一人暮らしの高齢者が増えるなか、離れて暮らす家族が毎日電話をかけなくても生活の異変を把握できる高齢者見守りサービスが広がっています。
特徴的なのは、特別な監視カメラを設置する方法だけではないことです。電球や電気ポット、ドアの開閉センサーなど、高齢者が普段の生活で使うものから生活状況を確認する仕組みが登場しています。
高齢者を常に監視するのではなく、普段の生活の変化から異変を見つけるという考え方です。
高齢者見守りサービスとは何か
高齢者見守りサービスとは、一人暮らしの高齢者や高齢者だけの世帯について、離れた場所から生活状況を確認するサービスです。
方法は大きく分けると、カメラなどで映像を確認する方法、家電製品の使用状況を確認する方法、人の動きをセンサーで検知する方法などがあります。
さらに異変を検知した場合に、家族へ連絡するだけでなく、スタッフが自宅を訪問して安否を確認するサービスもあります。
ICTの役割は異変を発見するところまでであり、その後に人による確認を組み合わせる仕組みも重要になっています。
電球が見守り機器になる
興味深いのが、普段使っている電球を利用する方法です。
例えばトイレや洗面所など、毎日利用する場所の照明に通信機能を持つ電球を取り付けます。
通常の生活をしていれば、一定時間のうちに照明が点灯したり消灯したりします。
ところが24時間以上にわたって点灯や消灯が確認されなければ、生活に何らかの異変が生じている可能性があります。
その情報を家族などへメールで知らせます。
通信機能を電球自体に持たせれば、自宅にWi-Fi環境がない高齢者でも利用しやすくなります。
新しい機械の操作を覚えてもらうのではなく、普段の生活をそのまま見守りの仕組みに利用しているところがポイントです。
電気ポットからも生活が分かる
さらに以前から利用されているのが電気ポットです。
高齢者がお茶などを飲むためにポットを使えば、その利用履歴が離れて暮らす家族へ送られます。
毎日ほぼ同じ時間帯に使っていた人が突然使わなくなれば、異変を疑うきっかけになります。
反対に普段とは大きく異なる時間帯に利用された場合にも、生活リズムの変化を把握できます。
重要なのは、ポットそのものが高齢者の健康状態を判断しているわけではないことです。
普段の生活パターンから外れた行動を検知し、家族などが確認するきっかけをつくっています。
なぜカメラを使わない見守りが注目されるのか
高齢者の見守りで難しいのがプライバシーとの両立です。
安全のためとはいえ、自宅の中をカメラで常に撮影されることに抵抗を感じる人は少なくありません。
家族であっても生活のすべてを見られたくないという人もいるでしょう。
そこで注目されるのが、映像ではなく生活の痕跡だけを確認する方法です。
照明を使ったか、ポットを使ったか、ドアを開けたか、人が特定の場所を通過したかといった情報であれば、生活状況をある程度把握しながらプライバシーも守りやすくなります。
見守りサービスでは、どこまで見守るのかという設計が非常に重要になります。
単身高齢者は1000万人を超える可能性
こうしたサービスが必要とされる最大の理由は、一人暮らしの高齢者が急速に増えていることです。
2020年には65歳以上の一人暮らしが約672万人に達しました。
これは15年前の約1.7倍です。
さらに2040年には1000万人を上回ると推計されています。
高齢者の一人暮らしそのものが珍しい生活形態ではなくなっていくわけです。
家族が近くに住んでいるとは限りません。
子どもが遠方で暮らしているケースや、そもそも身近に頼れる親族がいないケースも増えていくでしょう。
これまで家族や近隣住民が担っていた見守りを、ICTで補う必要性が高まっています。
孤独死は住まいの問題にもつながる
高齢者見守りサービスは、福祉だけの問題ではありません。
住宅政策とも深く関係しています。
一人暮らしの高齢者が自宅で亡くなり、発見まで長期間かかると、賃貸住宅では原状回復などに大きな費用が発生する場合があります。
このリスクを心配して、高齢者への賃貸をためらう大家もいます。
つまり孤独死のリスクが、高齢者の住宅確保を難しくする原因にもなっています。
そこで見守りサービスと駆け付けサービス、さらに死亡後の原状回復費用の補償などを組み合わせるサービスも登場しています。
高齢者本人の安心だけでなく、住宅を貸す側の不安を減らす意味もあるわけです。
居住サポート住宅でも見守りが重要になる
2025年10月には、高齢者や障害者などの住宅確保を支援する居住サポート住宅の認定制度が始まりました。
この制度では、居住支援法人などが大家と連携し、入居者について1日1回以上の安否確認を行うことが条件の一つとなっています。
しかし全国で単身高齢者が増えていけば、すべての高齢者を人だけで毎日確認することには限界があります。
そこでICTによる見守りが重要になります。
機械によって日常的な生活状況を確認し、異常があった場合に人が対応するという役割分担です。
高齢化が進むほど、人とICTを組み合わせた仕組みが必要になるでしょう。
最大の課題は異変を発見した後
ただし見守り機器を設置すれば問題がすべて解決するわけではありません。
本当に重要なのは、異変を検知した後です。
例えば24時間照明が使われていないことが分かったとしても、その高齢者の自宅へ誰が確認に行くのかという問題が残ります。
遠方に住む家族では、すぐに駆け付けられない場合があります。
警備会社などに依頼すれば迅速な対応が期待できますが、その分だけ利用料金は高くなります。
特に低所得の単身高齢者にとって、毎月の利用料は小さな負担ではありません。
そのため自治体が見守りサービスの利用料を補助する動きも始まっています。
今後は機器そのものの普及だけでなく、家族、自治体、地域、民間企業がどのように連携して駆け付け体制をつくるのかが重要になります。
結論
高齢者見守りサービスは、単に便利なICTサービスというだけではありません。
単身高齢者が増える社会で、これまで家族や地域が担ってきた見守り機能の一部を技術で補う社会インフラになりつつあります。
特に注目したいのは、監視カメラで生活を常に見るのではなく、電球やポット、ドアなど普段の生活行動から異変を察知する方法です。
プライバシーを守りながら必要なときだけ人が介入する仕組みは、今後さらに重要になるでしょう。
2040年には一人暮らしの高齢者が1000万人を超えると見込まれています。
これから問われるのは、高齢者を誰かが常に見張る社会をつくることではありません。
普段は自立した生活を尊重しながら、異変が起きたときには誰かにつながる社会をどうつくるかです。
高齢者見守りサービスは、そのための重要な仕組みの一つになっていくと考えられます。
参考
日本経済新聞 2026年9月10日 朝刊 単身高齢者見守るICT 手ごろな機器でサービス続々
日本経済新聞 2026年9月10日 朝刊 高齢者見守りサービスとは