政府が企業の設備投資や研究開発、賃上げを促すために税制優遇を設けることがあります。
企業の税負担を軽くすれば、設備投資などに使えるお金が増えます。
そのため、減税額が大きければ大きいほど政策効果も大きいように感じるかもしれません。
しかし、そうとは限りません。
1000億円の減税を実施しても、企業が減税とは関係なく予定していた投資をしただけなら、政策によって新しい投資を生み出したとは言いにくくなります。
税制優遇を評価するときに重要なのは、いくら減税したかではなく、その減税によって企業の行動がどれだけ変わったかです。
日本版DOGEで税優遇を見直すうえでも、この「政策効果」をどう測るかが重要になります。
政策効果とは何か
政策効果とは、政府がある政策を実施したことによって生じた変化です。
例えば政府が設備投資を増やすために税制優遇を設けたとします。
制度導入後に企業の設備投資が増えれば、一見すると政策は成功したように見えます。
しかし、それだけでは政策効果があったとは言い切れません。
景気が良くなったために設備投資が増えたのかもしれません。
人手不足に対応するため、企業が自動化設備を導入したのかもしれません。
新しい技術が登場したことで、企業が設備を入れ替えただけかもしれません。
政策効果を考える場合には、
税制優遇があったから増えた部分
をできるだけ切り分ける必要があります。
利用件数と政策効果は違う
税制優遇の評価で分かりやすい数字が利用件数です。
例えば1万社が制度を利用したとします。
多くの企業に使われているため、成功した制度のように見えます。
しかし、利用件数は制度の利用状況を示しているだけです。
1万社のうち9000社が、税制優遇がなくても同じ設備投資をする予定だったとします。
この場合、9000社については税制優遇によって新しい設備投資を生み出したとは言えません。
一方、残り1000社が、
減税があったから投資に踏み切った
のであれば、この1000社の投資は政策による追加的な効果と考えられる可能性があります。
制度を利用した企業数と、制度によって行動を変えた企業数は同じではありません。
減収額と政策効果も違う
もう一つ注意したい数字が減収額です。
税制優遇によって法人税などが減れば、政府の税収も減ります。
例えばある税制優遇による減収額が年間1000億円だったとします。
1000億円という数字が大きいため、大規模な政策を実施していることは分かります。
しかし、1000億円の減税をしたから1000億円分の政策効果が生まれたとは限りません。
1000億円の税収を失っても、企業の行動がほとんど変わらなければ政策効果は小さい可能性があります。
逆に比較的小規模な減税でも、企業の新しい投資を大きく引き出すことができれば、効率的な政策になる可能性があります。
減税額は政策のコストを見る数字であり、政策効果そのものではないのです。
税制優遇がなかった世界と比べる
政策効果を考えるときに重要なのが、
その政策がなかったらどうなっていたか
という視点です。
例えば税制優遇を導入した後、企業の設備投資が1000億円増えたとします。
単純に考えると、
1000億円の設備投資増加が政策効果
と思ってしまいます。
しかし、税制優遇がなくても景気回復によって800億円増えていたとすれば、政策による追加効果は残り200億円だった可能性があります。
現実には、
税制優遇を実施した世界
と
税制優遇を実施しなかった同じ世界
を同時に観察することはできません。
ここに政策効果を測定する難しさがあります。
追加的な投資が重要になる
政策減税を評価するときには「追加性」という考え方が重要になります。
税制優遇によって新たに生まれた設備投資や研究開発などがどれだけあるかという視点です。
例えば企業がもともと10億円の研究開発を予定していたとします。
研究開発税制を利用した結果、研究開発費を12億円に増やしたのであれば、単純化すると追加的な2億円に注目することになります。
一方、税制優遇を利用したものの研究開発費は10億円のままだった場合、企業の税負担は軽くなっても研究開発そのものは増えていません。
政策目的が研究開発の拡大であれば、両者を同じ成果として扱うことはできません。
政策効果は投資額だけではない
もっとも、政策効果を設備投資額や研究開発費だけで判断することもできません。
設備投資によって生産性が上がれば、企業の利益が増える可能性があります。
研究開発から新製品が生まれれば、新しい市場が形成されるかもしれません。
賃上げが進めば、家計所得や消費の増加につながる可能性があります。
さらに企業の利益や給与が増えれば、法人税や所得税など別の税収が増えることも考えられます。
したがって税制優遇の政策効果は、
企業が最初にどれだけ行動を変えたか
その行動によって経済にどのような変化が生まれたか
という複数の段階で考える必要があります。
費用対効果を見る必要がある
政策効果が確認できても、それだけで制度を続けるべきとは限りません。
次に必要になるのが費用との比較です。
例えば年間100億円の税収を失う税制優遇によって、一定の設備投資増加が確認できたとします。
それでも、
100億円という財政負担に見合う効果なのか
を考える必要があります。
同じ100億円を別の政策に使った方が、より大きな経済効果を生み出せるかもしれないからです。
政府が使える財源には限りがあります。
税制優遇として税収を減らすことにも機会費用があります。
政策効果があるかだけではなく、その効果を生み出すためにどれだけの財政負担が必要だったのかを見ることが重要です。
利用されていない制度なら簡単なのか
参考記事では、日本版DOGEによる見直しで廃止要望が出た制度の一つとして、一定の中堅・中小企業が行う特別な事業再編にかかる登録免許税の軽減措置が紹介されています。
制度開始から利用実績がありませんでした。
このような制度は、利用状況という点では見直しを検討しやすいでしょう。
しかし、大きな財源を生み出すことは難しくなります。
誰も利用していなければ、制度を廃止しても税収はほとんど増えないからです。
反対に、多くの企業が利用する大規模な税制優遇を見直せば大きな財源が生まれる可能性があります。
ただし、その制度には実際の政策効果がある可能性もあるため、慎重な検証が必要になります。
日本版DOGEで本当に必要な検証とは何か
日本版DOGEで税制優遇を見直す場合、
利用件数が少ない制度を廃止する
だけでは大きな財政改革にはなりません。
本当に難しいのは、利用額が大きく、多くの企業が利用している制度の検証です。
例えば年間数千億円規模の税収減を生む制度があれば、
その減税によって企業の行動はどれだけ変わったのか
減税がなくても同じ行動をしていた企業はどれくらいいるのか
経済全体にどのような効果をもたらしたのか
財政負担に見合う効果なのか
を検証する必要があります。
そのうえで、効果の高い制度は残し、効果の低い制度は縮小や廃止を検討することになります。
単純な一律削減ではなく、政策効果に基づいて選別することが重要です。
結論
税制優遇の政策効果とは、減税を実施したことによって企業や個人の行動がどれだけ変わったのかを示すものです。
利用企業が多いからといって、政策効果が大きいとは限りません。
減税額が大きいからといって、成功した政策とも限りません。
重要なのは、
その税制優遇がなかった場合と比べて、設備投資や研究開発、賃上げなどがどれだけ追加的に生まれたのか
という点です。
さらに、その効果を生み出すためにどれだけの税収を失ったのかを比較する必要があります。
日本版DOGEが本格的な税制改革につながるかどうかは、利用実績の少ない制度を整理するだけではなく、大規模な税制優遇についても政策効果と財政コストを検証できるかにかかっています。
減税額ではなく、その減税によって何が変わったのか。
そこを見ることが、税制優遇を評価する出発点になります。
参考
日本経済新聞 2026年9月4日朝刊「日本版DOGE、税優遇廃止は3件どまり 財源捻出、年10万円」