人手不足が深刻な介護業界で、「スポットワーク」を利用する事業所が増えています。
スポットワークとは、数時間や1日といった短い単位で働く仕組みです。
介護事業所にとっては、人手が足りない時間帯だけ働いてもらえるというメリットがあります。
一方、働く人にとっては、自分の空いている時間を利用して働けるほか、介護職を離れていた人が本格的に復職する前に現場を経験する「お試し復帰」として利用できる可能性もあります。
ただし、介護は一般的な仕事とは異なり、利用者との継続的な関係や安全への配慮が欠かせません。
今回は、スポットワークとはどのような働き方なのか、なぜ介護業界で利用が広がっているのかを整理します。
スポットワークとは何か
スポットワークとは、短時間や単発で働く働き方を指します。
例えば、ある介護施設が午後5時から午後8時までの3時間だけ人手を必要としているとします。
働きたい人がその募集に応募し、その時間だけ勤務します。
従来のアルバイトであれば、「毎週月曜日と水曜日に勤務する」「週3日働く」といった継続的な勤務が一般的です。
スポットワークでは、特定の日の特定の時間だけ働くことができます。
働く側から見れば、自分の都合に合わせて仕事を選びやすいという特徴があります。
事業所側から見れば、必要な時間に必要な人数を確保しやすくなります。
普通のアルバイトとは何が違うのか
スポットワークもアルバイトも、働いて賃金を受け取る点では同じです。
大きな違いは、働く期間や勤務の継続性です。
一般的なアルバイトでは、採用面接などを経て雇用され、一定期間継続して勤務するケースが多くなります。
例えば、「毎週3日、午前9時から午後3時まで」という働き方です。
これに対してスポットワークでは、「9月10日の午前9時から正午まで」といった単発の仕事を選ぶことができます。
翌日も同じ事業所で働くとは限りません。
必要なときだけ働くという意味で、より短期的な働き方なのです。
スマートフォンなどを通じて募集と応募を結びつけるサービスが普及したことで、こうした働き方を利用しやすくなっています。
なぜ介護現場で広がっているのか
介護事業所では、一日中同じ人数が必要とは限りません。
時間帯によって忙しさが変わるからです。
例えば、食事の時間帯には配膳や食事に関する支援が増えます。
入浴を行う時間帯には人手が必要になります。
夕方には食事や就寝に向けた業務が重なる場合があります。
こうした繁忙時間帯に合わせて常に多くの職員を配置すると、それ以外の時間帯には人員が余る可能性があります。
そこで、「忙しい3時間だけ1人増やしたい」という需要が生まれます。
参考記事で紹介された介護労働実態調査では、スポットワークを利用した理由として「必要な人数確保が容易にできる」が47.1パーセントで最も多く、「繁忙の時間帯にだけ雇える」が37.1パーセントと続いています。
介護事業所の人手不足と、スポットワークの特徴がかみ合っていることが分かります。
介護分野の利用が急速に増えている
参考記事によると、2025年度の介護労働実態調査では、事業所の8.9パーセントが過去1年間にスポットワークを利用した経験があると回答しています。
まだ介護事業所の大半が利用しているわけではありません。
しかし、利用は広がっています。
厚生労働省の職業紹介事業報告書では、スポットワークを含む有料の民間職業紹介を通じた施設介護の新規求職申し込みは、2024年度に81万6414件となり、前年度から87.4パーセント増えたとされています。
また、参考記事によると、スポットワーク仲介サービスを利用した介護分野の募集人数が2024年から大きく増えた事例もあります。
人手不足を背景として、介護業界でも短時間人材を活用する動きが強まっていることがうかがえます。
働く側にもメリットがある
スポットワークのメリットは介護事業所だけにあるわけではありません。
働く側も、自分の生活に合わせて仕事を選びやすくなります。
例えば、育児中でフルタイム勤務は難しいものの、子どもが学校へ行っている午前中だけなら働ける人がいるかもしれません。
別の介護施設で働いている人が、休日の数時間だけ別の施設で働くケースも考えられます。
介護職を辞めた人が、「いきなり週5日勤務は難しいが、まず3時間なら働いてみたい」と考える場合にも利用できます。
従来の求人では拾いにくかった「少しだけ働ける人」を介護人材として活用できる点が大きな特徴です。
潜在介護福祉士のお試し復帰になる
特に注目したいのが、潜在介護福祉士との相性です。
介護福祉士として長く働いていた人でも、数年間現場を離れると復職への不安を感じることがあります。
以前と同じように働けるだろうか。
体力は続くだろうか。
現在の介護現場についていけるだろうか。
職場の雰囲気は自分に合うだろうか。
こうした不安を抱えたまま、いきなり正社員として復職するのは心理的なハードルが高くなります。
スポットワークなら、まず数時間だけ実際の現場で働くことができます。
一度働いてみて問題なければ、もう一度同じ事業所で働く。
何度か経験した後で、本格的な就職を検討する。
このような使い方ができます。
参考記事では、専門家がスポットワークについて、離職者のお試し復帰や再就業の入り口として機能していると指摘しています。
事業所も働きぶりを確認できる
スポットワークによるお試し期間は、事業所にもメリットがあります。
通常の採用では、履歴書や職務経歴書、面接などを通じて応募者を判断します。
しかし介護では、それだけでは分からないことがあります。
利用者への声のかけ方はどうか。
周囲の職員と協力できるか。
介護に対する姿勢はどうか。
こうした点は、実際に働いている姿を見る方が分かりやすい場合があります。
一方、働く人も施設の雰囲気や仕事の進め方を確認できます。
双方が実際の仕事を通じて相性を確認できるため、その後の採用につながるケースがあります。
参考記事によると、スポットワークを利用したことのある介護事業所の28.0パーセントが、スポットワーカーを正社員などとして雇用した経験があると回答しています。
スポットワークが単発労働だけで終わらず、採用の入り口にもなっていることが分かります。
介護ならではの難しさもある
もっとも、介護のすべての仕事をスポットワークに置き換えればよいわけではありません。
介護サービスの相手は人です。
特に認知症の利用者の場合、見知らぬ介助者が次々に来れば戸惑う可能性があります。
介助者との信頼関係が重要になる仕事もあります。
また、新しいスポットワーカーが来るたびに常勤職員が施設のルールや利用者の状況を説明していれば、常勤職員の負担がかえって増える可能性があります。
人手不足を補うために人を増やしたのに、説明やフォローに時間を取られてしまえば効果が薄れてしまいます。
介護では、「何人スポットワーカーを入れるか」だけでなく、「どの仕事を任せるか」が重要になります。
業務の切り分けが重要になる
そこで必要になるのが業務の切り分けです。
例えば、利用者の身体状況を十分に理解したうえで行う専門的な身体介助は、継続的に働く職員が担当する方が適している場合があります。
一方で、清掃、配膳、備品補充などの周辺業務であれば、スポットワーカーが担当しやすいケースがあります。
スポットワーカーが周辺業務を担当することで、介護福祉士などの専門職が利用者へのケアに集中できる可能性があります。
つまり、スポットワークの本当の効果は、単に働く人数を増やすことだけではありません。
介護現場の仕事そのものを整理し、「専門職でなければできない仕事」と「他の人でも担える仕事」を分けるきっかけにもなるのです。
結論
スポットワークとは、数時間や1日といった短い単位で働く仕組みです。
介護事業所にとっては、繁忙時間帯など必要なときだけ人材を確保できるため、人手不足を補う方法として利用が広がっています。
しかし、介護分野におけるスポットワークには、もう一つ重要な可能性があります。
潜在介護福祉士のお試し復帰です。
いきなり正社員として復職するのではなく、まず数時間働いてみる。
職場の雰囲気を確認する。
自分が再び働けるか確かめる。
何度か働いた後、短時間勤務や正社員への移行を考える。
このような段階的な復職ルートをつくることができます。
一方で、利用者との継続的な関係や常勤職員の負担を考えれば、介護の仕事すべてをスポットワークへ置き換えることはできません。
重要なのは、スポットワークを単なる人手不足の穴埋めとして使うのではなく、業務を切り分け、専門職が専門的なケアに集中できる仕組みとして活用することです。
介護人材不足を「フルタイムで働ける人が足りない」という問題だけで考えない。
数時間なら働ける人、一度離れたものの少しずつ戻りたい人まで介護人材として捉えることが、人手不足への新しい対応策になりそうです。
参考
日本経済新聞 2026年9月4日朝刊 離職した介護人材の復職
日本経済新聞 2026年9月4日朝刊 介護、スポットワーク拡大 人手不足補う