銀行からお金を借りられている会社を見ると、経営に問題はないように思えるかもしれません。
銀行が融資しているのだから、一定の信用力があると考えるのも自然です。
しかし、借り入れを続けられていることと、企業が十分な利益を生み出して成長していることは同じではありません。
本業で十分な収益を上げられず、本来なら事業の抜本的な見直しが必要なのに、低金利や金融支援などによって存続を続けている企業が問題になることがあります。
こうした企業をゾンビ企業と呼ぶことがあります。
信用保証制度は中小企業への資金供給を支える重要な仕組みですが、支援の方法によっては企業の経営改善を遅らせる可能性もあります。
今回は、ゾンビ企業とは何か、なぜ企業を守る金融だけでは経済全体の生産性が上がらないことがあるのかを見ていきます。
ゾンビ企業とは何か
ゾンビ企業という言葉に、法律上の統一された企業区分があるわけではありません。
一般には、十分な収益力を持たず、本来なら事業再生や事業転換などが必要であるにもかかわらず、金融支援などによって事業を続けている企業を指す言葉として使われます。
会社が存在しているだけでゾンビ企業になるわけではありません。
一時的に赤字になった企業がすべてゾンビ企業というわけでもありません。
重要なのは、企業が自らの事業によって持続的に利益やキャッシュフローを生み出せる状態にあるかどうかです。
赤字企業とゾンビ企業は同じではない
企業はさまざまな理由で赤字になります。
新しい工場を建設した。
新商品を開発した。
人材を先行して採用した。
景気悪化によって一時的に売り上げが減った。
こうした理由で一時的に赤字になっても、将来利益を回復できるのであれば企業として十分に存続できます。
むしろ成長のための先行投資によって一時的に利益が減ることもあります。
問題なのは、本業の競争力が低下し、長期間にわたって十分な収益を生み出せない状態です。
赤字か黒字かという一時点の数字だけではなく、将来の収益力を見る必要があります。
借り入れによって会社は時間を買える
経営が苦しくなった企業にとって、銀行融資には重要な役割があります。
たとえば一時的に売り上げが落ち込んだ企業でも、半年後には需要が回復すると見込まれる場合があります。
そこで運転資金を借りれば、従業員の給与や仕入れ代金を支払いながら事業を続けることができます。
需要が回復して利益を出せるようになれば、その利益から借入金を返済できます。
この場合、融資は企業が立ち直るための時間を与えたことになります。
金融には、一時的な経営不振によって将来性のある企業が倒産することを防ぐ重要な役割があります。
借り入れは企業の収益力を自動的に改善しない
一方、借り入れには限界があります。
銀行から1000万円を借りれば、会社の銀行口座には1000万円の現金が入ります。
しかし、それだけで会社の売り上げや利益が増えるわけではありません。
事業そのものが赤字なら、借りたお金は毎月の赤字を埋めるために減っていきます。
やがて1000万円を使い切れば、再び資金不足になります。
そこでさらに借り入れを行えば、一時的に事業を続けることはできます。
しかし収益構造が変わらなければ、借入残高だけが増えていく可能性があります。
融資は資金不足を解消できますが、企業の競争力そのものを自動的に高めるものではありません。
低金利は企業を支える一方で問題を隠すことがある
金利が低ければ企業の利息負担は小さくなります。
これは企業経営にとって大きなメリットです。
特に景気が悪化しているときには、低金利によって企業の資金繰りを支えることができます。
一方、非常に低い金利が長く続けば、収益力の低い企業でも借入金を維持しやすくなります。
本来なら事業構造を見直す必要がある企業が、低い利払い負担によって経営改革を先送りできる場合があります。
低金利は企業を救う力を持つ一方、企業が抱えている問題を表面化しにくくする側面もあるのです。
信用保証にも同じ問題がある
信用保証制度でも似た問題が起こる可能性があります。
信用保証協会が融資を保証すれば、銀行の貸し倒れリスクが軽減されます。
そのため中小企業は銀行からお金を借りやすくなります。
これは信用保証制度の重要な役割です。
しかし、公的保証が手厚すぎれば、返済能力の低い企業にも融資が続く可能性があります。
銀行自身が負うリスクが小さければ、融資先を厳しく選別する動機が弱くなることも考えられます。
その結果、本来なら経営改善や事業再生が必要な企業が、新しい借り入れによって問題を先送りする可能性があります。
企業を存続させることが常に最善とは限らない
企業が倒産すれば、従業員の雇用や取引先に大きな影響が出ます。
そのため企業を支援することには大きな意味があります。
しかし、どの企業も永遠に現在の形のまま存続させることが最善とは限りません。
市場環境は変化します。
消費者が求める商品も変わります。
新しい技術も登場します。
需要を失った事業に人材や資金を投入し続ければ、新しい成長分野へ経営資源が移りにくくなります。
必要なのは会社という箱をそのまま残すことだけではありません。
企業が持つ人材や技術、設備などを、より生産性の高い事業で生かすことも重要です。
ゾンビ企業が増えると生産性に影響する
経済全体で考えると、企業の生産性には大きな差があります。
同じ人数で多くの付加価値を生み出す企業があります。
新しい技術を導入して急速に成長する企業もあります。
一方、長期間にわたって十分な利益を生み出せない企業もあります。
収益力の低い企業が金融支援によって存続し続ければ、そこで人材や資金が使われ続けます。
その結果、成長企業が必要な人材を採用しにくくなったり、資金を調達しにくくなったりする可能性があります。
経営資源が生産性の高い企業へ移動することを妨げれば、経済全体の生産性向上も遅れる可能性があります。
銀行にも問題を先送りする動機が生まれることがある
ゾンビ企業問題は借り手だけの問題ではありません。
金融機関側にも融資先の問題を先送りする動機が生じる可能性があります。
企業が返済できなくなれば、銀行は貸し倒れによる損失を認識しなければならない場合があります。
一方、新たな融資や返済条件の変更によって企業が返済を続ければ、すぐには損失が表面化しないことがあります。
しかし企業の収益力が回復しなければ、問題が解決したわけではありません。
だからこそ銀行には、単に融資を継続するだけではなく、企業が将来本当に返済できる状態になるのかを見極めることが求められます。
コロナ禍では企業を守ることが優先された
新型コロナウイルス禍では状況が大きく異なりました。
多くの企業が経営努力とは関係なく、突然売り上げを失いました。
そこでゼロゼロ融資などを通じ、大規模な資金繰り支援が行われました。
参考記事によると、信用保証の件数はそれまで60万件台で推移していましたが、2020年度には194万件へ急増しました。
この局面では企業を細かく選別することよりも、急激な資金不足による連鎖倒産を防ぐことが重要でした。
危機時には幅広く企業を守る金融政策に合理性があります。
問題は、危機が終わった後も同じ支援を続けるべきかという点です。
危機後には企業を見極める必要がある
経済活動が正常化すれば、企業によって状況に違いが出てきます。
すでに収益力を回復した企業があります。
事業転換によって成長できる企業があります。
金融支援だけでは立て直しが難しい企業もあります。
すべての企業へ同じように融資を続ければ、必要な経営改革が遅れる可能性があります。
平時には融資によって企業を延命することだけでなく、事業再生やM&A、事業承継なども含めて最適な方法を考える必要があります。
企業を守る金融から、企業を変える金融へ移ることも必要になるのです。
成長企業へ資金を移すという考え方
今回、経済産業省が検討している10億円程度の新たな信用保証枠には、この問題を考えるうえで重要な特徴があります。
想定されているのは、日々の赤字を埋めるための資金ではありません。
工場建設や大型設備投資、M&Aなどの成長投資です。
従来の信用保証制度では、利用資金の92パーセントが運転資金でした。
新たな大型保証では、企業を維持するためのお金だけでなく、企業を成長させるためのお金へ信用保証の役割を広げようとしています。
これは中小企業政策の方向性の変化を示しています。
保証割合を5割程度にする意味もここにある
新しい大型保証では、保証割合を最大5割程度とすることが検討されています。
銀行にも大きなリスクを残す仕組みです。
これはゾンビ企業問題を防ぐうえでも意味があります。
銀行自身が数億円規模のリスクを負うのであれば、単に公的保証があるという理由だけで融資することはできません。
その設備投資は本当に利益を生むのか。
M&Aによって企業価値は高まるのか。
将来のキャッシュフローから借入金を返済できるのか。
銀行自身が企業の成長可能性を見極める必要があります。
信用保証を拡大しながら銀行にもリスクを残すことで、成長につながる融資を増やそうとしているわけです。
支援しないことが答えではない
ゾンビ企業問題を考えるときには、収益力の低い企業への金融支援をすべてやめればよいと考えないことも重要です。
一時的な経営不振なのか。
事業再生によって立ち直れるのか。
新しい事業へ転換できるのか。
M&Aによって事業を別の企業へ引き継げるのか。
企業によって最適な対応は異なります。
金融の役割は、単純に融資を続けるか打ち切るかだけではありません。
企業の実態を見極め、必要なら経営改善や事業再編を促すことも重要です。
資金供給と企業の新陳代謝をどのように両立させるかが、中小企業金融の大きな課題になります。
結論
ゾンビ企業とは、十分な収益力を持たず、本来なら事業の抜本的な見直しなどが必要であるにもかかわらず、金融支援などによって存続を続けている企業を指す言葉として使われます。
一時的な赤字企業がすべてゾンビ企業なのではありません。
重要なのは、将来自らの事業によって利益やキャッシュフローを生み出せるかどうかです。
銀行融資や信用保証は、一時的に苦境に陥った企業へ時間を与える重要な役割を持っています。
一方、借り入れを増やしても企業の収益力そのものが自動的に改善するわけではありません。
支援が手厚すぎれば経営改革が先送りされ、人材や資金が成長企業へ移りにくくなる可能性もあります。
危機時には幅広く企業を守る。
平時には企業の将来性を見極め、成長投資や事業再生へ資金を振り向ける。
この使い分けが重要です。
今回検討されている10億円規模の信用保証が大型設備投資やM&Aを対象としていることは、信用保証制度を企業の存続支援だけでなく成長支援にも活用しようとする動きといえます。
会社が借り続けられることと、会社が成長していることは同じではありません。
ゾンビ企業という問題を理解すると、中小企業金融ではお金を貸す量だけでなく、そのお金によって企業が将来どのような価値を生み出すのかを見ることが重要だと分かります。
参考
日本経済新聞 2026年9月9日朝刊 中小融資、保証上限上げ 2.8億円から10億円に 設備投資・M&A促す 経産省検討
日本経済新聞 2026年9月9日朝刊 信用保証 中小への融資、リスク軽減