株主総会というと、大きなホテルや会議場に株主が集まり、壇上に社長や取締役が並んで経営状況を説明する光景を思い浮かべる人が多いでしょう。
ところが、株主が集まる会場そのものを用意せず、インターネット上だけで株主総会を開催する方法があります。
それが「バーチャルオンリー株主総会」です。
企業にとっては会場を確保する必要がなくなり、株主にとっては遠方からでも参加しやすくなります。一方で、通信障害や株主の質問機会をどう確保するかという新しい問題も生まれます。
株主総会のデジタル化を理解するうえで、まず押さえておきたい仕組みです。
バーチャルオンリー株主総会とは何か
バーチャルオンリー株主総会とは、株主が実際に集まる物理的な会場を設けず、インターネットなどを利用してオンラインだけで開催する株主総会です。
例えば午前10時から株主総会を開催するとします。
従来であれば、会社はホテルやホールなどに会場を設けます。
株主はその会場へ出向き、受付を済ませて総会に出席します。
バーチャルオンリー株主総会では、この会場がありません。
株主は自宅などからパソコンやスマートフォンを使って専用サイトへアクセスします。
そこで経営陣の説明を聞き、質問をしたり、議案について議決権を行使したりします。
つまり、株主総会という法律上の手続きをデジタル空間で完結させる仕組みです。
ハイブリッド型株主総会とは違います
オンラインを利用する株主総会がすべてバーチャルオンリーというわけではありません。
物理的な会場を残しながら、同時にインターネットでも株主が参加できる「ハイブリッド型株主総会」もあります。
例えば東京のホテルに株主総会の会場を設けます。
東京近郊の株主は会場へ行くことができます。
一方、北海道や九州に住んでいる株主はオンラインで参加できます。
リアルとオンラインを組み合わせるため、ハイブリッド型と呼ばれます。
これに対してバーチャルオンリー型には、株主が実際に集まる会場がありません。
すべてオンラインで行うところが最大の違いです。
なぜ従来は会場が必要だったのでしょうか
会社法は長い間、株主が一つの場所に集まって株主総会を開くことを基本的な前提としてきました。
会社が株主総会を招集するときには、株主に対して日時や場所などを知らせます。
これは当然といえば当然です。
株主が総会に出席するためには、「いつ、どこへ行けばよいのか」が分からなければならないからです。
しかし、インターネットが普及すると事情が変わりました。
物理的に同じ場所へ集まらなくても、映像や音声を通じてリアルタイムで経営陣の説明を聞くことができます。
質問を送ったり、電子的に投票したりすることもできます。
技術の進歩によって「株主総会には必ず物理的な会場が必要なのか」という問題が生まれたわけです。
現在は特例によって開催できます
日本では、一定の要件を満たす上場会社について、産業競争力強化法の特例を利用してバーチャルオンリー株主総会を開催できる仕組みがあります。
つまり、これまでの会社法の一般的な仕組みとは別に、特別な制度を設けることで完全オンライン総会を可能にしてきました。
企業が利用するためには一定の手続きや条件があります。
ここが重要です。
現在のバーチャルオンリー株主総会は、単純に「会社がオンラインでやりたいからオンラインで開催する」という仕組みではありません。
デジタル化による利便性を認めながら、株主の権利が不当に制限されないよう制度上の条件を設けています。
なぜ会社法そのものに入れるのでしょうか
会社法改正の議論で重要なのは、バーチャルオンリー株主総会を特例ではなく、会社法の一般的な制度として位置づける方向が検討されていることです。
特例制度は、あくまで特別なルールです。
これを会社法そのものに組み込めば、完全オンラインによる株主総会が株式会社制度の正式な選択肢の一つとして位置づけられることになります。
これは単なる法律上の整理ではありません。
株主総会について「株主が一つの場所に集まる」という従来の考え方そのものを変える意味があります。
企業には会場を用意しなくてよいメリットがあります
バーチャルオンリー株主総会には、企業側に大きなメリットがあります。
まず、広い会場を確保する必要がありません。
株主数の多い上場企業では、多くの株主が来場しても対応できる会場を用意する必要があります。
会場費だけではありません。
受付、案内、警備、機材、資料など、総会開催にはさまざまな準備が必要です。
オンライン化すれば、こうした物理的な運営負担の一部を減らすことができます。
もちろんオンラインシステムの構築やセキュリティー対策など別の費用は必要です。
それでも企業にとって開催方法の選択肢が増えることには意味があります。
株主にも大きなメリットがあります
完全オンライン化は、企業の効率化だけの話ではありません。
むしろ重要なのは株主側の参加機会です。
例えば福岡に住んでいる人が東京の会社の株式を保有しているとします。
午前10時から東京で開催される株主総会へ参加するには、交通費だけでなく移動時間も必要です。
そのため、株主総会に興味があっても参加を諦める人は少なくありません。
オンラインなら自宅から参加できます。
地方に住んでいる株主だけではありません。
高齢者、子育て中の人、仕事をしている人などにとっても参加のハードルを下げる可能性があります。
株主総会のデジタル化には、これまで参加しにくかった株主を総会へ呼び込む可能性があります。
通信障害という新しい問題が生まれます
一方、完全オンラインだからこその問題もあります。
代表的なのが通信障害です。
例えば株主総会の途中で会社側の配信システムが停止したとします。
株主が経営陣の説明を聞けません。
議決権を行使できなくなる可能性もあります。
一部の株主だけ接続できない場合も考えられます。
リアル会場なら会場そのものが突然消えることはありませんが、オンラインでは通信システムが株主総会の会場そのものになります。
そのため、システム障害が法律上どのような影響を与えるのかを明確にする必要があります。
株主の質問をどう扱うかも重要です
もう一つの問題が株主からの質問です。
リアルの株主総会では、株主が挙手し、議長から指名されて質問する方法が一般的です。
オンラインでは、チャットや専用フォームなどを利用して質問することになります。
すると大量の質問が短時間に届く可能性があります。
すべてに回答することは現実的ではありません。
会社側が質問を選ぶことになれば、「会社に都合の悪い質問を排除しているのではないか」という疑問も生じます。
オンライン化を進めるほど、株主の発言機会をどのように保障するかというルールが重要になります。
デジタル化と株主保護を両立させる必要があります
バーチャルオンリー株主総会を考えるとき、「オンラインの方が便利だから普及させればよい」と単純に考えることはできません。
株主総会は単なる会社説明会ではありません。
株主が経営陣に質問し、議案について意思表示し、取締役などを選ぶ会社法上の重要な機関です。
効率性だけを追求すると、株主の権利が弱くなる可能性があります。
反対に、トラブルの可能性を恐れて厳しい規制を設けすぎれば、企業はオンライン総会を利用しなくなります。
これからの制度設計では、企業の利便性と株主の権利保護のバランスが重要になります。
株主総会の意味そのものが変わっていきます
バーチャルオンリー株主総会が興味深いのは、単に紙や会場をインターネットへ置き換えるだけではないことです。
これまで株主総会への参加には場所という大きな制約がありました。
オンライン化によって、その制約が小さくなります。
すると、これまで株主総会へ行かなかった個人株主が参加する可能性もあります。
海外投資家が参加しやすくなる可能性もあります。
一方で参加者が増えれば、質問や議決権行使をどのように処理するのかという新しい課題も生まれます。
つまり、株主総会のデジタル化とは単なるコスト削減ではありません。
会社と株主がどのように意思疎通するのかという企業統治そのものの変化につながっています。
結論
バーチャルオンリー株主総会とは、物理的な会場を設けず、インターネット上だけで開催する株主総会です。
現在は一定の上場会社について特例制度を利用した開催が認められていますが、会社法改正では、完全オンライン総会をより一般的な制度として位置づける方向が議論されています。
企業には会場運営などの負担を軽減できるメリットがあり、株主には居住地にかかわらず参加しやすくなるメリットがあります。
その一方で、通信障害、質問の取り扱い、議決権行使などについて株主の権利をどのように守るのかという課題があります。
株主総会のオンライン化で本当に重要なのは、会場をなくせるかどうかではありません。
デジタル技術を使いながら、従来以上に会社と株主が対話できる仕組みをつくれるかどうかです。
バーチャルオンリー株主総会の制度化は、日本の株主総会が「場所に集まる総会」から「株主がどこからでも参加できる総会」へ変わる大きな転換点になる可能性があります。
参考
日本経済新聞 2026年9月7日 朝刊 会社と株主 変わる会社法下 株主総会の景色変えるか