課題発見力とは何か 問題を解く能力より問題を見つける能力が重要になる理由編

人生100年時代
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学校では、問題を正しく解く能力が重視されます。

数学なら問題文を読み、公式を使って答えを求めます。

試験では問題があらかじめ用意されていて、受験者はその答えを考えます。

しかし、社会に出ると事情が変わります。

会社の売り上げが落ちた。

地域から若者が減っている。

お店にお客さんが来なくなった。

従業員が次々に辞めていく。

こうした現象が起きても、「原因はこれです」と問題文に書いてあるわけではありません。

そもそも何が問題なのかを自分で見つける必要があります。

そこで重要になるのが「課題発見力」です。

前回取り上げた探究学習でも、答えを出す前に問いを立てることが重要でした。

今回は、課題発見力とはどのような能力なのか、なぜ問題解決力だけでは十分ではないのかを考えてみます。

課題発見力とは何か

課題発見力とは、現状を観察し、理想とする状態との違いを見つけ、「何を解決すべきなのか」を明らかにする能力です。

たとえば、ある飲食店の売り上げが前年より20パーセント減少したとします。

売り上げ減少は目に見える現象です。

しかし、それだけでは何を改善すればよいのか分かりません。

来店客が減ったのでしょうか。

一人当たりの購入金額が減ったのでしょうか。

営業時間に問題があるのでしょうか。

競合店ができたのでしょうか。

商品の魅力が低下したのでしょうか。

それとも地域そのものの人口が減っているのでしょうか。

同じ「売り上げ減少」という現象でも、原因によって対策はまったく違います。

表面に見えている現象から、本当に取り組むべき課題を見つける力が課題発見力なのです。

問題解決力とは何が違うのか

課題発見力とよく一緒に使われる言葉が「問題解決力」です。

両者は似ていますが、役割が違います。

問題解決力は、

「この問題をどう解決するのか」

を考える能力です。

課題発見力は、その前にある、

「そもそも何を解決すべきなのか」

を考える能力です。

たとえば会社から、

「若者向け商品の広告を増やしてください」

と言われたとします。

問題解決だけを考えるなら、SNS広告を増やしたり、若者向けの動画を作ったりするでしょう。

しかし、そもそも売り上げが減った原因が広告不足ではなかったらどうでしょうか。

商品そのものが若者のニーズに合っていないのかもしれません。

価格が高すぎる可能性もあります。

ターゲットとして若者を選んだこと自体が間違っているかもしれません。

問題設定を間違えれば、優れた解決策を実行しても成果につながらないのです。

現実社会には問題文がない

学校と社会の大きな違いの一つがここにあります。

学校の試験では、

必要な条件

求める答え

問題の範囲

がある程度決まっています。

一方、現実社会では何を問題として考えるべきなのかさえ分からないことがあります。

たとえば地域の人口減少を考えてみます。

「若者が地域から出ていくこと」が問題だと考える人もいるでしょう。

しかし詳しく調べると、大学進学時に地域外へ出ることよりも、卒業後に戻ってこないことの方が大きな問題かもしれません。

さらに調べれば、働きたい企業が少ないことが原因かもしれません。

あるいは仕事はあっても、若者がその企業を知らないことが問題なのかもしれません。

問題を深く掘り下げるほど、最初に見えていた問題とは違う課題が見えてくることがあります。

現象と課題を区別する

課題発見で重要なのが、目の前の現象をそのまま課題だと思わないことです。

たとえば、

社員の残業が多い

という現象があるとします。

そこで、

「残業を減らすこと」

を課題に設定することもできます。

しかし、なぜ残業が多いのでしょうか。

仕事量が多すぎるのかもしれません。

人員が不足している可能性があります。

会議が多すぎるのかもしれません。

上司の承認に時間がかかっていることも考えられます。

使っているシステムが古く、単純作業に時間がかかっているのかもしれません。

原因を調べずに「残業禁止」とすれば、社員が仕事を持ち帰ったり、記録しない残業が増えたりする可能性もあります。

表面的な現象だけを変えても、根本的な問題が残っていれば別の形で現れることがあります。

なぜを繰り返すと問題が深くなる

課題を発見する方法の一つが、「なぜ」と繰り返し問いかけることです。

たとえば、

商店街の来店客が減った。

なぜでしょうか。

若い人が来なくなった。

なぜでしょうか。

若い人が欲しい商品を扱う店が少ない。

なぜでしょうか。

新しい店が出店しにくい。

なぜでしょうか。

空き店舗はあるのに、所有者が貸したがらない。

ここまで掘り下げると、最初に見えていた「来店客減少」とは違う問題が見えてきます。

本当の課題は広告不足ではなく、空き店舗を新しい事業者へ貸し出しにくい仕組みにあるのかもしれません。

もちろん「なぜ」と繰り返せば必ず正しい答えに到達するわけではありません。

データを調べたり、関係者から話を聞いたりして仮説を確認することも必要です。

それでも、最初に見えた現象をそのまま問題だと決めつけないことが重要です。

課題を発見するには観察が必要になる

課題は机の上だけで見つかるとは限りません。

実際の現場を見ることで初めて気づく問題があります。

たとえば高齢者の買い物支援について考えるとします。

統計を見ると、高齢化率やスーパーまでの距離などは分かります。

しかし実際に地域へ行くと、

スーパーまで坂道が続いている

バスはあるが本数が少ない

買い物袋を持って歩くのが難しい

スマートフォンを使った宅配サービスを利用できない

といった具体的な問題が見えてくるかもしれません。

数字だけでは見えない生活上の不便があります。

前回まで取り上げてきた旅する大学やフィールド型の教育で、学生が地域へ入る意味もここにあります。

現場を見ることは、課題発見の出発点になるのです。

人によって見える課題は違う

同じ場所を見ても、すべての人が同じ課題を見つけるとは限りません。

商店街を歩いても、

経営を学ぶ学生なら店舗の収益性

デザインを学ぶ学生なら看板や店舗配置

福祉を学ぶ学生なら高齢者の歩きやすさ

情報技術を学ぶ学生ならデジタル化

に注目するかもしれません。

自分が持っている知識や経験によって、見えるものが変わります。

だからこそ、複数の人が一緒に課題を考える意味があります。

自分には当たり前に見えていたことを、別の人が「これはおかしいのではないか」と指摘することがあります。

異なる背景を持つ人との対話は、新しい課題を発見するきっかけになります。

当事者の話を聞くことが重要になる

課題発見で注意したいのが、自分だけで問題を決めてしまうことです。

たとえば学生が地域へ行き、

「この地域は若者が少ないから、若者向けイベントが必要だ」

と考えたとします。

しかし地域住民に話を聞くと、困っているのはイベント不足ではなく、病院へ行く交通手段かもしれません。

あるいは若者を呼び込むことより、現在住んでいる人が安心して暮らせることを望んでいるかもしれません。

外から来た人に見える課題と、そこで暮らす人が感じている課題は一致するとは限りません。

そのため、

観察する

話を聞く

データを調べる

自分の仮説と照らし合わせる

という過程が必要になります。

課題を小さくすると行動しやすくなる

大きすぎる課題は、実際の行動につながりにくいという問題があります。

たとえば、

「地方創生を実現する」

という目標は非常に大きなものです。

一人の学生が短期間で解決できるものではありません。

そこで課題を具体化します。

たとえば、

地域の高校生が地元企業を知る機会が少ない

という課題なら、行動に移しやすくなります。

地元企業を紹介するイベントを開催する。

高校生と経営者の交流会を開く。

企業紹介の動画を作る。

具体的な取り組みを考えられます。

課題発見とは、大きな社会問題を見つけることだけではありません。

自分たちが実際に取り組める大きさまで問題を具体化することも重要なのです。

AIは課題発見を助けられるのか

生成AIは、課題発見にも利用できます。

大量のデータを整理したり、複数の原因を考えたり、異なる視点を提示したりすることができます。

たとえば、

「この地域で人口が減っている原因として何が考えられるか」

と尋ねれば、さまざまな仮説を提示してくれるでしょう。

しかし、AIが示した仮説が実際の地域に当てはまるとは限りません。

現場で暮らす人の感情や、人間関係、地域独自の事情など、データだけでは把握しにくいものもあります。

AIが課題発見を支援する時代になっても、

現場を見る

人の話を聞く

違和感を持つ

仮説を疑う

という人間の役割は残ります。

むしろAIが簡単に解決策を提示できるようになるほど、「そもそも何をAIに解かせるのか」という問題設定の重要性は高まるでしょう。

課題発見力は仕事でも重要になる

会社でも、上司から指示された仕事を正確にこなす能力は重要です。

しかし、それだけでは新しい価値を生み出すことは難しい場合があります。

顧客がまだ言葉にしていない不満。

社内で長年当たり前になっている非効率。

市場の小さな変化。

新しい技術によって可能になったこと。

こうした変化に気づき、

「ここに改善できる余地があるのではないか」

と考えることが、新しい商品やサービス、業務改善につながります。

課題発見力は、学生だけに必要な能力ではありません。

社会人にとっても重要な能力なのです。

結論

課題発見力とは、目の前で起きている現象をそのまま受け入れるのではなく、「本当に解決すべき問題は何なのか」を見つける能力です。

問題解決力が「どう解くのか」を考える力だとすれば、課題発見力はその前にある「何を解くのか」を決める力です。

問題設定を間違えれば、どれだけ優れた解決策を実行しても期待した成果にはつながりません。

そのためには、現場を観察し、人の話を聞き、データを調べ、「なぜ」と問い続けることが重要になります。

前回取り上げた探究学習で問いを立てることが重視されるのも、同じ理由です。

そしてAIが多くの解決策を短時間で提示できる時代になるほど、「そもそも何を解決すべきなのか」を決める人間の役割は重要になります。

社会では、問題文が用意されているとは限りません。

問題を上手に解く人だけでなく、まだ誰も問題だと思っていないことに気づける人が、新しい価値を生み出す時代になっているのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月9日 朝刊 「旅する大学」が養う発見力 移動しながら幅広い世代と交流

日本経済新聞 2026年9月9日 朝刊 地域の受け入れ継続へ 下調べと連携が不可欠

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