銀行から会社がお金を借りるとき、何を見て融資するかどうかを決めるのでしょうか。
会社の決算書、不動産などの担保、経営者による個人保証を思い浮かべる人が多いかもしれません。
もちろん、こうした情報は重要です。
しかし、それだけでは将来性のある会社を十分に評価できない場合があります。
例えば、優れた技術やブランド、安定した顧客基盤を持っているものの、担保にできる土地や建物をほとんど持っていない会社です。
そこで重要になっている考え方が事業性融資です。
事業性融資では、会社が現在どれだけ資産を持っているかだけではなく、その事業が将来どれだけ稼ぐことができるのかを重視します。
事業性融資とは何か
事業性融資とは、企業が営んでいる事業の内容や将来性、収益力などを評価して行う融資です。
銀行が会社へ1000万円を貸すとします。
銀行にとって最も重要なのは、その1000万円が将来きちんと返済されるかどうかです。
返済の原資になるのは、基本的には会社が事業によって生み出すお金です。
商品を販売する。
サービスを提供する。
そこから売上を得る。
仕入代金や人件費などを支払う。
その結果として残ったキャッシュフローから借入金を返済します。
つまり本来、融資の返済能力を判断するには、その会社の事業が将来どれだけお金を生み出せるのかを見ることが重要になります。
事業性融資は、この考え方を重視する融資です。
従来型融資との違い
従来の銀行融資では、会社の財務内容に加えて、担保や保証が重要な役割を果たしてきました。
代表的なのが不動産担保です。
会社が土地や建物を所有していれば、それを担保として銀行から融資を受けることができます。
会社が返済できなくなった場合、銀行は担保を処分して融資した資金を回収できる可能性があります。
中小企業では経営者本人が会社の借入金を保証する経営者保証が利用される場合もあります。
これらは銀行側から見ると、貸し倒れによる損失を抑えるための重要な仕組みです。
一方で問題もあります。
事業そのものには将来性があるのに、不動産を持っていないため融資を受けにくい会社が出てくるからです。
事業性融資では、不動産の有無だけではなく、その会社がどのような事業を行い、今後どのくらい稼げるのかを評価します。
将来キャッシュフローを見る理由
事業性融資を理解するうえで重要なのが将来キャッシュフローです。
例えば、現在1000万円の利益を出している会社があったとします。
しかし、主力商品の市場が急速に縮小しているのであれば、5年後も同じ利益を出せるとは限りません。
反対に、現在は利益が100万円しかない会社でも、新しい商品への注文が急増しており、数年後には大きな利益を生み出す可能性があります。
銀行が現在の決算書だけを見ていれば、前者の会社を高く評価するかもしれません。
事業の将来性まで見ると評価が逆転することがあります。
そこで、
市場は成長しているのか
競争力のある商品を持っているのか
固定客はいるのか
技術力はあるのか
経営者には実行力があるのか
今後どのくらい売上や利益が伸びるのか
といった点まで確認します。
その結果から、将来どれだけキャッシュフローを生み出せるのかを考えます。
決算書だけでは分からない価値がある
会社の強さは、すべて決算書に表れるわけではありません。
例えば、長年取引している優良顧客が多数いる会社があります。
特殊な加工技術を持つ町工場もあります。
地域で高い知名度を持つブランドもあります。
優秀な技術者が集まっている会社もあります。
こうしたものは会社が将来利益を生み出す重要な要素ですが、土地や建物のように貸借対照表へその価値がそのまま計上されるとは限りません。
事業性融資では、このような決算書だけでは把握しにくい企業の強みも見ていきます。
銀行員には数字を読む能力だけでなく、会社の事業そのものを理解する能力が求められます。
銀行は会社の事業を理解する必要がある
事業性融資では、銀行と会社との対話が重要になります。
銀行員が決算書を受け取り、財務比率を計算するだけでは十分ではありません。
どのような商品を作っているのか。
なぜ顧客から選ばれているのか。
競合企業との違いは何か。
どのような技術を持っているのか。
今後どの市場を開拓するのか。
どのようなリスクがあるのか。
こうしたことを企業側から聞き取る必要があります。
場合によっては工場や店舗などの現場を見ることも重要になります。
企業側にも、自社の強みや将来計画を銀行へ説明する力が求められます。
事業計画が重要になる
事業性融資では、事業計画も重要になります。
例えば銀行から5000万円を借りて新しい工場設備を導入するとします。
企業は単に設備を買いたいと説明するだけではありません。
5000万円を投資すると生産能力がどのくらい増えるのか。
売上はいくら増えるのか。
利益はいくら増えるのか。
その利益から借入金をどのように返済するのか。
こうした計画を説明します。
銀行側はその数字が現実的なのかを検討します。
融資の審査そのものが、企業の事業計画を検証する機会にもなるわけです。
企業価値担保権との関係
2026年5月に始まった企業価値担保権は、こうした事業性融資の考え方と深く関係しています。
企業価値担保権では、不動産など個別の資産だけではなく、会社の事業全体の価値を踏まえて融資を行います。
将来キャッシュフロー、技術力、ブランド、顧客基盤、ノウハウなどが重要になります。
つまり、
今どれだけ資産を持っているか
だけではなく、
これから事業によってどれだけ価値を生み出せるか
を見ることになります。
そのため企業価値担保権を活用する金融機関には、従来以上に事業を見る力が求められます。
中小企業にはどのようなメリットがあるのか
事業性融資が広がることは、中小企業にとって大きな意味があります。
中小企業の中には優れた技術や顧客基盤を持ちながら、不動産などの資産をあまり持っていない会社があります。
創業して間もない企業なら、そもそも十分な資産を蓄積していないこともあります。
こうした会社が担保だけで評価されると、必要な成長資金を調達できない可能性があります。
事業性融資では、事業の将来性を説明できれば融資につながる可能性があります。
ただし、事業性融資だから簡単にお金を借りられるわけではありません。
むしろ企業側には、自社の事業を数字と言葉の両方で説明する力が求められます。
銀行から見ても、担保だけを確認するより手間がかかります。
企業と銀行が互いに事業を理解しながら資金調達を考えることが重要になります。
結論
事業性融資とは、不動産などの担保だけに依存するのではなく、企業の事業内容や将来性、収益力などを評価して行う融資です。
銀行への返済資金を最終的に生み出すのは、土地や建物ではなく会社の事業です。
そのため、将来キャッシュフロー、技術力、ブランド、顧客基盤、経営者の能力なども重要な判断材料になります。
2026年5月に始まった企業価値担保権も、この考え方と深く結びついています。
企業側には、自社の強みと将来の事業計画を金融機関へ説明する力が必要になります。
金融機関側には、決算書や担保だけではなく、企業の事業そのものを評価する目利き力が必要になります。
事業性融資が広がるということは、銀行融資の基準が単純に緩くなることではありません。
会社が過去にどれだけ資産を蓄積したかを見る融資から、これからどれだけ稼ぐ力を持っているかを見る融資へと、評価の対象が広がっていくことだと考えると分かりやすいでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年9月2日朝刊 小さくても勝てる 企業価値担保に借り入れ 資産に頼らずブランド評価