企業向けの税制優遇には、さまざまな仕組みがあります。
代表的なものが「税額控除」と「損金算入」です。
どちらも企業の税負担を軽くする方向に働きますが、税金が減る仕組みは大きく異なります。
税額控除は、計算した税金そのものから一定額を差し引きます。
一方、損金算入は法人税を計算する前の所得を小さくします。
そのため、同じ100万円という数字が出てきても、100万円の税額控除と100万円の損金算入では税負担の軽減効果は同じではありません。
租税特別措置の規模や効果を考えるうえでも、この違いを理解しておくことが重要です。
税額控除とは何か
税額控除とは、計算された税額から一定額を直接差し引く仕組みです。
例えば、ある会社の法人税額が500万円だったとします。
その会社が100万円の税額控除を利用できれば、単純化すると納める法人税は400万円になります。
500万円から100万円を直接引くからです。
税額控除は税金そのものを減らすため、企業にとって税負担の軽減効果が分かりやすい制度です。
設備投資や研究開発、賃上げなどを促す政策税制で使われることがあります。
政府としては、
一定の行動をした企業について税金を直接軽くする
ことで企業の行動を後押しするわけです。
損金算入とは何か
損金算入は仕組みが異なります。
法人税は基本的に、法人税法上の所得をもとに計算します。
大まかに考えると、
益金から損金を差し引いて所得を求め、その所得に税率を掛けて税額を計算する
という流れです。
損金として認められる金額が増えれば、課税対象となる所得が小さくなります。
その結果として法人税が減ります。
つまり損金算入は、
税金そのものを直接減らす
のではなく、
税金を計算する土台となる所得を小さくする
仕組みです。
100万円の税額控除ならどうなるのか
具体的な数字で考えてみましょう。
単純化のため、ある会社の法人税額が300万円だったとします。
100万円の税額控除を利用できるとします。
この場合、
300万円から100万円を差し引く
ため、法人税額は200万円になります。
税負担は100万円減ります。
税額控除額100万円が、そのまま税額を100万円減らす方向に働くわけです。
実際の税制では控除限度額などさまざまな条件がありますが、基本的な考え方はこのようになります。
100万円を損金算入したらどうなるのか
今度は100万円を損金算入できるケースを考えます。
100万円を損金にできるからといって、税金が100万円減るわけではありません。
例えば課税所得が1000万円あり、単純化して税率を30パーセントと仮定します。
100万円を追加で損金算入できれば、課税所得は900万円になります。
課税対象が100万円減った結果、税負担は単純計算で30万円減ることになります。
つまり、
100万円の税額控除なら税額を100万円減らす
100万円の損金算入なら100万円に税率を掛けた分だけ税額を減らす
という違いがあります。
ここを混同すると、税制優遇の大きさを誤解してしまいます。
所得控除とは何が違うのか
個人の税金では「所得控除」という言葉をよく聞きます。
例えば基礎控除や扶養控除などです。
所得控除も基本的な考え方としては、税額そのものから差し引くのではなく、課税対象となる所得を小さくします。
そのため個人の所得税でも、
100万円の所得控除
と
100万円の税額控除
では効果が異なります。
100万円の所得控除を受けても、所得税が100万円減るわけではありません。
所得控除によって課税所得が100万円減り、その人に適用される税率に応じて税負担が軽くなります。
一方、税額控除は計算後の税額から直接差し引きます。
法人税の損金算入と個人所得税の所得控除は制度として同じものではありませんが、
税額を計算する前の段階で課税対象を小さくする
という点では似た考え方があります。
なぜ税額控除の方が分かりやすいのか
税額控除は政策効果を企業側に伝えやすいという特徴があります。
例えば、
一定の設備投資をすれば最大100万円を税額控除できる
と示されれば、企業は税負担がどの程度軽くなるのかを比較的イメージしやすくなります。
これに対して損金算入の場合、実際の税負担軽減額は税率などによって変わります。
さらに企業がそもそも税金を負担している状態なのかという問題もあります。
税制優遇の名称だけを見るのではなく、
何を基準に優遇額を計算するのか
どの段階で税負担を軽くするのか
を見る必要があります。
赤字企業では効果が違うこともある
税制優遇を考えるときには、企業が黒字なのか赤字なのかも重要です。
税額控除は、基本的には差し引く対象となる税額があることが前提になります。
法人税額がほとんど発生していない企業では、大きな税額控除制度が存在しても、その事業年度に十分なメリットを受けられない場合があります。
損金算入についても、赤字企業ではその年度に直ちに法人税を減らす効果が表れないことがあります。
したがって、
制度上は大きな税優遇が用意されている
ことと、
すべての企業が同じ金額のメリットを受けられる
ことは同じではありません。
企業の利益状況や制度の適用条件によって実際の効果は変わります。
同じ100万円でも政策コストは違って見える
日本版DOGEで租税特別措置を点検するときにも、この違いは重要です。
例えば二つの制度について、どちらも適用額が100万円と表示されていたとします。
一方が100万円の税額控除で、もう一方が100万円の損金算入であれば、その数字だけを並べて同じ規模の減税だと判断することはできません。
税制優遇の仕組みによって、
適用額
と
実際に失われる税収
の関係が異なるからです。
租特の規模を評価するときには、単に適用額だけを見るのではなく、その制度がどのように法人税額へ影響するのかまで確認する必要があります。
税優遇は最終的な減収額で考える必要がある
財政の観点から重要なのは、最終的にどれだけ税収が減ったのかです。
例えば企業に100億円の税額控除を認めれば、大きな税収減につながる可能性があります。
一方、100億円の損金算入が認められても、100億円そのものが税収減になるわけではありません。
さらに特別償却のように、税金を完全に免除するというより、税負担が発生する時期を前後させる性格を持つ制度もあります。
このため租税特別措置を比較する場合には、
制度の適用額はいくらか
実際の減収額はいくらか
税負担が永久に減るのか時期が変わるだけなのか
といった違いを見る必要があります。
日本版DOGEでは制度の中身まで見る必要がある
参考記事によると、法人税関係の租税特別措置による減収額は2024年度に約3.2兆円にのぼります。
この数字だけを見ると、租特を廃止すれば巨額の財源が簡単に生まれるようにも感じます。
しかし実際には、それぞれの租特で仕組みが異なります。
税額控除なのか、損金算入なのか、特別償却なのか。
さらに、その制度によって設備投資や研究開発などがどれだけ増えたのかという政策効果も考える必要があります。
日本版DOGEによる税優遇の見直しでは、制度名や件数だけではなく、
どの仕組みで
どれだけ税収を減らし
どれだけ政策効果を生み出しているのか
まで見ることが重要になります。
結論
税額控除と損金算入は、どちらも企業の税負担を軽くする方向に働きますが、その仕組みは大きく異なります。
税額控除は、計算された税額から一定額を直接差し引きます。
一方、損金算入は法人税を計算する前の所得を小さくし、その結果として税負担を軽くします。
そのため、100万円の税額控除と100万円の損金算入では、通常、税金が減る金額は同じではありません。
租税特別措置を評価するときには、単に適用額が大きいか小さいかを見るだけでは不十分です。
どの段階で税負担を軽くする制度なのか、実際にどれだけ税収が減るのか、そしてその減収に見合う政策効果があるのかまで考える必要があります。
日本版DOGEが本格的に租特を見直していくのであれば、こうした税制優遇の仕組みの違いを踏まえた検証が欠かせません。
参考
日本経済新聞 2026年9月4日朝刊「日本版DOGE、税優遇廃止は3件どまり 財源捻出、年10万円」