中小企業が銀行からお金を借りるとき、会社だけでなく社長個人にも保証を求められることがあります。
会社が1000万円を借り、返済できなくなった場合には、保証人となった経営者個人が返済を求められる可能性があります。
これが経営者保証です。
会社と社長は法律上別の存在なのに、なぜ社長個人まで会社の借金を保証するのでしょうか。
2026年5月に始まった企業価値担保権を理解するうえでも、経営者保証との違いは重要なポイントになります。
経営者保証とは何か
経営者保証とは、会社が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が会社の債務を保証することです。
例えば会社が銀行から3000万円を借りたとします。
会社の業績が悪化して借入金を返済できなくなった場合、経営者が保証人になっていれば、銀行は経営者個人に返済を求めることがあります。
つまり会社の借金であっても、経営者個人の財産に影響が及ぶ可能性があります。
中小企業金融では長く利用されてきた仕組みです。
会社と経営者は本来別の存在
株式会社などの法人は、経営者個人とは法律上別の存在です。
会社が銀行から借金をしたのであれば、原則として借金を返すのは会社です。
例えば会社が3000万円を借りたからといって、社長自身が3000万円を借りたことになるわけではありません。
この会社と個人を分ける仕組みは、法人制度の重要な特徴です。
ところが経営者が会社の借入金を個人保証すると状況が変わります。
会社が返済できなくなった場合に、経営者個人にも返済責任が及ぶ可能性があるからです。
会社と個人を分ける法人制度があっても、保証契約によって経営者が会社の信用を補うことになります。
なぜ銀行は経営者保証を求めるのか
銀行にとって融資で最も重要なのは、貸したお金を返してもらうことです。
しかし、中小企業の将来を正確に予測することは簡単ではありません。
大口の取引先を失うかもしれません。
原材料価格が急上昇するかもしれません。
経営者が病気になり、経営が不安定になる可能性もあります。
さらに中小企業では、会社と経営者個人のお金の関係が大企業ほど明確に分かれていない場合があります。
こうしたリスクを補う方法の一つとして経営者保証が利用されてきました。
会社が返済できなくなったときに経営者個人にも返済を求められるため、銀行にとっては融資のリスクを抑える手段になります。
経営者保証には規律付けの意味もある
経営者保証には、単なる返済の補完とは別の意味もあります。
経営者自身が会社の借入金を保証していれば、経営判断に対する責任感が強くなると考えられてきました。
例えば会社が無理な投資を行い、失敗しても経営者個人には何の影響もないとします。
そうすると過度なリスクを取る可能性があるという考え方があります。
一方、経営者自身も返済責任を負う可能性があれば、投資や借り入れについて慎重に判断することが期待されます。
これが経営者保証による規律付けです。
ただし、この仕組みが強すぎると別の問題が生じます。
経営者が挑戦しにくくなる
経営者保証の大きな問題の一つが、経営者が思い切った挑戦をしにくくなることです。
例えば新工場を建設すれば会社が大きく成長できる可能性があるとします。
しかし、そのためには銀行から1億円を借りなければなりません。
経営者保証を求められれば、事業に失敗したときに経営者個人の生活まで大きな影響を受ける可能性があります。
その結果、
新規事業をやめておこう
設備投資を小さくしよう
借金そのものを避けよう
と考える経営者が出てくる可能性があります。
金融機関にとってリスクを抑える仕組みが、企業の成長投資を抑えてしまうこともあるわけです。
事業承継でも問題になる
経営者保証は事業承継にも影響します。
例えば父親が経営する会社を子どもが引き継ぐとします。
会社には銀行からの借入金が1億円あります。
後継者が社長になる際に、銀行から経営者保証の引き継ぎを求められる場合があります。
後継者からすると、会社を引き継ぐと同時に巨額の借入金について個人保証を負う可能性があります。
会社そのものには魅力を感じていても、個人保証を理由に承継をためらうことがあります。
従業員や外部人材に会社を引き継いでもらう場合には、さらに大きな障壁になり得ます。
経営者保証の問題は、単なる融資の問題ではなく、中小企業の世代交代にも関係します。
経営者保証なしの融資もある
すべての中小企業融資に経営者保証が必要なわけではありません。
会社と経営者個人の資産や経理が明確に分離されている。
会社の財務基盤が強い。
金融機関へ必要な財務情報を適切に開示している。
こうした企業では、経営者保証に頼らない融資を検討しやすくなります。
つまり銀行が会社そのものの返済能力を十分に評価できれば、経営者個人の信用で補う必要性は小さくなります。
ここに事業性融資とのつながりがあります。
事業性融資では会社そのものを見る
事業性融資では、会社が持っている担保や経営者保証だけではなく、事業の内容や将来性を評価します。
どのような商品を販売しているのか。
競争力はあるのか。
顧客基盤は安定しているのか。
今後どのくらいキャッシュフローを生み出せるのか。
こうした会社そのものの力を金融機関が評価します。
会社の返済能力をより深く理解できれば、経営者個人の保証に過度に依存する必要性を減らせる可能性があります。
企業価値担保権で何が変わるのか
2026年5月に始まった企業価値担保権も、経営者保証などに過度に依存しない融資を広げるための仕組みとして注目されています。
企業価値担保権では、土地や建物など個別の資産だけではなく、会社の事業全体の価値を踏まえて融資を行います。
将来キャッシュフローがあります。
技術力があります。
ブランドがあります。
顧客基盤があります。
ノウハウがあります。
こうした会社の事業価値を金融機関が評価します。
つまり経営者個人の財産ではなく、会社が将来お金を生み出す力を融資判断の中心に近づけていく考え方です。
保証がなくなれば銀行の仕事は難しくなる
経営者保証への依存を減らすことは、銀行側から見ると簡単な話ではありません。
経営者保証がなければ、会社そのものの返済能力をこれまで以上に正確に判断する必要があります。
決算書を見るだけでは十分ではありません。
企業の技術力を理解する。
市場の将来性を調べる。
経営者と事業計画について話し合う。
融資後も売上や利益、在庫、資金繰りなどを確認する。
こうした継続的なモニタリングが重要になります。
経営者保証への依存を減らすということは、銀行がリスクを見なくてよくなることではありません。
むしろ会社の事業をより深く見る必要があるということです。
企業側にも責任が求められる
企業価値を中心に融資を受けるのであれば、企業側にも責任があります。
会社と経営者個人のお金を明確に分ける。
正確な決算書を作る。
金融機関へ経営情報を提供する。
事業計画を説明する。
業績が悪化した場合には早めに相談する。
こうした姿勢が重要になります。
経営者保証を外すということは、経営者の責任がなくなるという意味ではありません。
個人財産によって責任を負う方法から、透明性の高い経営や情報開示によって金融機関との信頼関係を築く方向へ変えていくことが重要になります。
結論
経営者保証とは、会社が銀行から借りたお金を返済できなくなった場合に備えて、経営者個人が会社の債務を保証する仕組みです。
金融機関にとっては融資リスクを抑える手段ですが、経営者にとっては会社の借金が個人の財産や生活にまで影響する可能性があります。
そのため、成長投資をためらわせたり、事業承継の障壁になったりする問題もあります。
2026年5月に始まった企業価値担保権では、不動産や経営者個人の信用だけではなく、会社の将来キャッシュフロー、技術、ブランド、顧客基盤などを含めた事業価値を重視します。
経営者保証への依存を減らすために必要なのは、単に保証をなくすことではありません。
金融機関が会社そのものを深く理解し、企業も経営情報を適切に開示することです。
会社がお金を借りるために社長個人の財産で信用を補う融資から、会社自身が将来稼ぐ力によって信用を得る融資へ変わっていくことが、企業価値担保権が目指す大きな方向の一つといえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年9月2日朝刊 小さくても勝てる 企業価値担保に借り入れ 資産に頼らずブランド評価