ランダム化比較試験とは何か 参加者をランダムに2群へ分けると政策の効果が分かる理由編

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ある政策を実施した後に景気が良くなったとします。

それだけを見れば、

「この政策には効果があった」

と思うかもしれません。

しかし、本当にそうでしょうか。

政策とは関係なく景気が回復した可能性もあります。海外経済が好調になったのかもしれません。別の政策が影響した可能性もあります。

政策の実施と結果が同時に起きただけでは、その政策が結果を引き起こしたとは言い切れません。

そこで因果関係を調べるために使われる代表的な方法が、ランダム化比較試験です。

RCTとは何か

ランダム化比較試験は英語でRandomized Controlled Trialといい、頭文字を取ってRCTと呼ばれます。

基本的な考え方は非常にシンプルです。

調査対象となる人をランダムに複数のグループへ分け、一方には調べたい政策や情報などを提供し、もう一方には提供しません。

その後、両グループの結果を比較します。

例えば1000人を対象として、物価に関する情報がインフレ期待に影響するか調べるとしましょう。

500人には物価に関する情報を提供します。

残りの500人には提供しません。

その後、両方のグループに、

「今後1年間で物価は何%上昇すると思いますか」

と尋ねます。

情報を受け取ったグループだけインフレ期待が大きく変化していれば、提供した情報が期待形成に影響した可能性が高いと判断できます。

なぜランダムに分けるのか

RCTで最も重要なのが、参加者をランダムに分けることです。

なぜ研究者が自由にグループ分けしてはいけないのでしょうか。

例えば、

「経済ニュースを毎日読む人」

には物価情報を提供し、

「あまり経済ニュースを読まない人」

には提供しなかったとします。

その後、両者のインフレ期待に違いが出ても、原因が分かりません。

提供した情報によって違いが生まれたのかもしれません。

しかし、もともとの経済知識の違いが影響した可能性もあります。

年齢、所得、学歴、職業などの違いが関係している可能性もあります。

これでは情報そのものの効果を取り出すことが難しくなります。

そこで、誰をどちらのグループに入れるかをランダムに決めます。

研究者の判断で選ばないことが重要なのです。

2群の条件をそろえる仕組み

例えば1000人を無作為に500人ずつへ分けたとします。

人数が十分に多ければ、年齢が高い人も低い人も、所得が高い人も低い人も、経済に詳しい人も詳しくない人も、両方のグループにある程度均等に振り分けられることが期待できます。

もちろん一人一人は違います。

しかし、グループ全体として見れば似たような構成になりやすくなります。

その状態で一方だけに特定の情報を提供します。

すると2群の大きな違いは、

「その情報を受け取ったかどうか」

になります。

その後に結果の違いを調べれば、情報による影響をより明確に分析できます。

ランダム化とは、単に公平に参加者を振り分けるための仕組みではありません。

比較するグループの条件をできるだけそろえ、調べたい要因以外の影響を小さくするための重要な仕組みなのです。

処置群と対照群を比較する

RCTでは、政策や情報などの介入を受けるグループを処置群、比較対象となるグループを対照群と呼びます。

例えば物価情報を提供する実験なら、

処置群には物価情報を提供する

対照群には物価情報を提供しない

という形になります。

実験前には両方のグループの平均的なインフレ期待が5%だったとしましょう。

その後、処置群だけに、

「現在の物価上昇率は3%です」

という情報を提供します。

すると処置群の期待が3.5%へ下がり、対照群は5%のままだったとします。

両者の差は1.5ポイントです。

条件が適切にそろえられていれば、この差を情報介入による効果として捉えやすくなります。

反実仮想という問題

政策の効果を調べるときには、大きな問題があります。

それが、

「同じ人に政策を実施した場合と実施しなかった場合を同時に観察できない」

という問題です。

例えば、ある人に物価情報を提供したとします。

その人のインフレ期待が5%から3%へ下がりました。

しかし、

「もしその人に情報を提供しなかったら、期待は何%だったのか」

を同じ時点で観察することはできません。

情報を受け取った自分と、受け取らなかった自分を同時に存在させることはできないからです。

この観察できないもう一つの状態を反実仮想といいます。

RCTでは、ランダムに作った対照群を使って、この観察できない状態を推測します。

処置群と似た人たちで構成された対照群が、

「情報を受け取らなかった場合」

の比較対象になるわけです。

これがRCTによって因果関係を調べられる重要な理由です。

相関関係だけでは政策効果は分からない

例えば、

「職業訓練を受けた人の方が年収が高い」

というデータがあったとします。

これだけを見ると、職業訓練によって年収が上昇したように思えます。

しかし、職業訓練へ参加する人は、もともと仕事への意欲が高いのかもしれません。

新しい技能を積極的に学ぶ人だから、訓練を受けなくても年収が高くなっていた可能性があります。

つまり、

職業訓練を受けたこと

年収が高いこと

に相関関係があったとしても、直ちに因果関係があるとは限りません。

参加者をランダムに分けるRCTであれば、こうした本人の意欲や属性などの違いによる影響を抑えやすくなります。

政策が本当に結果を変えたのかを調べるうえで強力な方法になるのです。

医学で発展してきた方法

RCTは医学の世界で広く利用されてきました。

例えば新しい薬の効果を調べる場合、参加者をランダムにグループ分けします。

一方には新薬を投与し、もう一方には比較対象となる薬や偽薬などを使います。

その後、症状の改善度などを比較します。

新薬を飲んだ人だけを見て、

「症状が改善したから薬が効いた」

と判断するわけではありません。

薬を飲まなくても自然に回復する人がいるからです。

比較対象を設けることで、新薬そのものによる効果を調べます。

この因果関係を検証する考え方は、経済学や社会科学にも広がっています。

経済学でもRCTが使われる理由

経済政策でも、

「この政策を実施したから結果が変わったのか」

を知る必要があります。

例えば、

教育支援によって学力は上がるのか

就職支援によって就職率は上がるのか

情報提供によって貯蓄行動は変わるのか

税制について説明すると働き方は変わるのか

物価情報を提供するとインフレ期待は変わるのか

といった問題です。

こうしたテーマでは、単純に政策を利用した人と利用しなかった人を比較するだけでは、もともとの属性や意欲の違いが結果に混ざってしまいます。

そこでRCTによって条件をできるだけそろえ、政策や情報そのものの効果を取り出そうとします。

経済学が、

「二つの数字に関係があるか」

だけではなく、

「何が何を引き起こしたのか」

を重視するようになるなかで、RCTは重要な研究手法の一つになっています。

RCTにも限界がある

もっとも、RCTを実施すれば何でも分かるわけではありません。

そもそも人をランダムに分けることが難しい政策があります。

例えば国全体の消費税率を一部の人だけ変更することは簡単ではありません。

倫理的な問題から実験できない場合もあります。

さらに、ある地域や特定の参加者を対象にした実験結果が、日本全国でも同じように当てはまるとは限りません。

実験では効果があっても、実際の政策として大規模に導入すると結果が変わる可能性もあります。

RCTは強力な方法ですが、万能な方法ではありません。

何を対象に、どのような条件で実験したのかを確認することも大切です。

結論

ランダム化比較試験とは、参加者をランダムに複数のグループへ分け、政策や情報などの介入を受ける処置群と、受けない対照群の結果を比較する方法です。

最大のポイントは、ランダムに分けることにあります。

参加者を無作為に振り分けることで、年齢や所得、知識、意欲などの違いを両グループの間でできるだけ均等にし、調べたい政策以外の影響を小さくできます。

そして対照群を、

「もし政策を実施しなかったらどうなっていたのか」

という反実仮想の比較対象として利用します。

政策の後に何かが変わったというだけでは、政策の効果とは言えません。

政策があった場合となかった場合をできるだけ公平に比較して初めて、その政策が結果を変えた可能性を検証できます。

医学だけでなく経済学でもRCTが利用されるのは、単なる相関関係ではなく、政策と結果の因果関係を明らかにすることが重要だからなのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月3日朝刊 家計の「期待」と経済(4) 期待形成に影響する情報

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