学校の授業では、同じクラスの子どもが同じ教科書を使い、同じ問題を解くという学び方が長く続いてきました。
しかし、同じ授業を受けていても理解度は一人ひとり違います。
すでに内容を理解している子どもにとっては簡単すぎる問題かもしれません。一方で、途中の単元でつまずいている子どもにとっては、同じ問題が難しすぎることがあります。
この問題をデジタル技術によって解決しようとしているのがAIドリルです。
AIが子どもの解答状況などを分析し、それぞれの理解度に応じた問題を提示します。
生成AI時代の学校教育を考えるうえで重要な、個別最適な学びを支える仕組みの一つです。
AIドリルとは何か
AIドリルとは、AIなどの技術を利用して、児童生徒の学習状況に応じた問題を提示するデジタル教材です。
タブレット端末やパソコンなどを使って問題を解きます。
特徴は、単に紙の問題集を画面に表示するだけではないことです。
子どもが問題を解くと、その正誤や学習履歴などをもとに、次にどの問題を出すのかをシステムが判断します。
例えば、ある単元を十分理解していると判断されれば、より難しい問題へ進むことができます。
反対に理解が十分でなければ、同じレベルの問題を繰り返したり、前の単元まで戻ったりすることができます。
一人ひとりに異なる問題集をリアルタイムで作っていくような仕組みだと考えると分かりやすいでしょう。
従来の問題集とは何が違うのか
紙の問題集では、基本的に問題の順番は最初から決まっています。
1番の次は2番、その次は3番というように進みます。
問題集によって基礎、標準、応用などに分かれていることはありますが、どの問題を解くかを判断するのは本人や教員です。
AIドリルでは、この部分の一部をシステムが担います。
問題を正解したか。
どの問題で間違えたか。
どの分野を苦手としているか。
こうした学習データをもとに、次に取り組む問題を変えていきます。
同じ小学5年生の算数を勉強していても、AさんとBさんの画面には違う問題が表示されることがあります。
ここが従来の問題集との大きな違いです。
間違えた問題から弱点を探す
AIドリルの重要な役割の一つが、つまずきを見つけることです。
算数や数学では、以前に学習した内容が理解できていないために、新しい内容が分からなくなることがあります。
例えば分数の計算が苦手な子どもが、より高度な計算問題でつまずいているとします。
目の前の問題だけを繰り返しても、なかなか解けるようにならないかもしれません。
原因が以前に習った分数の基本にあるからです。
AIドリルでは学習履歴などから弱点を推定し、必要に応じて前の学習内容に戻って問題を出す仕組みがあります。
単に間違えた問題をもう一度解かせるのではなく、なぜ間違えたのかをたどっていくところに特徴があります。
理解している子どもは先へ進める
反対に、すでに内容を理解している子どもに同じ問題を何度も解かせる必要はありません。
例えば10問解かなければならないドリルがあったとして、最初の数問で十分に理解していることが分かった場合には、より難しい問題へ進ませることも考えられます。
これによって学習時間を効率的に使うことができます。
従来の一斉授業では、クラス全体の進度に合わせる必要がありました。
理解が速い子どもは待つことになり、理解に時間がかかる子どもは授業についていくことが難しくなる場合があります。
AIドリルは、この学習速度の違いに対応する手段になります。
自動採点で教員の負担も変わる
AIドリルには、自動採点という大きな特徴もあります。
紙の小テストやプリントの場合、教員が一人ひとりの答案を採点しなければなりません。
30人のクラスで毎日のように問題を解かせれば、採点だけでもかなりの時間が必要です。
デジタル教材なら、正誤を自動的に判定できる問題については、その場で採点できます。
子どもにとっても、すぐに結果が分かるという利点があります。
教員にとっては採点作業が減り、その時間を子どもの指導や教材研究などに使える可能性があります。
ただし、すべての学習を自動採点できるわけではありません。
作文や説明問題など、人間が内容を丁寧に確認する必要がある学習もあります。
AIドリルは教員を不要にするものではなく、教員の仕事の一部を支援する道具と考える必要があります。
個別最適な学びとは何か
AIドリルが注目される背景には、個別最適な学びという考え方があります。
同じ年齢だからといって、全員が同じ速度で学ぶわけではありません。
得意な教科も違います。
苦手な分野も違います。
理解するまでに必要な時間も違います。
それにもかかわらず、従来の学校教育では同じ学年の子どもが同じ時間に同じ内容を学ぶことが基本でした。
個別最適な学びでは、一人ひとりの理解度や特性などに応じて学習方法や内容を調整します。
AIドリルは、そのための道具の一つになります。
1人1台端末がAIドリルを使いやすくした
こうした教育が現実的になった背景には、学校のデジタル環境の整備があります。
GIGAスクール構想などによって、小中学校では児童生徒が1人1台の学習用端末を利用できる環境が広がりました。
以前なら、コンピューター室へ移動して限られた時間だけパソコンを利用する学校も珍しくありませんでした。
1人1台端末があれば、通常の教室で必要なときにデジタル教材を使うことができます。
AIドリルも特別な授業だけで使うのではなく、普段の算数や数学などの学習に組み込みやすくなります。
端末整備が進んだことで、一人ひとりに違う教材を提供するための土台ができたわけです。
AIに学習を任せればよいわけではない
もっとも、AIドリルを導入すれば自動的に学力が上がるわけではありません。
子どもが問題を解けない理由は、単純な知識不足だけではないからです。
問題文の意味が分からない場合もあります。
勉強する意欲を失っている場合もあります。
友達との関係や家庭環境などが学習に影響していることもあります。
こうした事情をAIだけですべて判断することはできません。
文部科学省の学習指導要領改訂案でも、算数や数学について、教員による適切な指導などの環境が整っていることを前提としてAIドリルを活用する考え方が示されています。
AIが問題を選び、教員は必要なくなるという話ではありません。
むしろAIから得られる学習データを教員が利用し、誰がどこで困っているのかを把握して支援することが重要になります。
教員の役割も変わる
全員が同じ問題を解いている教室では、教員はクラス全体に同じ説明をすることが中心になります。
AIドリルによって一人ひとりが違う問題に取り組むようになると、教員の役割も変わります。
ある子どもには基礎をもう一度説明する。
別の子どもには、より難しい問題を考えさせる。
学習が止まっている子どもには、どこで困っているのか話を聞く。
このように、教員が一斉に知識を伝える役割だけでなく、一人ひとりの学習を支える役割を強めることが考えられます。
AIが教員の代わりになるというより、AIによって教員が子どもと向き合う方法が変わると考えた方がよいでしょう。
結論
AIドリルとは、児童生徒の解答状況や学習履歴などを分析し、それぞれの理解度に応じた問題を提示するデジタル教材です。
従来の問題集では、基本的に全員が決められた問題を順番に解いていました。
AIドリルでは、理解している子どもは先へ進み、つまずいている子どもは必要な内容まで戻ることができます。
同じ教室にいても、一人ひとりが違う問題に取り組めるわけです。
ただし、AIドリルは教員の代わりではありません。
AIが学習状況を分析し、教員がその情報を使って子どもを支援するという役割分担が重要になります。
学校教育は、クラス全員に同じ内容を同じ速度で教える仕組みから、一人ひとりの理解度に合わせて学習を支える仕組みへ少しずつ変わろうとしています。
AIドリルは、その変化を支える代表的な道具の一つなのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月1日 朝刊 情報化社会の学び刷新
日本経済新聞 2026年9月1日 朝刊 「AI学習」を全国の学校で
日本経済新聞 2026年9月1日 朝刊 学習への活用、依存に懸念