中小企業への融資を増やしたいのであれば、信用保証協会が融資額の100パーセントを保証すればよいと思うかもしれません。
企業が返済できなくなっても信用保証協会が銀行へ支払ってくれるのであれば、銀行は安心して中小企業へお金を貸せます。
実際、経済危機などでは100パーセント保証が企業の資金繰りを支える大きな力になります。
しかし、平時まで100パーセント保証を続けると別の問題が生じます。
銀行が貸し倒れによる損失をほとんど負わなくなるため、融資先を慎重に選ぶ動機が弱くなる可能性があるからです。
今回は、100パーセント保証のメリットと問題点を見ていきます。
100パーセント保証とは何か
100パーセント保証とは、信用保証付き融資について信用保証協会が原則として融資額の全額を保証する仕組みです。
たとえば銀行が中小企業へ1000万円を融資したとします。
その企業が経営不振に陥り、借入金を返済できなくなったとします。
100パーセント保証の対象であれば、一定の条件のもとで信用保証協会が金融機関へ代位弁済します。
銀行から見ると、信用保証協会による保証がないプロパー融資と比べて貸し倒れによる損失を大幅に抑えられます。
そのため銀行は、通常なら融資に慎重になる企業にも資金を供給しやすくなります。
これが100パーセント保証の大きなメリットです。
保証が手厚いほど企業はお金を借りやすくなる
中小企業は大企業に比べて資金調達手段が限られています。
大企業なら株式や社債を発行して市場から多額の資金を調達できる場合があります。
一方、多くの中小企業にとって銀行や信用金庫からの借り入れは重要な資金調達手段です。
ところが景気が悪化すると銀行も融資に慎重になります。
企業の業績が悪化し、貸し倒れの可能性が高くなるからです。
このとき公的な信用保証を手厚くすれば、銀行が負うリスクを減らせます。
特に100パーセント保証なら、金融機関にとって信用リスクが大きく軽減されるため、企業への資金供給を維持しやすくなります。
経済危機の際に100パーセント保証が大きな力を発揮するのはこのためです。
銀行がリスクを負わないと何が起きるのか
問題は、銀行自身が融資結果についてほとんどリスクを負わなくなることです。
通常の融資では、銀行は貸したお金が返ってこなければ損失を受けます。
そのため融資する前に企業を詳しく調べます。
売り上げや利益は十分なのか。
借入金が多すぎないか。
毎年どれくらいの現金を生み出しているのか。
借りたお金を何に使うのか。
将来も事業を続けられるのか。
こうした項目を確認するのは、融資先を見誤れば銀行自身が損失を負うからです。
ところが、企業が返済できなくなっても信用保証協会が全額を支払ってくれるのであれば、銀行自身が負うリスクは大幅に小さくなります。
すると、企業を慎重に審査する動機も弱くなる可能性があります。
モラルハザードが起こる可能性がある
こうした問題を考えるうえで重要なのがモラルハザードという考え方です。
モラルハザードとは、損失を他者が負担してくれることで、当事者の行動が変わってしまうことをいいます。
信用保証制度で考えてみます。
銀行が融資による損失をすべて自分で負担するなら、返済能力の低い企業への融資には慎重になります。
しかし、公的保証によって損失の大部分を回避できるのであれば、融資判断が変わる可能性があります。
本来なら慎重に審査すべき企業にも融資が行われるかもしれません。
つまり、保証を手厚くすることで融資を増やせる一方、融資の質が低下する可能性もあるのです。
企業側にもモラルハザードが起こり得る
モラルハザードは銀行側だけの問題ではありません。
借り手である企業の行動にも影響する可能性があります。
公的な支援がいつでも受けられるという期待が強くなれば、企業が経営改善を先送りする可能性があります。
本来なら不採算事業を整理したり、経費を削減したり、事業モデルを見直したりする必要がある企業が、借り入れを増やすことで問題を先送りすることも考えられます。
借金によって一時的に資金繰りが改善しても、会社の収益力そのものが改善したわけではありません。
融資は企業に時間を与えることはできますが、利益を自動的に生み出してくれるわけではないのです。
経営改善が遅れる可能性がある
信用保証制度の目的は、単に企業へできるだけ多くのお金を貸すことではありません。
本来は事業を継続できる企業へ必要な資金を届けることが重要です。
ところが保証が手厚すぎると、金融機関も企業も問題の先送りを選びやすくなる可能性があります。
売り上げが減少している。
利益が出なくなっている。
借入金が増えている。
それでも新たな保証付き融資によって返済を続ける。
この状態が長期間続けば、借入金だけが膨らむことがあります。
早い段階で事業再生や事業転換に取り組んでいれば立て直せた企業が、借り入れによって対応を先送りした結果、問題がさらに大きくなることも考えられます。
融資による支援と経営改善はセットで考える必要があります。
ゾンビ企業を生み出す問題にもつながる
こうした問題の延長線上にあるのがゾンビ企業です。
一般にゾンビ企業とは、本来なら事業の抜本的な見直しなどが必要であるにもかかわらず、金融支援などによって存続を続けている企業を指します。
もちろん、経営状態が悪化した企業をすぐに市場から退出させればよいわけではありません。
一時的な景気悪化によって苦境に陥っただけで、将来回復できる企業もあります。
問題は、一時的な資金不足なのか、事業そのものの収益力が失われているのかを見極めることです。
100パーセント保証によって融資しやすくなりすぎると、この見極めが十分に行われない可能性があります。
生産性の低い企業が借り入れによって長期間存続すれば、人材や資金などの経営資源が成長企業へ移りにくくなるという問題にもつながります。
だから80パーセント保証へ変更された
こうした問題を踏まえ、2007年に責任共有制度が導入されました。
一般的な信用保証については原則として80パーセント保証とし、金融機関にも一定のリスクを負わせる仕組みです。
重要なのは20パーセントという数字そのものだけではありません。
銀行自身にも融資結果について責任を持たせるという考え方です。
企業が返済できなくなれば銀行にも損失が発生する可能性がある。
だから企業をきちんと審査する。
融資後も経営状況を見る。
必要なら経営改善を支援する。
こうした金融機関本来の機能を維持しながら、中小企業への資金供給を公的保証によって支えることが狙いです。
危機時には100パーセント保証が必要になることもある
100パーセント保証に問題があるからといって、常に使うべきではないということではありません。
経済危機では状況が変わります。
新型コロナウイルス禍では、多くの企業が突然売り上げを失いました。
経営者の能力や企業の競争力とは関係なく、営業そのものが難しくなった業種もありました。
こうした状況で通常と同じ融資審査を続ければ、本来存続できる企業まで資金不足によって倒産する可能性があります。
そこでゼロゼロ融資などを通じ、100パーセント保証を含む大規模な資金繰り支援が活用されました。
危機時には融資の質を細かく選別することよりも、企業へ迅速に資金を届けることが優先される場合があります。
つまり100パーセント保証そのものが悪いのではありません。
どのような状況で使うのかが重要なのです。
平時と危機時で制度を使い分ける
信用保証制度には二つの役割があります。
一つは、平時に信用力が十分ではない中小企業の資金調達を支援する役割です。
もう一つは、経済危機や災害などの非常時に企業の連鎖的な倒産を防ぐ役割です。
平時には銀行にも一定のリスクを負わせ、融資先を見極めてもらうことが重要です。
一方、危機時には公的部門がより多くのリスクを引き受け、資金供給を止めないことが重要になる場合があります。
信用保証割合は単なる数字ではありません。
その時々の政策目的によって、民間金融機関と公的部門のどちらがどれだけリスクを負うのかを調整する仕組みでもあるのです。
10億円保証ではさらに慎重な設計が必要になる
今回、経済産業省は信用保証の上限を従来の2億8000万円から10億円程度まで広げる新たな枠を検討しています。
狙いは企業の救済ではなく、大型設備投資やM&Aなどに取り組む成長企業への資金供給です。
金額が大きくなれば、一件の融資が失敗したときの損失も大きくなります。
そのため検討されている新制度では、最大で融資額の5割程度を保証する仕組みが想定されています。
公的保証によって銀行のリスクを軽減しながらも、銀行にも大きなリスクを残すわけです。
これは成長投資の成否を金融機関自身にも真剣に判断してもらうためと考えられます。
公的保証が大きくなるほど、保証割合をどう設定するのかという問題も重要になります。
結論
100パーセント保証には、中小企業へ資金を届けやすくする大きなメリットがあります。
特に経済危機や災害などによって企業の資金繰りが急激に悪化したときには、企業倒産を防ぐ強力な手段になります。
一方、平時まで100パーセント保証を広く利用すると、銀行が貸し倒れリスクをほとんど負わなくなります。
その結果、融資先を慎重に審査する動機が弱くなるモラルハザードが生じる可能性があります。
企業側でも借り入れによって経営問題を先送りし、必要な事業改革が遅れる可能性があります。
そこで一般的な信用保証では、銀行にも一定のリスクを負わせる責任共有制度が導入されています。
重要なのは、保証を手厚くするか減らすかという単純な二者択一ではありません。
危機時には企業を守るため公的部門が大きなリスクを引き受け、平時には銀行にもリスクを負わせて企業を見極めてもらう。
100パーセント保証の問題を理解すると、信用保証制度では企業への資金供給だけでなく、銀行が正しく融資先を選ぶ仕組みを維持することも重要だと分かります。
参考
日本経済新聞 2026年9月9日朝刊 中小融資、保証上限上げ 2.8億円から10億円に 設備投資・M&A促す 経産省検討
日本経済新聞 2026年9月9日朝刊 信用保証 中小への融資、リスク軽減