会社には、いったいいくらの価値があるのでしょうか。
会社が持っている現金、土地、建物、機械などを全部足せば分かるようにも思えます。
しかし、実際の企業価値はそれほど単純ではありません。
例えば、土地や工場をほとんど持っていなくても、多くの顧客から支持されるブランドを持つ会社があります。
独自の技術やノウハウを持つ会社もあります。
現在の利益は小さくても、これから売上が急速に伸びる会社もあります。
こうした会社の価値を考えるときに重要になるのが企業価値という考え方です。
2026年5月に始まった企業価値担保権でも、会社が持っている個別の資産だけではなく、事業全体が生み出す価値が重要になります。
企業価値とは何か
企業価値とは、会社の事業全体が持っている経済的な価値です。
会社にはさまざまな資産があります。
現金があります。
土地や建物があります。
工場の機械や設備があります。
商品や原材料などの在庫もあります。
これらは会社の価値を構成する重要な要素です。
しかし、会社は単に資産を保有するために存在しているわけではありません。
人材や設備、技術、ブランド、顧客基盤などを組み合わせ、商品やサービスを提供して利益を生み出します。
したがって企業価値を考えるときには、会社が現在どのくらい資産を持っているかだけではなく、事業によって将来どのくらいのお金を生み出せるのかを見ることが重要になります。
有形資産とは何か
会社の価値を考えるうえで分かりやすいのが有形資産です。
有形資産とは、物理的な形を持つ資産です。
代表的なのが土地や建物、機械、車両などです。
運送会社ならトラックがあります。
製造会社なら工場や工作機械があります。
ホテルなら建物があります。
こうした資産は比較的価値を把握しやすいため、銀行融資でも長く重視されてきました。
例えば5000万円の価値がある土地を会社が所有していれば、銀行はその土地を担保として融資できる場合があります。
もし会社が借入金を返済できなくなった場合でも、銀行は担保となっている土地を処分して資金を回収できる可能性があります。
そのため、従来の融資では有形資産を多く持つ会社が有利になりやすい面がありました。
無形資産とは何か
会社には形のない価値もあります。
これが無形資産です。
例えば、技術力があります。
長年蓄積してきた製造ノウハウがあります。
ブランドがあります。
顧客との取引関係があります。
販売網があります。
特許などの知的財産があります。
優秀な人材や組織の能力も、会社が利益を生み出すうえで大きな意味を持ちます。
こうしたものの中には、会社自身が長年かけて築いてきたため、貸借対照表にその経済的価値がそのまま計上されていないものもあります。
例えば、地域で非常に有名な飲食店があるとします。
長年の営業によって多くの固定客を獲得し、店名そのものがブランドになっているかもしれません。
そのブランドを自社で育ててきたからといって、貸借対照表にブランド価値1億円と自由に計上できるわけではありません。
しかし、そのブランドが将来の売上を生み出す力を持っていることは確かです。
企業価値を考える場合には、このような決算書だけでは十分に把握できない価値も重要になります。
同じ資産でも企業価値は違う
例えば、ほぼ同じ設備を持つ二つの会社があるとします。
A社もB社も土地、建物、機械などを合わせて1億円程度の資産を持っています。
しかしA社には独自の加工技術があり、多くの大手企業から継続的に注文を受けています。
今後も売上の増加が期待されています。
一方のB社は競争力を失い、取引先が毎年減っています。
保有している有形資産がほぼ同じだからといって、二つの会社の事業価値まで同じとは考えにくいでしょう。
A社は今後も利益やキャッシュフローを生み出す可能性があります。
B社は将来、売上や利益が減少する可能性があります。
会社の価値を見るには、現在保有している資産だけでなく、その資産を使って将来どれだけ稼げるのかまで考える必要があります。
将来キャッシュフローとの関係
企業価値を考えるうえで非常に重要なのが将来キャッシュフローです。
キャッシュフローとは、簡単にいえば会社に入ってくるお金と出ていくお金の流れです。
会社は商品やサービスを販売して現金を得ます。
そこから仕入代金、人件費、家賃、税金、設備投資などの支払いをします。
こうした活動を続けながら会社はお金を生み出します。
例えば、今後10年間にわたって安定して大きなキャッシュフローを生み出せる会社と、数年後には事業そのものが縮小する可能性の高い会社では、企業価値も異なります。
そのため企業価値を評価するときには、
今後どのくらい売上が伸びるのか
利益率はどうなるのか
どのくらい投資が必要なのか
どのくらい現金を生み出せるのか
といった将来の事業計画が重要になります。
ブランドが価値になる理由
ブランドも企業価値を構成する重要な要素です。
例えば同じような商品でも、消費者が特定の会社の商品を選び続ける場合があります。
その会社の商品だから買いたい。
その店だから利用したい。
こうした顧客からの信頼がブランドです。
強いブランドがあれば、新商品を販売したときにも顧客に選んでもらいやすくなります。
価格競争に巻き込まれにくくなる場合もあります。
つまりブランドは、将来の売上や利益につながる可能性があります。
参考記事で紹介されたクラフトジン製造のKokageも、企業価値担保権を利用した理由について、決算書中心ではなくブランドを評価する仕組みだったことを挙げています。
形のないブランドでも、将来キャッシュフローを生み出す力があれば企業価値を考える重要な要素になるわけです。
顧客基盤も企業価値になる
顧客基盤も同じです。
例えば毎月1000人の固定客が商品を購入する会社があるとします。
別の会社は毎月新規顧客を探さなければ商品が売れません。
売上高が現在同じだったとしても、将来の売上の安定性には違いがあります。
長期契約を結んでいる取引先が多数存在する会社もあります。
顧客との強固な関係は、将来キャッシュフローを予測するうえで重要な材料になります。
そのため、企業価値担保権でも顧客基盤などが企業の事業価値を判断する重要な要素になります。
技術やノウハウも価値になる
製造業では技術やノウハウが重要です。
例えば特殊な金属加工ができる会社があるとします。
機械そのものは他社でも購入できるかもしれません。
しかし、その機械を使って高精度の加工をするためには、長年蓄積した技術や職人の経験が必要な場合があります。
競合企業が簡単にまねできない技術を持っていれば、顧客から継続的に仕事を受注できる可能性があります。
つまり技術やノウハウも将来のキャッシュフローを生み出す源泉です。
企業価値を評価する場合には、機械の値段だけではなく、その会社が機械を使って何を生み出せるのかを見る必要があります。
企業価値担保権で何が変わるのか
2026年5月に始まった企業価値担保権では、こうした企業価値を見る考え方が融資と結びつきます。
従来の融資では、
土地はいくらあるのか
建物はいくらあるのか
担保にできる資産はいくらあるのか
といった点が重要でした。
企業価値担保権では、それに加えて、
どのくらい将来キャッシュフローを生み出せるのか
どのような顧客基盤を持っているのか
どのような技術やノウハウを持っているのか
ブランドに競争力があるのか
事業計画に実現可能性があるのか
といった点が重要になります。
つまり会社の過去の蓄積だけではなく、これから稼ぐ力を見ることになります。
企業価値は簡単には計算できない
ただし、企業価値の評価には難しさもあります。
土地であれば周辺の取引事例などを参考にして価値を推定できます。
上場株式であれば市場で株価が付いています。
しかし、中小企業のブランドにいくらの価値があるのかを正確に計算することは簡単ではありません。
技術力についても同じです。
現在は優れた技術でも、新しい技術が登場すれば価値が低下する可能性があります。
将来の売上や利益も予想通りになるとは限りません。
だからこそ企業価値担保権では、金融機関が企業の事業内容を深く理解する必要があります。
企業側にも、自社がなぜ将来利益を生み出せるのかを説明する力が求められます。
企業価値を見る融資は、担保を見る融資より簡単なのではありません。
むしろ金融機関と企業の双方に、より深い事業理解が必要になる融資といえます。
結論
企業価値とは、会社が持っている土地や建物、現金などを単純に合計したものではありません。
会社には技術、ノウハウ、ブランド、顧客基盤、人材など、事業によって将来のお金を生み出すさまざまな力があります。
そして企業価値を考えるうえでは、こうしたものを組み合わせて将来どのくらいキャッシュフローを生み出せるのかが重要になります。
2026年5月に始まった企業価値担保権も、この考え方を中小企業の資金調達につなげる仕組みです。
不動産を多く持っていなくても、強いブランドや独自技術、安定した顧客基盤などを持ち、将来のキャッシュフローを期待できる企業であれば、その事業価値を踏まえて融資を受けられる可能性があります。
会社を見る物差しが、持っている土地や建物の大きさだけではなく、これからどれだけ価値を生み出せるのかへ広がっているのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月2日朝刊 小さくても勝てる 企業価値担保に借り入れ 資産に頼らずブランド評価