保育の公定価格はどう決まるのか 同じ保育でも地域や子どもの年齢によって金額が違う理由編

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同じ保育園に通う子どもでも、保育に必要となる費用がすべて同じとは限りません。

0歳の子どもと5歳の子どもでは、必要となる保育士の人数や保育の内容が違います。

同じ年齢の子どもでも、東京の保育園と地方の保育園では人件費などの条件が異なります。

さらに施設の規模や職員配置などによっても、運営に必要となる費用は変わります。

こうした違いを反映しながら、認定こども園や幼稚園、保育所などの運営を支えているのが公定価格です。

公定価格は全国一律の単純な金額ではありません。

さまざまな条件を組み合わせることで、それぞれの施設に必要となる費用を算定する仕組みになっています。

公定価格とは何か

公定価格とは、教育や保育に必要となる費用について国が定める基準です。

認可保育所などでは、一般企業のように自由に基本的なサービス価格を決め、その売上だけで運営しているわけではありません。

国が定める公定価格を基礎として、保育施設の運営に必要な費用が公的に支えられています。

保育には保育士などの人件費だけでなく、施設の管理や給食、さまざまな運営費が必要です。

公定価格は、こうした費用を踏まえて保育サービスを継続して提供できるようにするための重要な仕組みです。

全国の保育園に同じ金額を支払うわけではない

公定価格という言葉から、全国一律の価格が決められていると思うかもしれません。

しかし、実際にはさまざまな条件によって金額が変わります。

代表的なのが、

子どもの年齢

施設の定員

地域

職員配置

施設が提供するサービス

などです。

なぜ複雑な仕組みになっているのでしょうか。

理由は、保育に必要となる費用が施設によって違うからです。

すべての施設に同じ金額を支給すると、必要な費用と公定価格が大きくずれる可能性があります。

子どもの年齢によって金額が違う

公定価格を考えるうえで特に重要なのが子どもの年齢です。

保育では、年齢の低い子どもほど手厚い人員配置が必要になります。

0歳児の場合、食事や着替え、睡眠、安全確認など、一人ひとりに細かな対応が必要です。

幼児になれば自分でできることが増えていきます。

そのため保育士1人が担当できる子どもの人数も年齢によって違います。

低年齢児を多く受け入れる施設ほど、多くの保育士を確保する必要があります。

保育士が増えれば人件費も増えます。

公定価格では、こうした年齢による必要経費の違いを反映する必要があります。

年齢による違いは人件費の違いでもある

例えば同じ30人の子どもを預かる場合を考えてみます。

低年齢児が中心の施設と、年齢の高い子どもが中心の施設では、必要となる保育士数が同じとは限りません。

保育は人件費の割合が大きいサービスです。

必要な保育士数が増えることは、そのまま施設の運営費増加につながります。

そのため単純に子ども1人あたり同額を支給する仕組みでは、低年齢児を多く受け入れる施設の負担が重くなってしまいます。

公定価格が子どもの年齢を考慮するのは、実際に必要となる人員配置を費用に反映するためです。

施設の定員によっても違う

公定価格は施設の定員などによっても変わります。

保育園には、子どもの人数に比例して増える費用だけでなく、一定程度固定的に必要となる費用があります。

例えば施設を運営するための管理業務などは、子どもが少ないからといって完全になくなるわけではありません。

小規模な施設と大規模な施設では、子ども1人あたりに換算した運営コストが違う場合があります。

そのため施設の規模も公定価格を考える重要な要素になります。

単純に在籍する子どもの人数だけを掛け算すればよい仕組みではありません。

地域によって人件費が違う

もう一つ重要なのが地域です。

東京などの大都市と地方では、一般的な賃金水準が違います。

全国一律の人件費を前提にすると、賃金水準の高い地域では保育士を採用できなくなる可能性があります。

そこで公定価格の人件費部分には地域差が設けられています。

国家公務員の地域手当などを踏まえた地域区分を利用し、人件費に一定割合を上乗せする仕組みです。

今回、こども家庭庁が見直そうとしているのも、この地域差です。

東京23区と周辺自治体で大きな差が生じる

新しい地域区分をそのまま適用した場合、東京23区では人件費部分に20パーセントの上乗せとなります。

一方、東京に隣接する埼玉県の川口市や戸田市などでは4パーセントです。

千葉県の市川市や浦安市などでは8パーセントとなります。

地域ごとの賃金水準を反映するという考え方自体には合理性があります。

しかし、大都市圏では行政区域と実際の労働市場が一致していません。

埼玉県や千葉県に住む保育士が東京都内へ通勤することは可能です。

そのため公定価格の地域差が大きすぎると、保育士の採用条件にも大きな差が生じる可能性があります。

基本となる価格だけでなく加算もある

公定価格は基本となる部分だけで構成されているわけではありません。

施設の取り組みや職員配置などに応じて、さまざまな加算が設けられています。

すべての保育施設がまったく同じ運営をしているわけではないからです。

より手厚い職員配置を行う施設もあります。

職員の処遇改善に取り組む施設もあります。

一定の条件を満たした施設について必要な費用を追加的に評価することで、保育サービスの質や職員の待遇を支える仕組みになっています。

したがって実際の公定価格を考えるときには、基本部分だけでなく、どのような加算が適用されているかを見る必要があります。

職員配置を手厚くすれば費用も増える

保育サービスの質を高める方法の一つが、職員配置を手厚くすることです。

最低限必要な人数だけで運営する場合と、それ以上の職員を配置する場合では人件費が違います。

職員数に余裕があれば、保育士1人あたりの負担を軽減できる可能性があります。

休暇を取得しやすくしたり、研修時間を確保したりすることにもつながります。

しかし、職員を増やせば当然人件費が増えます。

その費用を保育園がすべて独自に負担するのは難しい場合があります。

公定価格の加算には、こうした保育の質や職員配置を支える役割もあります。

公定価格と実際の保育士給与は同じではない

ここで注意したいのは、公定価格が上がった金額と保育士個人の給与がそのまま一対一で対応するわけではないことです。

公定価格は施設全体を運営するための費用を算定する仕組みです。

施設には複数の職員がおり、さまざまな運営費も必要になります。

保育士個人の給与は、施設の給与制度や勤続年数、役職などによっても違います。

自治体独自の支援が加わる場合もあります。

したがって地域加算が10パーセント高いから、個々の保育士の給与も必ず10パーセント高くなるという単純な関係ではありません。

ただし、公定価格は給与を支払う重要な原資なので、その水準が施設の賃金支払い能力に影響します。

公定価格を細かく設定する理由

公定価格を単純な全国一律価格にすれば、制度は分かりやすくなります。

しかし、それでは実際の費用構造に対応できません。

低年齢児が多い施設。

小規模な施設。

人件費の高い都市部。

手厚い職員配置を行う施設。

それぞれ必要となる費用が違います。

その違いを無視して同じ金額を支給すれば、ある施設には十分でも、別の施設では運営費が不足する可能性があります。

だからこそ公定価格は、複数の条件を組み合わせて算定する仕組みになっています。

細かい制度ほど境界で問題が起きやすい

一方、地域ごとに細かく価格を変えると別の問題が生じます。

それが地域区分の境界です。

境界を一本越えただけで加算率が大きく変わると、実際の生活圏ではほとんど条件が変わらないのに、公定価格だけが大きく変わることがあります。

東京23区と埼玉県南部などが典型です。

制度を細かくするほど実態を反映しやすくなる一方、区分の境目では不自然な格差が生じる可能性があります。

今回の見直しは、この境界問題を修正しようとするものともいえます。

公定価格は保育政策の設計図でもある

公定価格は単なる保育園への支払額ではありません。

どのような保育にどれだけの費用が必要なのかを国が評価する仕組みでもあります。

低年齢児には多くの費用が必要である。

地域によって人件費が違う。

手厚い職員配置には追加費用が必要である。

こうした考え方が公定価格の中に反映されています。

公定価格を見ることで、政府がどの部分に保育費用が必要だと考えているのかも分かります。

その意味では、公定価格は保育政策をお金に置き換えた設計図ともいえるでしょう。

結論

保育の公定価格は、全国の保育施設に一律の金額を支払う仕組みではありません。

子どもの年齢、施設の定員、地域、職員配置など、さまざまな条件を考慮して算定されます。

年齢の低い子どもほど手厚い保育士配置が必要になり、人件費も増えます。

施設規模によって子ども1人あたりの運営コストも変わります。

さらに地域によって一般的な賃金水準が違うため、人件費には地域差も設けられています。

そして基本となる価格だけでなく、施設の取り組みや職員配置などに応じた加算もあります。

公定価格が複雑なのは、保育に必要な費用そのものが施設によって違うからです。

一方、細かく地域を区分すると、東京23区と埼玉県南部のように、実際には一つの通勤圏なのに公定価格には大きな差が生じることがあります。

公定価格で重要なのは、単に全国一律にすることでも、細かく地域差をつけることでもありません。

実際に保育サービスを提供するために必要な費用を、できるだけ現実に近い形で制度へ反映することなのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月1日朝刊 こども家庭庁、保育士給与の地域差是正

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