なぜ省庁は自分の税優遇を廃止しにくいのか 財政全体と各省庁の利害が一致しない理由編

税理士
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政府が税制優遇を見直すとき、最も制度に詳しいのは、その政策を担当している省庁です。

それなら各省庁に自分たちの税制優遇を点検してもらい、効果の低い制度を自主的に廃止してもらえばよいように思えます。

しかし、実際にはそれほど簡単ではありません。

各省庁は税制優遇を監視するだけの立場ではなく、その制度を使って設備投資や研究開発、地域振興、子育て支援などを進める立場でもあるからです。

政府全体では税制優遇を減らして財源を確保したいとしても、個々の省庁から見れば、自分たちの政策手段を残したいという動機が働きます。

参考記事で、日本版DOGEによる自主点検を経ても約120件の税優遇のうち正式な廃止要望が3件にとどまった背景を理解するうえで、この構造は重要です。

省庁ごとに政策目的がある

政府には多くの省庁があり、それぞれ担当する政策分野があります。

例えば経済産業省であれば、産業政策や中小企業政策などを担当します。

国土交通省であれば、住宅、交通、国土政策などを担当します。

こども家庭庁であれば、子どもや子育てに関する政策を担います。

各省庁は、自分たちが担当する政策目的を実現するためにさまざまな手段を使います。

その一つが税制優遇です。

したがって税制優遇を廃止することは、単に税金の制度を一つなくすだけではありません。

省庁にとっては政策を実現するための手段を一つ失うことでもあります。

所管制度とは何か

税制優遇には、それぞれ政策目的があります。

その政策分野を担当する省庁が制度の必要性や利用状況などを把握しています。

例えば中小企業の事業再編を促す税制であれば、中小企業政策を担当する省庁が制度の運用に深く関わります。

このように各省庁が政策上担当している制度を所管制度と考えることができます。

所管省庁は制度について最も詳しいため、政策効果を評価するうえで重要な情報を持っています。

一方で、

制度を推進する立場

制度を廃止するか評価する立場

が同じになるという問題も生じます。

政策を作った側が自分で評価する難しさ

例えばある省庁が、

企業の設備投資を増やす必要がある

として設備投資減税を作ったとします。

数年後、その省庁に、

この制度は本当に必要ですか

と尋ねたとします。

制度を廃止すれば、これまで進めてきた政策手段を失います。

さらに、

そもそも制度に十分な効果がなかったのではないか

という議論につながる可能性もあります。

もちろん行政機関が必ず自分の制度を守ろうとするという意味ではありません。

しかし制度を推進する組織自身に廃止判断まで全面的に委ねると、継続する方向へ判断が傾きやすくなる可能性があります。

財政全体と各省庁では見えるものが違う

政府全体から見れば、税制優遇による税収減は財政負担です。

例えば法人税関係の租税特別措置によって数兆円の税収が減っていれば、その分だけ国が使える財源は小さくなります。

財政全体を考える立場からすれば、

効果の低い租特を廃止して税収を回復させたい

という考え方になります。

しかし個々の省庁から見ると事情が違います。

例えば100億円の税収減を伴う制度でも、その制度によって自分たちの政策分野の設備投資が増えるのであれば、残したいと考える可能性があります。

つまり、

政府全体では財源を増やしたい

各省庁では政策手段を維持したい

という方向の違いが生まれます。

省庁が廃止しても財源を自由に使えるわけではない

ここも重要な点です。

ある省庁が自分の所管する100億円規模の税制優遇を廃止したとします。

その結果、国全体として100億円の税収が増える可能性があります。

しかし、その100億円を所管省庁が自由に新しい政策へ使えるとは限りません。

財源は政府全体のものだからです。

省庁から見ると、

自分の政策手段を手放す

一方で、

そこで生まれた財源を自分の政策に使えるとは限らない

という構造になります。

自主的な廃止を促すことが難しい理由の一つです。

予算と税制では見え方も違う

補助金であれば、国の予算に歳出として計上されます。

例えば100億円の補助事業なら、100億円という支出が比較的見えやすくなります。

予算編成では毎年度、必要性などが検討されます。

一方、税制優遇は政府がお金を直接支出するわけではありません。

企業が支払う税金を軽くすることで支援します。

そのため100億円の税収を失っていても、

100億円を使っている

という感覚が弱くなりやすい面があります。

この見えにくさも、税制優遇が長期間残りやすい理由の一つになります。

自主点検には限界がある

各省庁に制度を自主点検してもらうこと自体には意味があります。

所管省庁だからこそ分かる利用実態や政策上の事情があるからです。

しかし、自主点検だけですべてを判断することには限界があります。

例えば制度について、

政策目的はまだ重要である

利用企業から継続要望がある

廃止すれば投資が減る可能性がある

と評価すれば、継続という判断になりやすくなります。

これに対して財政全体の立場からは、

税収減に見合う追加効果が本当にあるのか

という別の視点が必要です。

複数の視点から評価することが重要になります。

廃止しやすい制度だけが選ばれる可能性

自主点検で廃止対象を選ぶときには、利用実績のない制度や利用件数が極めて少ない制度が選ばれやすくなります。

利用者がいなければ、廃止による反発も小さいからです。

参考記事では、経済産業省が廃止を求めた登録免許税の軽減措置について、2024年度の制度開始以降、利用実績がありませんでした。

このような制度は整理しやすいでしょう。

しかし利用実績がない制度を廃止しても、もともと税収をほとんど失っていないため、大きな財源にはなりません。

廃止しやすさと財源効果が一致しないという問題があります。

大きな制度ほど自分では廃止しにくい

反対に、利用企業が多く減収額も大きな税制優遇ほど廃止は難しくなります。

多くの企業が制度を前提として設備投資や研究開発を行っている可能性があります。

業界団体などから継続要望が出ることも考えられます。

所管省庁にとっても、重要な政策手段になっているかもしれません。

そのため、

財源効果が大きい制度ほど自主的には廃止しにくい

という構造が生まれます。

日本版DOGEが本格的な財源確保を目指すのであれば、この難しい部分に踏み込む必要があります。

第三者的な評価が重要になる

こうした問題を小さくする方法の一つが、所管省庁だけで制度の存廃を判断しないことです。

例えば、

政策目標は明確か

実際に企業行動を変えたか

税収減はいくらか

同じ政策目的をもっと低いコストで達成できないか

といった共通の基準で評価します。

そして財政を担当する部門や政策評価を行う立場など、所管省庁とは異なる視点も入れて検証します。

所管省庁の専門知識は必要です。

同時に、その制度を残すこと自体を目的にしない評価の仕組みも必要なのです。

日本版DOGEの本当の課題

参考記事では、政府が約120件の優遇制度について各省庁に自主点検を求めました。

当初の点検で明確に廃止とされたのは1件でした。

その後、財務相が点検結果を税制改正要望に反映するよう求めましたが、正式な廃止要望は3件にとどまりました。

この結果は、自主点検だけで大規模な租特改革を進めることの難しさを示しています。

日本版DOGEで必要なのは、

各省庁に廃止候補を出してもらう

ことだけではありません。

制度を残す場合にも、

なぜ税収を減らしてまで続ける必要があるのか

を客観的なデータで説明する仕組みが重要になります。

結論

省庁が自分の所管する税制優遇を廃止しにくいのは、各省庁が制度を監視する立場であると同時に、その制度を使って政策を進める立場でもあるからです。

政府全体では、効果の低い税制優遇を廃止すれば財源を確保できます。

しかし個々の省庁から見れば、制度の廃止は自分たちの政策手段を失うことになります。

しかも廃止によって増えた税収を、その省庁が自由に使えるとは限りません。

このため財政全体の利益と各省庁の政策上の利益が必ずしも一致しない場合があります。

日本版DOGEによる租特改革を進めるのであれば、各省庁の自主点検は必要ですが、それだけでは十分ではありません。

所管省庁とは異なる視点から、政策効果と税収減を比較し、継続する制度にも説明責任を求める仕組みが重要です。

制度を廃止する側だけに理由を求めるのではなく、制度を残す側にも根拠を求めること。

そこまでできるかどうかが、日本版DOGEによる税制優遇改革の重要なポイントになります。

参考

日本経済新聞 2026年9月4日朝刊「日本版DOGE、税優遇廃止は3件どまり 財源捻出、年10万円」

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