきています。
年金受取口座や高齢者向け定期預金を入り口として顧客との関係を深め、将来の相続相談につなげようとする動きもあります。
金融商品の競争というより、家族単位で長期間関係を維持できるかどうかの競争になりつつあります。
相続は地方から都市への資産移転でもある
この問題で特に注目したいのは、相続が地域間の資産移転を引き起こすことです。
地方に住む親から都市部に住む子どもへ資産が移れば、そのお金が都市部の金融機関へ移る可能性があります。
すると地方の人口が減るだけではありません。
長年地域に蓄積されてきた金融資産まで地域外へ流出することになります。
信用金庫は法律によって営業地域が限定されています。
顧客が地域外へ移ったからといって、全国どこまでも追いかけて営業できるわけではありません。
だからこそ、相続による資金移動は信用金庫にとって構造的な問題になります。
地域金融の本当の課題はお金の循環
これからの地域経済を考えるうえでは、人口だけでなくお金の移動を見る必要があります。
高齢者が地域で蓄積してきた預金が、相続によって都市部へ移っていく。
地域金融機関の預金が減れば、長期的には地域企業への資金供給にも影響する可能性があります。
一方で、単に預金を地域に囲い込めばよいわけでもありません。
地域企業に十分な資金需要がなければ、集めた預金を地域内で運用することができないからです。
地域金融の問題は、預金をいくら集められるかという量の競争から、地域のお金をどのように循環させるかという質の問題へ移りつつあります。
結論
信用金庫の個人預金が初めて2年連続で減少したことは、単なる預金残高の変化として見るべきではないでしょう。
その背景には、相続による世代間の資産移転、地方から都市への人口移動、メガバンクやインターネット銀行との金利競争、NISAを通じた預金から投資への資金移動があります。
特に重要なのが相続です。
年間約46兆円に上る相続資産は今後さらに増えると見込まれています。
親から子へ財産が引き継がれるたびに、地域のお金がどこへ移るのかという問題が発生します。
信用金庫に求められるのは、預金者本人だけを見る金融から、その家族や次世代まで含めた金融への転換ではないでしょうか。
相続大国となる日本では、地域の人口だけでなく地域のお金をどう次世代へつなぐのかが、地域金融の大きな課題になりそうです。
参考
日本経済新聞 2026年9月10日 朝刊 信金の個人預金、初の2年連続減 昨年度