「年収の壁」を理解するとき、避けて通れない制度が国民年金の「第3号被保険者」です。
会社員などに扶養されている配偶者のなかには、自分では国民年金保険料を直接払っていないのに、将来は老齢基礎年金を受け取れる人がいます。
「保険料を払っていないのに、なぜ年金を受け取れるのか」と疑問に思う人もいるでしょう。
これは保険料の未納とはまったく違います。
第3号被保険者は、公的年金制度のなかに正式に設けられている仕組みだからです。
そして106万円の壁や130万円の壁が強く意識されてきた背景にも、この第3号被保険者制度があります。
今回は、第3号被保険者とはどのような制度なのかを整理します。
第3号被保険者とは何か
日本の公的年金制度では、国民年金の加入者を大きく第1号被保険者、第2号被保険者、第3号被保険者に分けています。
第3号被保険者とは、厚生年金に加入している第2号被保険者に扶養されている一定の配偶者です。
代表的なのが、会社員の夫に扶養されているパート勤務の妻というケースです。
もちろん男女は逆でも構いません。
一定の年齢や収入などの要件を満たせば、第3号被保険者になります。
第3号被保険者になると、自分自身で国民年金保険料を直接納付する必要がありません。
それでも第3号被保険者だった期間は、老齢基礎年金の計算上、保険料納付済期間として扱われます。
第1号被保険者とは何が違うのか
第1号被保険者は、自営業者やフリーランス、学生、無職の人など、第2号被保険者や第3号被保険者に該当しない20歳以上60歳未満の人が中心です。
第1号被保険者は、原則として自分で国民年金保険料を納付します。
毎月一定額の保険料を負担し、その加入期間などに応じて将来の老齢基礎年金につながります。
これに対して第3号被保険者は、自分で国民年金保険料を直接納付しません。
ここが大きな違いです。
同じ国民年金の加入者でも、保険料の負担方法が異なります。
第2号被保険者とは何か
第2号被保険者は、厚生年金保険の被保険者です。
代表的なのが会社員です。
会社員は給与から厚生年金保険料が差し引かれ、勤務先も保険料を負担します。
厚生年金に加入している人は、国民年金にも加入している扱いになります。
そのため将来は、加入状況に応じて老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金を受け取ることになります。
第3号被保険者制度は、この第2号被保険者に扶養されている配偶者を対象とする仕組みです。
つまり第3号被保険者だけを単独で理解するのではなく、第2号被保険者との関係を見る必要があります。
なぜ保険料を直接払わなくてよいのか
では、第3号被保険者の国民年金保険料は誰が払っているのでしょうか。
よくある誤解が、
夫が妻の国民年金保険料を追加で払っている
というものです。
必ずしもそのような仕組みではありません。
第2号被保険者が加入する厚生年金制度全体によって、第3号被保険者に関する基礎年金の費用を支える仕組みになっています。
したがって、第3号被保険者がいる会社員だけ厚生年金保険料が上乗せされるわけではありません。
独身の会社員や共働きの会社員などを含めた厚生年金制度全体で支えています。
これが第3号被保険者が自分で国民年金保険料を直接払わなくてもよい理由です。
未納とはまったく違う
第3号被保険者について、
保険料を払っていない期間
と表現すると誤解を招きます。
国民年金保険料を支払わずに放置している未納期間とは扱いがまったく違うからです。
第3号被保険者として適正に届け出られている期間は、老齢基礎年金の計算上、保険料納付済期間として扱われます。
一方、国民年金の第1号被保険者が保険料を納めず、免除などの手続きもしていない未納期間は、原則として同じ扱いにはなりません。
つまり、
直接保険料を払っていない
という表面的な状態は同じでも、年金制度上の意味はまったく異なります。
130万円の壁と深く関係する
第3号被保険者制度を理解すると、なぜ130万円の壁が強く意識されるのかも分かります。
会社員などに扶養されている配偶者は、一定の収入要件などを満たせば第3号被保険者になることができます。
代表的な収入基準が年間収入130万円未満です。
ところが収入が増え、扶養の要件を満たさなくなると、第3号被保険者ではいられなくなります。
その後、自分の勤務先で厚生年金に加入するのであれば第2号被保険者になります。
勤務先の厚生年金に加入できない場合には、第1号被保険者として自分で国民年金保険料を負担するケースがあります。
この負担の変化が「130万円を超えないように働こう」という働き控えにつながることがあります。
106万円の壁とも関係する
第3号被保険者制度は106万円の壁とも関係してきました。
これまで一定規模以上の企業で働く短時間労働者は、週20時間以上や所定内賃金月額8万8000円以上などの要件を満たすと勤務先の社会保険へ加入します。
この場合、年収が130万円未満であっても、勤務先の厚生年金に加入すれば第2号被保険者になります。
つまり、
130万円未満だから必ず第3号被保険者
というわけではありません。
自分の勤務先で社会保険の加入対象になる場合には、そちらが優先されます。
2026年10月に106万円の賃金要件が撤廃されることで、今後は週20時間などの条件がさらに重要になります。
第3号から第2号になると保険料負担が生じる
第3号被保険者だった人が勤務先の厚生年金へ加入すると、第2号被保険者になります。
すると給与から厚生年金保険料が差し引かれます。
健康保険についても、自分の勤務先の健康保険へ加入すれば保険料負担が生じます。
そのため目先の手取りは減少することがあります。
これが社会保険への加入を避けたいと考える一因です。
しかし、負担だけを比較するのは適切ではありません。
第2号被保険者になれば、厚生年金に加入することで将来の老齢厚生年金が増えていきます。
保障の内容も変わります。
現在の手取りと将来の給付を合わせて考える必要があります。
第3号から第1号になる場合は意味が違う
特に注意したいのが、第3号被保険者から第1号被保険者になるケースです。
たとえば配偶者の扶養から外れたものの、自分の勤務先では厚生年金の加入対象にならない場合です。
この場合、自分で国民年金保険料を負担することになります。
しかし、第1号被保険者として国民年金保険料を支払っても、それだけで厚生年金の報酬比例部分が増えるわけではありません。
これに対して勤務先の社会保険へ加入して第2号被保険者になれば、本人だけでなく企業も保険料を負担し、厚生年金の給付につながります。
同じ「扶養から外れる」でも、その後に第1号になるのか第2号になるのかによって意味が大きく違うのです。
第3号被保険者制度は今後も重要な論点になる
女性の就業拡大や共働き世帯の増加など、制度を取り巻く環境は大きく変化しています。
そのなかで、第3号被保険者制度のあり方は社会保障政策の重要な論点になっています。
一方で、制度を変更すれば現在第3号被保険者となっている人の負担が大きく変わる可能性があります。
単純に制度をなくせばよいという問題ではありません。
社会保険の適用拡大によって第3号被保険者から第2号被保険者へ移る人を増やしていくのか。
扶養制度そのものを将来どのように位置づけるのか。
年収の壁問題は、最終的には日本の公的年金制度を誰がどのように負担するのかという問題につながっています。
結論
第3号被保険者とは、厚生年金に加入する会社員などに扶養されている一定の配偶者を対象とする国民年金の仕組みです。
第3号被保険者は、自分で国民年金保険料を直接納付する必要がありません。
それでも適正に第3号被保険者となっている期間は、老齢基礎年金の計算上、保険料納付済期間として扱われます。
これは保険料の未納とはまったく違います。
そして、この仕組みが106万円や130万円といった年収の壁と深く関係しています。
扶養の範囲で働けば第3号被保険者でいられる。
一定の条件を超えて勤務先の厚生年金に加入すれば第2号被保険者になる。
扶養から外れても厚生年金に入らなければ第1号被保険者となる場合がある。
この三つの違いを理解すると、なぜパートで働く人が年収や勤務時間を強く意識するのかが見えてきます。
2026年10月の106万円の賃金要件撤廃は、単なる一つの壁の撤廃ではありません。
第3号被保険者から、自分自身が厚生年金に加入する第2号被保険者へ移る人を増やしていく社会保険適用拡大の流れの一部として理解することが重要だと考えます。
参考
日本経済新聞 2026年9月4日 朝刊 「106万円の壁」撤廃、企業の負担重く