毎月の給料から5万円を貯金している人と、10万円を貯金している人がいるとします。
金額だけを見ると、10万円を貯金している人の方が家計に余裕があるように見えます。
しかし、前者の手取り月収が20万円、後者の手取り月収が60万円だったらどうでしょうか。
5万円を残している人は手取りの25パーセントを残しています。
10万円を残している人は約17パーセントです。
このように家計の余裕を考えるときには、貯蓄額だけでなく収入に対してどの程度のお金を残せているのかを見る方法があります。
それが貯蓄率です。
NISAなどで資産形成をするときにも、投資額だけを見るのではなく、家計全体でどの程度のお金を将来へ回せているのかを考えることが重要です。
貯蓄率とは何か
貯蓄率とは、収入のうち消費せずに残したお金がどの程度あるかを示す割合です。
家計管理では、手取り収入を基準として考えると分かりやすくなります。
例えば手取り月収が40万円で、生活費などに32万円使い、8万円残ったとします。
この場合、単純化すれば貯蓄率は20パーセントです。
手取り月収40万円のうち8万円を将来のために残しているからです。
一方、手取り月収40万円で39万円使えば、残るのは1万円です。
貯蓄率は2.5パーセントになります。
同じ収入でも、どの程度のお金を残せるかによって家計の余裕は大きく変わります。
貯蓄額だけでは分からないことがある
例えばAさんは毎月5万円を貯蓄しています。
Bさんは毎月10万円を貯蓄しています。
金額だけならBさんの方が多く貯蓄しています。
しかしAさんの手取り月収が20万円なら、5万円は収入の25パーセントです。
Bさんの手取り月収が60万円なら、10万円は約17パーセントです。
Aさんは収入の4分の1を将来へ回していることになります。
このように貯蓄額と貯蓄率では見えてくるものが違います。
貯蓄額は実際にいくら増えたかを見る数字です。
貯蓄率は収入に対してどの程度の余裕をつくれているかを見る数字です。
手取り収入を基準にすると分かりやすい
会社員の給与には額面金額と手取り金額があります。
例えば額面月収50万円でも、50万円すべてを自由に使えるわけではありません。
税金や社会保険料などが差し引かれます。
そのため自分の家計を管理する目的で貯蓄率を見る場合には、実際に使える手取り収入を基準に考えると分かりやすくなります。
手取り40万円で8万円残せるなら20パーセントです。
手取り50万円で10万円残せる場合も20パーセントです。
収入額は違いますが、どちらも手取りの5分の1を将来へ回していることになります。
貯蓄には預金だけでなく投資もある
貯蓄という言葉から、銀行預金を思い浮かべる人は多いでしょう。
しかし家計の資産形成を考える場合には、預金だけを見ると実態が分かりにくくなることがあります。
例えば毎月10万円を将来のために残している人がいるとします。
そのうち5万円を銀行預金にします。
残り5万円をNISAで投資します。
この場合、
預金5万円
投資5万円
合計10万円
を現在の消費に使わず、将来のために回していると考えることができます。
家計管理では、現金として残す部分と長期投資へ回す部分を合わせて考えると、資産形成全体が見えやすくなります。
貯蓄と投資は役割が違う
ただし預金と投資を同じものとして扱ってよいわけではありません。
預金は、生活防衛資金や近い将来使うお金を確保する役割があります。
一方、NISAなどを利用した投資は、長期間使わない余裕資金を運用する役割があります。
例えば毎月10万円を資産形成に回せるとしても、預金がほとんどない状態なら10万円すべてを投資することが適切とは限りません。
5万円を預金にする。
5万円を投資する。
という方法もあります。
生活防衛資金が十分に貯まったら、その後は投資の割合を増やすこともできます。
貯蓄率だけでなく、その中身も重要なのです。
高い貯蓄率は家計の強さにつながる
貯蓄率が高ければ、一般的には資産を形成する速度が速くなります。
例えば手取り月収40万円の人が毎月4万円を将来へ回せば、貯蓄率は10パーセントです。
年間では48万円になります。
毎月8万円なら20パーセントで、年間96万円です。
毎月12万円なら30パーセントで、年間144万円です。
運用収益を考えなくても、長期間続ければ大きな差になります。
また毎月一定額を残せる家計は、突然収入が減少した場合にも支出を調整できる余地がある可能性があります。
貯蓄率は資産形成の速度だけでなく、家計の余裕を見る一つの手掛かりにもなるのです。
貯蓄率を上げる方法は二つある
貯蓄率を高める方法は、大きく考えると二つあります。
一つは収入を増やすことです。
もう一つは支出を減らすことです。
例えば手取り月収30万円で支出が27万円なら、残るのは3万円です。
手取り収入が35万円に増えて支出が27万円のままなら、8万円残ります。
反対に収入が30万円のままでも、支出を24万円まで減らせば6万円残ります。
ただし、収入を増やすことも支出を減らすことも簡単ではありません。
特に住宅費や教育費など大きな固定費がある家庭では、短期間で貯蓄率を大幅に上げることが難しい場合があります。
高すぎる貯蓄率にも注意が必要
貯蓄率が高ければ高いほどよいのでしょうか。
必ずしもそうとは限りません。
例えば手取り月収40万円の人が、毎月20万円を貯蓄や投資へ回しているとします。
貯蓄率は50パーセントです。
それでも無理なく生活できているなら問題はありません。
しかし貯蓄率50パーセントを維持するために、
必要な医療を我慢する
人との交流を極端に減らす
学びへの支出をやめる
家族との旅行をすべて諦める
といった状態になっているなら、別の問題が生じます。
将来のお金を増やすことは重要ですが、現在の生活にもお金を使う意味があります。
経験にも使える時期がある
お金には、使う時期によって価値が変わるものがあります。
例えば子どもが小さい時期の家族旅行は、子どもが独立してから同じように経験することはできません。
若いうちに学んだ知識や技能が、その後の仕事に長期間役立つこともあります。
健康維持のための運動や食事にお金を使うこともあります。
こうした支出まで削って貯蓄率を高めれば、金融資産は増えるかもしれません。
しかし人生全体の豊かさまで増えるとは限りません。
元の記事で取り上げられた現金枯渇民の問題も、将来の資産形成を優先するあまり、現在の生活や経験を削りすぎることへの警鐘と考えることができます。
NISAへの投資額だけで家計を評価しない
NISAを利用していると、
毎月いくら積み立てているか
という数字が気になります。
月10万円投資している人を見ると、自分も10万円投資しなければならないように感じることがあるかもしれません。
しかし収入も生活費も家族構成も人によって違います。
手取り月収25万円の人の月5万円と、手取り月収100万円の人の月5万円では家計に占める負担が違います。
投資額の絶対額だけを比較しても意味がありません。
自分の収入のうち、どの程度を将来へ回すことができているのかを見る方が家計の状態を把握しやすくなります。
貯蓄率にも絶対的な正解はない
では貯蓄率は何パーセントならよいのでしょうか。
これにもすべての人に共通する正解はありません。
住宅購入直後で住宅ローンの負担が大きい家庭もあります。
子どもの教育費が最も大きくなる時期もあります。
反対に子どもが独立し、住宅ローンも完済した家庭では貯蓄率を高めやすくなる場合があります。
若い時期には自己投資へ多くのお金を使う人もいるでしょう。
収入や家族構成、年齢、将来の予定によって適切な割合は変わります。
特定の数字を絶対的な基準として追いかけるのではなく、自分の家計がどのように変化しているかを見るために利用することが重要です。
毎年確認すると家計の変化が分かる
貯蓄率は一度計算して終わりではありません。
例えば前年の貯蓄率が15パーセントで、今年が20パーセントになったとします。
収入が増えたのかもしれません。
固定費を減らせたのかもしれません。
逆に20パーセントから5パーセントに下がった場合には、教育費など必要な支出が増えた可能性があります。
単に貯蓄率が下がったから悪いとは限りません。
大切なのは、なぜ変化したのかを確認することです。
貯蓄率を見ることで、家計の変化を数字で把握しやすくなります。
貯蓄率を上げること自体を目的にしない
貯蓄率は便利な指標ですが、それ自体が人生の目標ではありません。
貯蓄率50パーセントを達成することが目的になれば、NISAの年間投資枠を使い切ることを目的にするのと同じ問題が起こる可能性があります。
数字を達成するために現在の生活を過度に犠牲にしてしまうからです。
貯蓄率は、
将来のために十分なお金を残せているか
現在の生活にも適切にお金を使えているか
というバランスを確認するために使うものです。
資産形成の数字に人生を合わせるのではなく、自分の人生に合わせて資産形成の数字を決めることが重要です。
結論
貯蓄率とは、収入のうち消費せず将来のために残したお金がどの程度あるかを見る割合です。
家計管理では、実際に使える手取り収入を基準に考えると分かりやすくなります。
同じ月5万円の貯蓄でも、手取り20万円の人と手取り50万円の人では意味が違います。
そのため貯蓄額だけではなく、収入に対する割合を見ることで家計の余裕を把握しやすくなります。
また将来へ回すお金は、すべて預金にする必要も、すべてNISAで投資する必要もありません。
生活防衛資金や近い将来必要になるお金は現金で確保し、長期間使わない余裕資金を投資するという役割分担が重要です。
そして貯蓄率は高ければ高いほどよいわけでもありません。
将来のためにお金を残すことと、現在の生活や経験にお金を使うことの両方に意味があります。
大切なのは何パーセント貯蓄したかを競うことではありません。
現在の生活を守りながら、将来のためにも継続的にお金を残せる家計をつくることなのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月7日 夕刊 現金枯渇民 NISAを優先するあまり