学校の授業といえば、先生が黒板の前で説明し、クラス全員が同じ教科書の同じページを開き、同じ問題を解く姿を思い浮かべる人が多いでしょう。
この一斉授業には、多くの子どもに同じ内容を効率よく教えられるという利点があります。
しかし、子どもの理解度や得意不得意は一人ひとり違います。
同じ説明を聞いてすぐ理解できる子どももいれば、前の単元まで戻って学び直す必要がある子どももいます。
そこで重視されるようになっているのが、個別最適な学びです。
1人1台端末やAI教材の普及によって、同じ教室にいる子どもが必ずしも同じ問題を同じ速度で解く必要はなくなりつつあります。
個別最適な学びとは何か
個別最適な学びとは、一人ひとりの理解度や学習状況、興味、特性などに応じて、学習方法や内容を調整していく考え方です。
重要なのは、単に子どもを一人で勉強させることではありません。
全員に同じ方法を当てはめるのではなく、それぞれに必要な学習を提供することが目的です。
例えば算数で分数を学んでいるとします。
すでに十分理解している子どもは、より難しい応用問題に進むことができます。
一方、分数の基本的な考え方でつまずいている子どもは、図などを使いながら基礎をもう一度確認できます。
同じ学年だから同じ問題を解くという考え方から、理解度に応じて必要な学習をするという考え方へ変わるわけです。
一斉授業とは何が違うのか
従来の学校教育では、一斉授業が中心でした。
教員がクラス全体に説明し、その後、全員が同じ問題を解きます。
30人のクラスであれば、基本的には30人が同じ授業を受けます。
この方法は非常に効率的です。
一人の教員が多くの子どもに同時に知識を伝えられるからです。
しかし、授業の速度を誰に合わせるのかという問題があります。
理解が速い子どもに合わせれば、理解に時間がかかる子どもが取り残される可能性があります。
反対に、ゆっくり進めれば、すでに理解している子どもにとって物足りない授業になることがあります。
一斉授業では、どうしてもクラスの平均的な理解度を意識して授業を進めることになります。
個別最適な学びは、この問題を小さくしようとする考え方です。
学習速度が違ってもよい
個別最適な学びを理解するうえで重要なのが、学習速度です。
子どもは全員が同じ速度で成長するわけではありません。
算数は速く進めるけれど国語には時間が必要な子どももいます。
反対に文章を読むことは得意でも、計算には時間がかかる子どももいます。
従来の一斉授業では、教科ごとの得意不得意があっても、基本的にはクラス全体が同じ速度で進みます。
個別最適な学びでは、理解しているところを必要以上に繰り返さず、分からないところに時間を使うことができます。
全員が同じ時間をかけることよりも、最終的に必要な内容を理解することを重視する考え方です。
AI教材が個別化をしやすくする
個別最適な学びという考え方自体は、AIが登場して初めて生まれたものではありません。
以前から、教員が子どもの理解度を見ながら問題を変えたり、補習をしたりする取り組みはありました。
しかし、一人の教員が30人程度の子どもの理解度を常に把握し、それぞれに違う教材を用意するのは簡単ではありません。
そこで役立つのがAI教材です。
AIドリルなどでは、子どもが解いた問題の正誤や学習履歴などを分析し、理解度に応じた問題を提示できます。
ある子どもには基礎問題を出す。
別の子どもには応用問題を出す。
必要であれば以前の単元まで戻る。
こうした調整をデジタル技術によって行いやすくなります。
1人1台端末が学び方を変えた
個別最適な学びを広げるうえで大きな役割を果たしているのが、1人1台端末です。
以前は、学校でパソコンを利用する場合、コンピューター室へ移動することも一般的でした。
端末の台数が限られていれば、普段の授業で一人ひとりが違う教材を使うことは難しくなります。
GIGAスクール構想によって1人1台端末の環境が整備されたことで、通常の教室でもデジタル教材を利用しやすくなりました。
同じ教室の中で、それぞれの端末に違う問題を表示することもできます。
紙の教科書と黒板だけでは難しかった学習方法が、技術によって現実的になったわけです。
個別最適な学びは一人で学ぶことではない
個別最適という言葉から、一人ひとりがタブレット端末を見ながら黙々と勉強する教室を想像するかもしれません。
しかし、それだけが個別最適な学びではありません。
学校には、他の子どもと一緒に学ぶという重要な役割があります。
自分とは違う考え方を聞く。
友達に自分の考えを説明する。
グループで問題を解決する。
意見が違う相手と話し合う。
こうした経験は、一人でAI教材を使うだけでは得にくいものです。
そのため、個別最適な学びとともに、子ども同士で学ぶ協働的な学びも重要になります。
一人で学ぶ時間と、みんなで考える時間を組み合わせることが必要です。
教員の仕事はなくならない
AI教材が一人ひとりに問題を出せるようになると、先生は必要なくなるのではないかという疑問も出てきます。
しかし、AIが問題を選ぶことと、子どもを教育することは同じではありません。
勉強が進まない理由が、問題を理解できないからとは限りません。
自信をなくしている場合もあります。
集中できない事情があるかもしれません。
友達との関係に悩んでいることもあります。
こうした状況を理解し、声をかけ、学習を支えることは教員の重要な役割です。
AI教材が普及すると、教員は全員に同じ知識を伝える役割だけでなく、一人ひとりの学びを支援する役割をより強く求められる可能性があります。
自分に合った学び方を知ることにもつながる
個別最適な学びには、もう一つ重要な意味があります。
子ども自身が、自分はどのように学べば理解しやすいのかを知ることです。
文章を読んだ方が理解しやすいのか。
図を見た方が分かりやすいのか。
何度か問題を解いた方が覚えやすいのか。
誰かに説明すると理解が深まるのか。
こうした自分自身の学び方を理解できれば、学校を卒業した後にも役立ちます。
AIや技術の変化が速い社会では、大人になってからも新しい知識を学び続ける必要があります。
学校で何を覚えたかだけでなく、自分で学び続ける方法を身につけることが重要になります。
AIが決めた学習方法が必ず正しいとは限らない
一方で注意も必要です。
AI教材が、この子は算数が苦手、この子はこのレベルまでしか理解できないと判断したとしても、それが絶対に正しいとは限りません。
過去の学習データから判断しているにすぎないからです。
子どもの能力や興味は変化します。
一度苦手だったものが、何かをきっかけに得意になることもあります。
AIの判断によって子どもの可能性を固定してしまっては、個別最適な学びの本来の目的から外れてしまいます。
AIは子どもの学習を支援する道具であり、子どもの能力を決める存在ではありません。
最終的には教員や本人がAIの情報を参考にしながら学習方法を考えることが重要です。
結論
個別最適な学びとは、一人ひとりの理解度や学習状況、興味、特性などに応じて、学習内容や方法を調整する考え方です。
従来の一斉授業では、クラス全員が同じ内容を同じ速度で学ぶことが基本でした。
しかし、子どもの理解速度や得意不得意は一人ひとり違います。
1人1台端末やAI教材が普及したことで、理解している子どもは先へ進み、つまずいている子どもは必要なところまで戻るといった学習が行いやすくなりました。
ただし、個別最適な学びとは、子どもを一人でAIに学ばせることではありません。
AIによる個別学習、教員による支援、友達との協働的な学びを組み合わせることが重要です。
クラス全員が同じ問題を同じ速度で解くことを当たり前とする学校教育から、一人ひとりに必要な学びを提供する学校教育へ。
AIとデジタル技術は、その変化を支える重要な道具になっていくのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月1日 朝刊 情報化社会の学び刷新
日本経済新聞 2026年9月1日 朝刊 「AI学習」を全国の学校で
日本経済新聞 2026年9月1日 朝刊 学習への活用、依存に懸念