税理士資格を取得した人の多くが、一度は独立開業を考えるのではないでしょうか。
かつては40代や50代での独立が一般的でした。しかし人生100年時代と呼ばれる現在では、働き方やキャリア設計が大きく変化しています。
60歳で定年を迎えたとしても、その後の人生は40年近く続く可能性があります。税理士として独立するなら60歳が良いのか、65歳が良いのか、それとも70歳なのか。
今回は人生100年時代における税理士開業のタイミングについて考えてみます。
60歳開業という選択肢
従来型の考え方では、60歳定年を機に独立するのが自然な流れでした。
60歳開業の最大のメリットは時間です。
仮に90歳まで働くとすれば、30年間の事業期間があります。
顧問先開拓や事務所ブランドの構築にも十分な時間を使えます。
また、会社勤務で培った経験や人脈もまだ活用しやすい年代です。
一方で課題もあります。
近年は再雇用制度が充実し、60歳以降も高収入で働けるケースが増えています。
勤務先で年収1,000万円以上を維持できる環境がある場合、その収入を手放して開業することには相応のリスクがあります。
さらに開業直後は収入が不安定になりやすく、事務所運営や営業活動への負担も小さくありません。
60歳開業は時間という大きな武器がある反面、経済的な機会費用も大きい選択肢といえるでしょう。
65歳開業という選択肢
現在、多くの企業では65歳までの雇用継続制度が整備されています。
65歳開業は、収入と準備期間のバランスが取れた選択肢といえます。
60歳から65歳までの5年間で、
- 開業資金を蓄える
- AIやDXを学ぶ
- 情報発信を継続する
- 専門分野を磨く
- 人脈を広げる
といった準備が可能です。
また65歳からは公的年金の受給開始も選択しやすくなります。
年金が生活費の一部を支えることで、開業後の売上目標を下げることができます。
その結果、無理な顧客獲得競争に巻き込まれず、自分がやりたい業務に集中しやすくなります。
人生後半戦の独立としては、最も現実的なタイミングと考える人も少なくありません。
70歳開業という選択肢
一見すると遅すぎるように感じるかもしれません。
しかし人生100年時代では、70歳はもはや引退年齢ではありません。
70歳で開業しても、90歳まで働けば20年あります。
しかも70歳まで勤務を続けた場合、
- 十分な資産形成
- 豊富な実務経験
- 強い専門性
- 広い人的ネットワーク
を持った状態で独立できます。
収入を生活のためだけでなく、社会貢献や自己実現のために考えられる点も大きな特徴です。
一方で体力面や健康面のリスクは高まります。
また、従来型の訪問中心ビジネスモデルでは負担が大きくなる可能性があります。
70歳開業を成功させるためには、オンラインを活用した軽量な事業モデルが重要になるでしょう。
これからの税理士開業は何が変わるのか
以前の税理士開業は、
- 駅前に事務所を借りる
- 顧問先を訪問する
- 記帳代行を行う
- 紙で申告書を管理する
というスタイルが一般的でした。
しかし現在は状況が大きく変わっています。
クラウド会計やAIの普及により、税理士の価値は入力作業から相談業務へ移りつつあります。
また、TeamsやZoomを活用すれば全国の顧客に対応できます。
これからの税理士開業は、
「事務所を持つか」
ではなく、
「どのような価値を提供するか」
が問われる時代になっていくでしょう。
人生100年時代の税理士に求められるもの
人生100年時代では、開業年齢そのものよりも重要なことがあります。
それは持続可能な働き方です。
若い頃と同じ働き方を70歳や80歳で続けることは難しいでしょう。
だからこそ、
- AIを活用する
- オンライン対応を進める
- 専門分野を持つ
- 情報発信を続ける
- 体力に依存しない仕組みを作る
ことが重要になります。
税理士という資格は知識と経験が資産になる職業です。
年齢を重ねることが必ずしも不利にならない数少ない専門職でもあります。
結論
税理士開業に絶対的な正解はありません。
60歳開業には時間という強みがあります。
65歳開業には収入と準備期間のバランスがあります。
70歳開業には経験と経済的な余裕があります。
重要なのは年齢そのものではなく、自分がどのような働き方を実現したいのかです。
人生100年時代における税理士開業は、単なる独立ではありません。長い人生の後半戦をどのように生きるかという選択でもあります。
開業時期を考える際には、収入だけでなく、健康、家族、働き方、そして人生の目的まで含めて考えることが大切ではないでしょうか。
参考
・厚生労働省「高年齢者雇用安定法関係資料」
・日本税理士会連合会「税理士登録者数等に関する統計資料」
・総務省統計局「人口推計」
・内閣府「令和版高齢社会白書」
・厚生労働省「人生100年時代構想に関する各種資料」