大学の授業と聞くと、大きな教室で教授が話し、学生がノートを取る姿を思い浮かべる人も多いでしょう。
先生が知識を説明し、学生がそれを覚え、試験で理解度を確認する。
長い間、こうした授業が大学教育の中心でした。
もちろん、専門家から体系的な知識を学ぶ講義には大きな意味があります。
しかし、先生の話を聞いて知識を覚えるだけで、社会で必要になる力をすべて身につけられるわけではありません。
自分で問いを立てる。
人と議論する。
自分の考えを説明する。
異なる意見を聞いて考え直す。
学んだ知識を実際の問題へ応用する。
こうした経験も必要です。
そこで広がってきたのが「アクティブラーニング」と呼ばれる学び方です。
今回は、アクティブラーニングとは何か、一方向型の講義とは何が違うのか、そしてなぜ学生が主体的に参加する授業が重視されるようになったのかを考えてみます。
アクティブラーニングとは何か
アクティブラーニングとは、学生が授業へ能動的に参加する学習方法です。
先生から知識を一方向に受け取るだけではなく、学生自身が考え、話し、書き、議論し、発表するといった活動を行います。
たとえば、
学生同士で議論する
グループで課題を解決する
自分の意見を発表する
事例について考える
調査結果をまとめる
といった方法があります。
重要なのは、単に授業中に何か作業をさせることではありません。
学生自身が頭を使って考え、学習へ参加することです。
一方向型講義とは何が違うのか
従来型の講義では、基本的に先生が情報を持っています。
先生が説明し、学生がそれを受け取ります。
これは短時間で多くの知識を伝えるには非常に効率的です。
100人の学生がいても、一人の教授が同時に説明できます。
一方、学生側は受け身になりやすいという問題があります。
話を聞いて、
「分かった気がする」
ことと、
「自分で使える」
ことは同じではありません。
たとえば経済学の理論について説明を聞けば、内容を理解できるかもしれません。
しかし実際のニュースを見て、
「この出来事を経済学ではどう考えるのか」
と問われると、うまく説明できないことがあります。
知識を覚えることと、知識を使うことの間には距離があるからです。
アクティブラーニングでは、この距離を縮めることを目指します。
学生自身が考える時間をつくる
アクティブラーニングでは、先生がすぐに答えを説明しないことがあります。
まず学生自身に考えさせます。
たとえば、
「人口減少が進む地域の商店街を活性化するにはどうすればよいでしょうか」
という課題を出したとします。
学生は自分で考えます。
その後、ほかの学生と意見を交換します。
すると、
観光客を増やすべきだ
地域住民の日常利用を増やすべきだ
空き店舗を住宅に転用した方がよい
高齢者向けサービスを充実させるべきだ
など、さまざまな意見が出てくるでしょう。
最初から先生が答えを説明するより、自分で考えてから説明を聞いた方が、何が分かっていなかったのかに気づきやすくなります。
議論すると自分の理解度が分かる
自分では理解していると思っていても、人に説明しようとすると言葉に詰まることがあります。
これは珍しいことではありません。
頭の中では何となく分かっていても、考えが整理されていないからです。
学生同士で議論すると、
「なぜそう思うのですか」
「その方法にはどんな問題がありますか」
「別のケースでも同じですか」
と質問されます。
答えるためには、自分の考えを整理しなければなりません。
説明できない部分があれば、自分の理解が不足していることにも気づきます。
議論は単に意見を交換するだけではありません。
自分の理解度を確認する方法でもあるのです。
異なる意見に触れることにも意味がある
一人で考えていると、自分の経験や価値観の範囲から抜け出すことが難しくなります。
しかし複数の学生で議論すると、自分とは違う考え方に出会います。
自分は経済性を重視していた。
別の学生は環境への影響を重視している。
さらに別の学生は地域住民の負担を重視している。
同じ問題を見ても、立場によって注目する点が違います。
そこで、
「自分はこの視点を考えていなかった」
と気づくことができます。
社会の問題には、一つの立場から見ただけでは理解できないものが数多くあります。
異なる意見に触れ、自分の考えを修正する経験にも意味があります。
発表すると伝える力が必要になる
アクティブラーニングでは、学生が調べたことや考えたことを発表する機会も増えます。
発表するためには、自分が理解するだけでは足りません。
相手に分かるように説明する必要があります。
何を最初に説明するのか。
どんな具体例を使うのか。
どこまで専門用語を使うのか。
どのデータを示すのか。
限られた時間で何を伝えるのか。
こうしたことを考えます。
社会に出ても、自分の考えを他人へ説明する場面は数多くあります。
知識を持っていることと、その知識を相手へ伝えられることは別の能力です。
発表はその練習にもなります。
グループ学習なら何でもよいわけではない
アクティブラーニングというと、学生をグループに分ければよいと思われることがあります。
しかし、単にグループで作業させるだけでは十分ではありません。
一人だけが全部作業している。
ほかの学生は話を聞いているだけ。
雑談で終わってしまう。
意見の強い人に全員が合わせる。
こうした状況では、学生全員が主体的に学んでいるとはいえません。
何について考えるのか。
それぞれにどんな役割があるのか。
最後に何を振り返るのか。
授業を設計する側の工夫が必要になります。
学生主体の授業だからといって、先生の役割が小さくなるわけではないのです。
先生の役割が変わる
従来型の講義では、先生の重要な役割は知識を伝えることでした。
アクティブラーニングでは、それに加えて学習環境を設計する役割が重要になります。
どのような問いを出せば学生が考えるのか。
どの段階でヒントを出すのか。
どのようにグループをつくるのか。
議論が止まったときにどう支援するのか。
最後にどのように知識を整理するのか。
先生がすべての答えを最初に説明するのではなく、学生が自分で考えるための環境をつくります。
教える人から、学びを支える人としての役割も強くなるわけです。
PBLとも深く関係する
このシリーズの第1回で取り上げたPBLは、アクティブラーニングの代表的な方法の一つと考えることができます。
PBLでは、学生が実際の課題について考えます。
課題を調べる。
原因を分析する。
仲間と議論する。
解決策を考える。
発表する。
必要なら修正する。
学生が学習活動の中心になります。
先生の説明を聞くだけではなく、自分たちで知識を探し、使いながら学びます。
アクティブラーニングという大きな考え方の中に、PBLなどさまざまな実践方法があると考えると分かりやすいでしょう。
フィールドワークとも組み合わせられる
アクティブラーニングは教室の中だけで行うものではありません。
以前取り上げたフィールドワークとも組み合わせることができます。
まず教室で地域について調べる。
現地へ行って観察する。
住民から話を聞く。
教室へ戻って情報を整理する。
学生同士で議論する。
地域へ提案する。
こうした一連の活動も、学生が主体的に参加する学習になります。
教室と地域を行き来することで、知識と現実を結びつけることができます。
正解が一つではない問題と相性がよい
学校の試験問題には、正解が一つに決まっているものが多くあります。
しかし現実社会では、そうではありません。
人口減少をどうするのか。
商店街をどう再生するのか。
地域交通をどう維持するのか。
観光客をどこまで増やすのか。
企業がどの事業へ投資するのか。
どれも簡単な正解はありません。
複数の選択肢があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
だからこそ、自分で考え、異なる意見を聞き、よりよい答えを探す必要があります。
アクティブラーニングは、こうした正解が一つではない問題を考える学習と相性がよいのです。
主体的に学ぶとは好き勝手に学ぶことではない
「主体的に学ぶ」という言葉から、学生が好きなことだけを自由にすればよいと考えることがあります。
しかし主体性とは、単に自由であることではありません。
自分で問いを持つ。
必要な情報を探す。
自分の考えをつくる。
他人の意見を聞く。
必要なら考えを修正する。
結果について振り返る。
こうした学習への責任を学生自身が持つことです。
先生から細かく指示されない分、自分で考えなければならないことが増えます。
主体的な学習は、受け身の学習より楽とは限りません。
むしろ自分で判断する場面が増えるため、難しい学び方でもあります。
知識が不要になるわけではない
アクティブラーニングが重視されると、
「もう知識を覚える必要はない」
と考える人もいるかもしれません。
しかし、それは違います。
議論するにも知識が必要です。
何も知らない状態では、深い議論はできません。
たとえば地域の人口減少について考えるなら、
人口構造
産業
交通
財政
社会保障
などについて一定の知識が必要になります。
知識があるからこそ、現実の問題を深く考えることができます。
重要なのは、知識を覚えることだけで終わらず、それを使うところまで学習を広げることです。
講義とアクティブラーニングは対立するものではありません。
両方を組み合わせることに意味があります。
旅する大学では学びの場そのものが変わる
今回のシリーズの出発点となった旅する大学では、学生が地域を移動しながら学びます。
そこでは、地域そのものが学習の場になります。
学生は地域の人と交流し、自分のテーマを見つけ、活動します。
先生から与えられた問題を解くだけではありません。
現実の中から、
「自分は何に関心があるのか」
「この地域にはどんな課題があるのか」
を考えます。
オンラインで知識を学びながら、地域では実際に行動する。
その経験を振り返り、再び学習へ戻す。
アクティブラーニングの考え方を、教室の外まで広げた学び方として見ることもできます。
AI時代に授業の役割はどう変わるのか
生成AIの登場によって、知識を得る方法は大きく変わっています。
分からない言葉を質問する。
難しい文章を説明してもらう。
論点を整理する。
複数の考え方を比較する。
こうしたことを学生自身が簡単にできるようになっています。
すると大学の授業で、先生が知識を一方向に伝えることだけの価値は相対的に変化する可能性があります。
一方で、
AIが出した答えは妥当なのか
どの情報を信用するのか
自分はどう考えるのか
異なる意見をどう評価するのか
という力はますます必要になります。
AIから答えを受け取るだけではなく、その答えについて考えることが重要になるからです。
アクティブラーニングは、AI時代の教育とも深く関係してくるでしょう。
結論
アクティブラーニングとは、学生が授業へ能動的に参加し、自分で考え、議論し、発表しながら学ぶ教育方法です。
従来型の講義には、専門的な知識を体系的かつ効率的に伝えられるという大きな利点があります。
しかし、知識を聞いて理解することと、その知識を実際の問題で使えることは同じではありません。
そこで学生自身が知識を使う機会をつくります。
自分で考える。
人へ説明する。
異なる意見を聞く。
考えを修正する。
こうした過程を通じて、知識をより深く理解していきます。
今回のシリーズで取り上げてきたPBL、マイプロジェクト、フィールドワーク、サービスラーニング、越境学習、経験学習なども、学生が主体的に学習へ参加するという点でつながっています。
重要なのは、先生の話を聞く授業をすべてなくすことではありません。
知識を学ぶ時間と、その知識を自分で使う時間を組み合わせることです。
AIによって知識そのものへアクセスすることが容易になるほど、大学には「何を知っているか」だけではなく、「知っていることを使って何を考えるか」を学ぶ場としての役割が求められるようになるのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月9日 朝刊 「旅する大学」が養う発見力 移動しながら幅広い世代と交流
日本経済新聞 2026年9月9日 朝刊 地域の受け入れ継続へ 下調べと連携が不可欠