経験学習とは何か 実際にやって失敗することが学びになる理由編

人生100年時代
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「経験から学ぶ」という言葉があります。

仕事でも、説明を聞いただけでは分からなかったことが、自分で実際にやってみると理解できたという経験を持つ人は多いでしょう。

料理の本を何冊読んでも、実際に料理を作らなければ身につきにくいことがあります。

自転車の乗り方を文章で詳しく説明されても、実際に乗って転びそうになりながらバランスを覚える必要があります。

仕事や教育でも同じです。

知識を学ぶことは重要ですが、知識だけでは身につかない能力があります。

実際に行動する。

思ったようにいかない。

なぜうまくいかなかったのかを考える。

次はやり方を変えてみる。

この繰り返しによって、人は経験から学んでいきます。

こうした学びの仕組みを考えるうえで重要なのが「経験学習」です。

今回は、経験学習とは何か、なぜ経験するだけでは十分ではないのか、そして失敗がどのように学びへ変わるのかを考えてみます。

経験学習とは何か

経験学習とは、自分が実際に経験したことを振り返り、そこから気づきや教訓を得て、次の行動へ生かしていく学習です。

単に「実際にやってみること」だけを意味するわけではありません。

たとえば学生が地域イベントを開催したとします。

イベントを開催したこと自体は経験です。

しかし、そこで終われば単なる体験になる可能性があります。

なぜ参加者が集まったのか。

なぜ準備に時間がかかったのか。

自分たちの役割分担は適切だったのか。

地域の人はどう感じていたのか。

次に開催するなら何を変えるのか。

こうしたことを考えることで、経験から学びを取り出します。

経験と振り返りを組み合わせることが重要なのです。

経験学習の循環とは何か

経験学習を説明するときによく知られているのが、米国の教育学者デービッド・コルブが示した考え方です。

経験から学習する過程を、大きく四つの段階で考えます。

まず実際に何かを経験します。

次に、その経験を振り返ります。

そして振り返った内容から、何が重要だったのかを考え、自分なりの教訓や考え方として整理します。

最後に、その考えを次の行動で試します。

そこで新しい経験が生まれ、再び振り返ります。

つまり、

経験する

振り返る

教訓を得る

次に試す

という循環です。

経験学習では、この循環を繰り返すことで学びを深めていきます。

経験するだけでは成長しない

「経験が大切」と言われると、経験年数が長い人ほど成長しているように思えます。

しかし、必ずしもそうとは限りません。

同じ仕事を10年間続けても、毎年同じ方法を繰り返しているだけなら、10年間学び続けたことにはならない可能性があります。

反対に経験年数が短くても、

なぜ今回はうまくいったのか

もっとよい方法はないか

前回との違いは何か

と毎回考えている人は、短期間でも多くを学ぶことがあります。

重要なのは経験の量だけではありません。

経験をどのように振り返り、次へつなげるかです。

経験年数と学習量は必ずしも同じではないのです。

失敗は重要な情報になる

経験学習では、失敗にも大きな意味があります。

たとえば学生が地域の若者を集めるイベントを企画したとします。

100人集める予定だったのに、実際には20人しか来ませんでした。

普通なら「失敗した」と考えるでしょう。

しかし経験学習では、ここからが重要です。

なぜ80人来なかったのでしょうか。

告知が遅かったのかもしれません。

SNSだけで宣伝したため、情報が届かなかった可能性があります。

開催日時が悪かったのかもしれません。

そもそも企画そのものに需要がなかったことも考えられます。

参加した20人へ話を聞けば、新しい発見があるかもしれません。

失敗は単なる悪い結果ではありません。

自分の予想と現実が違っていたことを教えてくれる情報でもあるのです。

成功からも学ぶ必要がある

経験学習というと、失敗から学ぶことが注目されがちです。

しかし成功したときにも振り返りが必要です。

イベントに予想以上の人が集まったとします。

「成功してよかった」で終われば、なぜ成功したのか分かりません。

企画内容がよかったのでしょうか。

開催場所がよかったのでしょうか。

地域の有力者が紹介してくれたからでしょうか。

偶然、別のイベントと重なって人通りが多かっただけかもしれません。

成功理由を間違って理解すると、次回同じことをしてもうまくいかない可能性があります。

成功したときこそ、

「なぜ成功したのか」

を考える必要があります。

成功も失敗も、振り返ることで学習材料になるのです。

振り返りとは反省会ではない

振り返りというと、

「自分の悪かったところを反省する」

というイメージを持つかもしれません。

しかし経験学習における振り返りは、単なる反省とは違います。

良かったことも含めて客観的に経験を見直します。

何が起きたのか。

自分はどう考えたのか。

なぜその行動を選んだのか。

相手はどのように反応したのか。

予想と違ったことは何か。

こうしたことを整理します。

大切なのは、自分を責めることではありません。

経験から次に使える情報を取り出すことです。

言葉にすると経験が整理される

振り返りでは、経験を言葉にすることが重要です。

頭の中だけで、

「なんとなくうまくいかなかった」

と考えていても、次の行動を変えることは難しいでしょう。

そこで、

参加者を学生だけに想定していたため地域住民への告知が不足した

役割分担を決めなかったため準備作業が一部の人に集中した

事前に住民へ聞き取りをしたことで地域のニーズに合った企画になった

など、具体的に言葉にします。

言葉にすることで、経験の中に含まれていた原因や関係が見えやすくなります。

日記やレポートを書く方法もあれば、仲間と話し合う方法もあります。

人に説明することで、自分では気づかなかった考え方に気づくこともあります。

他人と振り返ると見方が変わる

同じ経験をしても、人によって見え方は違います。

たとえば同じ地域イベントへ参加した学生でも、

一人は広報に問題があったと考える。

別の学生は企画内容に問題があったと考える。

地域住民は運営時間に問題があったと考える。

かもしれません。

自分一人で振り返ると、自分の視点だけで原因を考えてしまいます。

ほかの人と経験を共有すると、

「そんなふうに見えていたのか」

という発見があります。

異なる視点を取り入れることで、経験をより多面的に理解できるようになります。

次に試して初めて循環する

経験を振り返り、教訓を得ても、それだけでは経験学習の循環は完成しません。

重要なのは、次の行動を変えることです。

前回、イベントの告知が遅かった。

それなら次回は1カ月前から告知してみる。

役割分担が曖昧だった。

それなら担当者と期限を事前に決める。

地域住民のニーズを十分に把握できなかった。

それなら企画前に聞き取りを行う。

こうして振り返りから得た仮説を次の行動で試します。

その結果、うまくいったかどうかを再び振り返ります。

学習とは、一度答えを覚えて終わるものではありません。

行動と振り返りを繰り返しながら、自分なりのよりよい方法をつくっていくものなのです。

マイプロジェクトとも深く関係する

以前取り上げたマイプロジェクトは、経験学習と非常に相性のよい学び方です。

学生は自分でテーマを決めます。

実際に行動します。

しかし、最初から計画どおりに進むとは限りません。

そこで振り返ります。

なぜうまくいかなかったのかを考え、計画を修正します。

そして再び行動します。

つまりマイプロジェクトそのものが、

行動

振り返り

修正

再挑戦

という経験学習の循環になっています。

先生から正解を教えてもらうのではなく、自分の経験から自分なりの知識をつくっていくわけです。

フィールドワークも経験だけでは終わらせない

フィールドワークでも同じです。

地域へ行き、人から話を聞けば、それだけで多くの刺激があります。

しかし、

「地域の人と話せて楽しかった」

で終われば、学習としては十分ではありません。

なぜ自分はその話を印象的だと感じたのか。

事前に持っていた地域のイメージと何が違ったのか。

統計から予想していたことと現場の状況はどう違ったのか。

自分の質問の仕方に問題はなかったか。

こうしたことを振り返ることで、現地での体験が次の探究につながります。

経験学習は、今回のシリーズで取り上げてきたさまざまな実践型教育を支える考え方でもあります。

旅する大学では経験の種類が増える

今回のシリーズの出発点となった旅する大学では、学生が地域を移動しながら学びます。

地域が変われば、経験することも変わります。

ある地域では観光産業について学ぶ。

別の地域では農業について学ぶ。

さらに別の地域では製造業について学ぶ。

出会う人や地域文化も違います。

すると、一つの地域で得た教訓が別の地域でも通用するのかを試すことができます。

最初の地域では成功した方法が、次の地域では失敗するかもしれません。

そこで、

「なぜ今回は通用しなかったのか」

と考えます。

異なる環境を経験することで、自分の考え方を何度も検証できるのです。

仕事でも経験学習は重要になる

経験学習は学校教育だけの考え方ではありません。

仕事でも重要です。

営業担当者なら、

どの説明で顧客が興味を持ったのか

なぜ契約につながらなかったのか

どんな質問をされたのか

を振り返ります。

管理職なら、

なぜ部下に指示が伝わらなかったのか

どの任せ方ならうまくいったのか

会議の進め方に問題はなかったか

を考えます。

同じ仕事を繰り返す中でも、毎回少しずつ改善できます。

仕事そのものを学習の場にできるわけです。

失敗を隠す組織では学習しにくい

経験学習を考えるうえで重要なのが、失敗をどのように扱うかです。

失敗すると強く責められる組織では、人は失敗を隠そうとします。

すると、

何が起きたのか

なぜ失敗したのか

どうすれば防げたのか

という情報が共有されません。

同じ失敗が別の場所で繰り返される可能性があります。

もちろん重大なミスを何でも許せばよいということではありません。

しかし、失敗の責任を考えることと、失敗から学ぶことは分けて考える必要があります。

「誰が悪かったのか」だけで終わらず、

「なぜ起きたのか」

を考える組織ほど、経験を次の改善へつなげやすくなります。

AIは経験学習を支援できる

生成AIは、経験学習の振り返りを支援する道具にもなります。

たとえば活動内容を整理して、

何がうまくいったのか

考えられる原因は何か

別の見方はないか

次に何を試せるか

といった問いをAIと一緒に考えることができます。

自分では思いつかなかった視点を提示してもらうこともできるでしょう。

ただし、AI自身が本人に代わって経験することはできません。

地域の人に断られたときの戸惑い。

自分の企画が失敗したときの悔しさ。

チームで意見が対立したときの難しさ。

こうした経験をした本人だからこそ考えられることがあります。

AIは振り返りを支援できますが、経験そのものを置き換えるものではないのです。

結論

経験学習とは、実際に経験したことを振り返り、そこから教訓を得て、次の行動で試すことを繰り返す学習です。

重要なのは、単に多くの経験をすることではありません。

経験する。

振り返る。

そこから自分なりの考えをつくる。

次の行動で試す。

この循環によって経験が学びへ変わります。

そのため失敗も重要な教材になります。

失敗とは、自分の予想と現実が違っていたことを知らせる情報でもあるからです。

同時に成功したときも、「なぜ成功したのか」を振り返る必要があります。

今回のシリーズで取り上げてきたPBL、マイプロジェクト、フィールドワーク、サービスラーニング、越境学習などには、実際に行動し、その経験から学ぶという共通点があります。

そして旅する大学では、地域を移動することで異なる経験を繰り返し、自分の考え方を何度も試すことができます。

失敗しないことだけが学びではありません。

実際にやってみて、予想と違う現実に出会い、「なぜだろう」と考え、次の行動を変える。

その繰り返しそのものが、人を成長させる学習になるのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月9日 朝刊 「旅する大学」が養う発見力 移動しながら幅広い世代と交流

日本経済新聞 2026年9月9日 朝刊 地域の受け入れ継続へ 下調べと連携が不可欠

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