家事というと、料理、洗濯、掃除、買い物などを思い浮かべる人が多いでしょう。
しかし、家庭を実際に動かしているのは、それだけではありません。
トイレットペーパーがなくなりそうなら補充する。
シャンプーの詰め替えをする。
郵便物を確認する。
ゴミ箱からゴミ袋を取り出し、新しい袋をセットする。
冷蔵庫の中の賞味期限を確認する。
こうした一つ一つの仕事には、はっきりした名前が付いていないことがあります。
それでも、誰かがやらなければ家庭生活は少しずつ不便になります。
こうした細かな仕事を考えるうえで使われるのが、名もなき家事という言葉です。
名もなき家事とは何か
名もなき家事とは、料理や洗濯、掃除のような代表的な家事の名前には含まれにくい、家庭内の細かな作業を表す言葉です。
例えばゴミ出しがあります。
ゴミ出しというと、朝にゴミ袋を持って集積場所へ運ぶ作業を想像します。
しかし、その前には、
各部屋のゴミを集める。
ゴミを分別する。
ゴミ袋を縛る。
ゴミの日を確認する。
ゴミ箱が汚れていれば掃除する。
新しいゴミ袋をセットする。
といった仕事があります。
集積場所まで運ぶ作業は数分でも、その前後には複数の小さな仕事が存在しているのです。
大きな家事の周囲には小さな家事がある
料理も同じです。
料理という一つの言葉の中には、
献立を考える。
冷蔵庫を確認する。
買い物リストを作る。
食材を購入する。
食材を保存する。
調理する。
食卓を準備する。
食器を片付ける。
残った料理を保存する。
調理器具を洗う。
といった仕事があります。
洗濯にも、
洗濯物を集める。
ポケットの中を確認する。
衣類を分類する。
洗濯機を回す。
干す。
取り込む。
たたむ。
収納する。
洗剤を補充する。
という作業があります。
私たちは大きな家事の名前だけで家庭の仕事を把握しがちですが、実際にはその周囲に多くの小さな仕事が存在しています。
数分の仕事でも毎日積み重なる
名もなき家事は、一つ一つを見ると大した作業ではないように見えます。
トイレットペーパーを交換するのに1分。
郵便物を整理するのに3分。
ゴミ袋を交換するのに2分。
洗剤を補充するのに1分。
それぞれ数分です。
そのため、
これくらい家事とはいえない。
と思うことがあります。
しかし家庭には、このような仕事が大量にあります。
仮に5分程度の小さな家事が1日に10回発生すれば50分です。
1年間続けば300時間を超えます。
もちろん毎日同じ仕事が発生するわけではありませんが、小さな仕事も積み重なると無視できない時間になります。
家事負担を考えるときには、大きな家事だけでなく、小さな作業の積み重ねを見る必要があります。
誰かが気づかなければ仕事は始まらない
名もなき家事には、もう一つ特徴があります。
誰かが必要性に気づかなければ、仕事そのものが始まらないことです。
例えばトイレットペーパーが残り一つになっているとします。
補充するためには、まず誰かが、
そろそろ買わなければ。
と気づく必要があります。
次に、
いつ買うのか。
どこで買うのか。
何個買うのか。
を判断します。
購入後には収納する必要もあります。
実際に商品を棚へ入れる時間は数分でも、その前に気づき、覚え、購入するという一連の仕事があります。
名もなき家事は、前回取り上げたメンタルロードとも深く関係しています。
家事負担が見えにくくなる理由
家庭内で、
自分も家事をかなりやっている。
という人と、
ほとんど私がやっている。
という人が同時に存在することがあります。
必ずしも、どちらかが事実と違うことを言っているとは限りません。
数えている家事が違う可能性があります。
例えば、
料理。
掃除。
洗濯。
ゴミ出し。
という大きな項目だけを数えれば、かなり公平に分担しているように見えることがあります。
しかし、
日用品の在庫確認。
学校からの連絡確認。
宅配便の受け取り。
子どもの衣類の整理。
クリーニングの受け取り。
家電の消耗品交換。
などまで数えると、負担の見え方が変わることがあります。
目に見えない小さな家事ほど、実際に行っている本人以外には認識されにくいのです。
やった人より気づいた人に負担が集まりやすい
家庭では、
気づいた人がやる。
というルールになっていることがあります。
一見すると公平です。
誰でも気づいた人が行えばよいからです。
しかし、実際には同じ人がいつも気づく場合があります。
部屋の汚れに気づく。
日用品の不足に気づく。
子どもの持ち物に気づく。
ゴミ箱がいっぱいなのに気づく。
すると、その人ばかりが名もなき家事を行うようになります。
さらに、
自分だけが気づいている。
という状態そのものがストレスになることもあります。
家庭内の負担を考える場合、誰が作業しているかだけでなく、誰がいつも必要性に気づいているのかを見ることも重要です。
家事を一覧にすると見え方が変わる
名もなき家事を減らす第一歩は、家庭内にどのような仕事があるのかを見えるようにすることです。
例えば一週間、
自分が家庭で行ったこと。
を記録してみます。
料理や洗濯だけではありません。
牛乳を補充した。
郵便物を整理した。
子どもの予定を確認した。
ゴミ袋を交換した。
洗剤を注文した。
宅配便を受け取った。
冷蔵庫を整理した。
こうした細かなものも記録します。
すると、
家庭にはこんなに仕事があったのか。
と気づくことがあります。
会社でも、業務改善をするときには最初に業務を洗い出します。
何の仕事が存在するのか分からなければ、効率化も分担もできないからです。
家庭でも同じです。
小さな家事ほど仕組み化しやすい
名もなき家事には、仕組みに任せやすいものもあります。
例えば日用品です。
毎回、
そろそろ洗剤がなくなる。
と考えて注文するのではなく、定期購入にすれば判断する回数を減らせます。
買い物リストを家族で共有すれば、不足に気づいた人がその場で追加できます。
ゴミの日を共有カレンダーに登録すれば、一人だけが覚えておく必要はありません。
家庭内の在庫場所を決めておけば、
どこにあるのか。
と探す時間も減らせます。
小さな家事は一回当たりの時間が短いため、効率化しても効果が小さく見えます。
しかし、発生回数が多ければ長期間では大きな違いになります。
やらないという選択もある
家事を効率化するときには、
どうすれば早くできるか。
だけでなく、
そもそも必要なのか。
と考えることも重要です。
例えば衣類を毎回きれいにたたんで収納しているとします。
家族が困らないのであれば、衣類によってはたたまず収納する方法もあります。
毎日掃除していた場所を、週に数回にしても問題ないかもしれません。
毎日の食事で複数のおかずを作っていたなら、一品減らすこともできます。
家事は、一度始めると習慣になり、
昔からそうしているから。
という理由だけで続けていることがあります。
長く働き続けることを考えるなら、家事を効率化するだけでなく、必要性の低い家事そのものをやめるという発想も必要になります。
家族全員が家庭の運営者になる
名もなき家事を一人だけが管理していると、その人が家庭全体の運営責任者になってしまいます。
そこで重要なのが、家族全員が家庭の運営に参加することです。
例えば、
ゴミ関係は夫。
洗濯関係は妻。
自分の部屋は子ども。
日用品は気づいた人が共有リストへ登録する。
というように役割を決める方法があります。
ポイントは、
頼まれたらやる。
から、
自分で気づいて対応する。
へ変えることです。
そうすれば、一人がすべての仕事を発見して指示する必要がなくなります。
家庭でも会社と同じように、管理する人だけに負担を集中させない仕組みが必要なのです。
名もなき家事を減らすことは自由時間を増やすこと
名もなき家事を一つ減らしても、空く時間は数分かもしれません。
しかし、
毎日の判断を一つ減らす。
毎週の作業を一つ自動化する。
毎月の仕事を一つ外注する。
ということを積み重ねれば、少しずつ自由な時間が増えていきます。
さらに重要なのは、頭の中で覚えておかなければならないことも減ることです。
働き続けるためには、仕事だけを効率化すればよいわけではありません。
仕事以外の時間に抱えている小さな負担を減らすことも重要です。
家庭に存在する大量の小さな仕事を一つずつ見直すことが、結果として仕事を続ける余力につながります。
結論
名もなき家事とは、料理、洗濯、掃除といった代表的な家事の名前には表れにくい、家庭内の細かな仕事です。
トイレットペーパーを補充する。
ゴミ袋を交換する。
郵便物を整理する。
洗剤の残量を確認する。
学校からのお知らせを見る。
一つ一つは数分で終わります。
しかし家庭には、このような小さな仕事が大量にあります。
さらに、作業するだけではありません。
必要性に気づき、覚え、判断し、準備する必要があります。
そのため、名もなき家事はメンタルロードにもつながります。
家事負担を減らすには、料理や掃除といった大きな家事だけを見るのでは十分ではありません。
家庭に存在する小さな仕事を見えるようにし、
家族で分担する。
仕組みに任せる。
外部サービスを利用する。
そもそもやめる。
という方法を考える必要があります。
長く働き続けるために手放すものは、大きな仕事だけとは限りません。
毎日数分ずつ自分の時間を奪っている小さな家事を減らすことも、持続可能な働き方をつくる重要な一歩なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月3日朝刊 働き続けるため「手放す」選択も