退職所得の2分の1課税とは何か 退職金が給与より税制上優遇されやすい理由編

FP
緑 赤 セミナー ブログアイキャッチ - 1

会社員が退職するときに2000万円の退職金を受け取ったとしても、2000万円すべてに所得税がかかるわけではありません。

退職金には、通常の給与とは異なる課税の仕組みが設けられています。

まず勤続年数などに応じた退職所得控除を差し引きます。

さらに一般的な退職所得では、その控除後の金額を原則として2分の1にして課税所得を計算します。

これが、いわゆる退職所得の2分の1課税です。

長年働いた結果としてまとまった金額を一度に受け取る退職金に、通常の給与と同じように課税すると税負担が急激に重くなる可能性があります。

そこで退職所得には特別な計算方法が設けられています。

この仕組みを理解すると、退職金を毎月の給与へ振り替えた場合に、なぜ額面が同じでも手取りが変わる可能性があるのかも分かります。

退職所得とは何か

退職所得とは、退職によって勤務先などから受け取る一定の退職手当などに対する所得区分です。

会社員が定年退職するときに受け取る退職一時金などが代表的です。

通常の給与は給与所得として扱われます。

一方、一定の退職金は退職所得として扱われます。

この区分が重要です。

所得税では、収入の性格によって所得の計算方法が異なるからです。

退職金は、毎月繰り返し受け取る給与とは違います。

長期間の勤務を終えるときに、まとまった金額を一度に受け取るという特殊な性格があります。

そのため、通常の給与とは別の計算方法が用意されています。

まず退職所得控除を差し引く

退職所得を計算するときには、まず退職金から退職所得控除を差し引きます。

退職所得控除は、原則として勤続年数に応じて計算します。

勤続年数が20年以下の場合は、

40万円掛ける勤続年数

です。

最低額は80万円です。

勤続年数が20年を超える場合は、

800万円プラス70万円掛ける20年を超えた勤続年数

となります。

たとえば勤続30年なら、

800万円プラス70万円掛ける10年

なので1500万円です。

勤続40年なら、

800万円プラス70万円掛ける20年

なので2200万円になります。

この控除を最初に退職金から差し引きます。

その残額を原則2分の1にする

一般的な退職所得の課税では、退職所得控除を差し引いた残額をそのまま課税対象にするわけではありません。

原則として、

退職金から退職所得控除を差し引いた金額掛ける2分の1

によって課税退職所得金額を計算します。

たとえば勤続30年で退職金2000万円を受け取ったとします。

退職所得控除は1500万円です。

まず、

2000万円から1500万円

を差し引きます。

残額は500万円です。

さらに、

500万円掛ける2分の1

なので、課税退職所得金額は250万円になります。

2000万円の退職金を受け取っても、2000万円全部を基礎として所得税を計算するわけではないのです。

なぜ2分の1にするのか

退職金は、1年間だけ働いて得た報酬ではありません。

20年、30年、40年と長期間働いた結果として受け取るお金という性格があります。

ところが退職金は、退職した年にまとめて支払われます。

もし通常の給与と同じように、その年の所得としてそのまま課税するとどうなるでしょうか。

所得税は所得が高くなるほど税率が上がる累進課税です。

何十年分もの勤務に対応する退職金が一度に所得へ加われば、その年だけ所得が急増して税負担が重くなる可能性があります。

そこで長年の勤務に対する報酬を一時に受け取るという事情を考慮して、退職所得控除や2分の1課税などの仕組みが設けられています。

給与2000万円とは税金の計算が違う

ここで退職金2000万円と給与2000万円を比較すると、違いが分かりやすくなります。

給与として2000万円を受け取った場合、給与所得控除などはありますが、退職所得控除や一般的な退職所得に適用される2分の1課税をそのまま使うことはできません。

一方、一定の退職金2000万円なら、まず退職所得控除を差し引きます。

さらに一般的な退職所得なら、控除後の残額を原則として2分の1にします。

つまり、

給与として受け取る2000万円

と、

退職金として受け取る2000万円

では、所得税の計算方法そのものが違います。

これが退職金は税制上優遇されているといわれる大きな理由です。

給与とは分けて税額を計算する

退職所得にはもう一つ重要な特徴があります。

原則として、給与所得などのほかの所得と分離して税額を計算します。

これを分離課税といいます。

たとえば退職した年に、

給与所得

退職所得

の両方があったとしても、退職所得を単純に給与所得へ足して一つの課税所得にするわけではありません。

退職所得については、退職所得控除や原則2分の1課税を使って課税退職所得金額を求め、その金額を基礎として税額を計算します。

この仕組みによって、退職した年だけ所得が大きく膨らみ、通常の所得まで含めて高い税率の影響を受けることを抑えています。

すべての退職金が2分の1になるわけではない

ここで注意したいのは、

退職金なら必ず控除後の全額を2分の1にできる

わけではないことです。

一定の役員等が勤続年数5年以下で受け取る特定役員退職手当等については、2分の1課税が適用されません。

また、役員等以外でも勤続年数5年以下で受け取る短期退職手当等については、退職所得控除後の金額のうち300万円を超える部分について2分の1課税が適用されない仕組みがあります。

これは短期間だけ勤務して高額な退職金を受け取り、2分の1課税の恩恵を大きく受けることを抑えるためです。

したがって、

退職金イコール必ず全額2分の1課税

と覚えるのは正確ではありません。

勤続年数や受け取る人の立場などによって確認が必要です。

長期勤続者ほど効果が大きくなりやすい

従来型の会社員にとって、退職所得課税は非常に大きな意味を持っていました。

たとえば新卒で会社へ入り、60歳まで40年近く勤めた場合、退職所得控除は大きくなります。

勤続40年なら原則2200万円です。

退職一時金が2000万円なら、退職所得控除の範囲内になります。

さらに控除を超える退職金があったとしても、一般的な退職所得なら残額について原則2分の1課税があります。

長期間同じ会社で働き、最後にまとまった退職金を受け取るという日本型雇用と相性のよい税制だったことが分かります。

退職金を給与へ移すと2分の1課税は使えない

企業が退職金制度を廃止し、その原資を毎月の給与へ上乗せするケースを考えてみます。

社員からすると、

最終的にもらえる総額が同じなら問題ない

と思うかもしれません。

しかし給与として受け取った金額は給与所得です。

退職所得ではありません。

そのため退職所得控除や退職所得の2分の1課税をその給与に適用することはできません。

さらに給与額が増えれば、所得税や住民税だけでなく社会保険料に影響する場合もあります。

退職金制度を給与へ振り替える場合には、

額面の総額

ではなく、

税金や社会保険料を差し引いた生涯手取り

で比較する必要があります。

早く受け取るメリットとの比較も必要

もっとも、退職金として受け取る方が常に有利とは限りません。

給与として早く受け取れば、そのお金を現在から利用できます。

住宅ローンを返済することもできます。

教育費に使うこともできます。

NISAなどを使って長期間資産運用することもできます。

たとえば30歳で受け取ったお金なら、60歳まで30年間運用できる可能性があります。

一方、退職金は基本的に退職するまで受け取れません。

税制上の有利さだけでなく、

いつ受け取れるのか

受け取ったお金をどう使うのか

まで考える必要があります。

DCの一時金でも関係する

退職所得の2分の1課税は、会社から直接受け取る退職一時金だけを考えればよいわけではありません。

企業型確定拠出年金やiDeCoの老齢給付金を一時金として受け取る場合も、一定の要件のもとで退職所得として扱われます。

そのため、

会社の退職一時金

企業型DCの一時金

iDeCoの老齢一時金

など、複数の老後資金を一時金として受け取る人は、受取時期にも注意が必要です。

一定期間内に複数の退職給付を受け取る場合には、退職所得控除について調整が行われることがあります。

単純に、

それぞれの一時金で退職所得控除を満額使える

とは限りません。

老後資金は受け取る順番でも税金が変わる

会社員の老後資金は複雑になっています。

以前なら、

会社を定年退職する

退職一時金を受け取る

公的年金を受け取る

という比較的単純な形でした。

現在では、

会社の退職一時金

確定給付企業年金

企業型DC

iDeCo

公的年金

など、複数の制度を利用する人が増えています。

それぞれ一時金で受け取るのか、年金で受け取るのかによって税務上の扱いが変わります。

さらに一時金を何歳で受け取るのかによって、退職所得控除の調整が必要になる場合があります。

これからの老後資金では、

いくら貯めるか

だけでなく、

どの制度から、いつ、どの方法で受け取るか

まで考えることが重要になります。

人材流動化と退職所得課税

退職所得控除と2分の1課税は、長年同じ会社で働く人にとって大きな意味を持つ制度です。

しかし転職が一般的になれば、働き方そのものが変わります。

20代でA社。

30代でB社。

40代でC社。

50代でD社。

というキャリアも珍しくなくなる可能性があります。

一方で企業型DCなどを使えば、会社を移っても老後資産を持ち運ぶことができます。

こうした働き方が広がれば、

一つの会社に長く勤めて最後に退職金を受け取る

ことを前提として発展してきた退職金制度や税制と、人材流動化との関係がますます重要になります。

結論

退職所得の2分の1課税とは、一般的な退職所得について、退職金から退職所得控除を差し引いた後の金額を原則として2分の1にして課税所得を計算する仕組みです。

たとえば勤続30年で退職金2000万円を受け取った場合、退職所得控除は原則1500万円です。

差額500万円について原則2分の1にすると、課税退職所得金額は250万円になります。

2000万円全額を基礎として所得税を計算するわけではありません。

さらに退職所得は、原則として給与所得などとは分けて税額を計算します。

こうした仕組みが設けられているのは、退職金が長期間の勤務に対する報酬などを一時に受け取るという特殊な性格を持つためです。

ただし、短期間勤務した一定の役員などには2分の1課税が適用されないなどの例外があります。

そのため、

退職金なら必ず半分だけ課税される

という理解は正確ではありません。

退職金制度を給与へ振り替える企業が増えると、この税制の違いは社員にとってさらに重要になります。

同じ2000万円でも、

給与として受け取る2000万円

退職金として受け取る2000万円

では税引き後の価値が同じとは限りません。

これから退職金制度を見るときには、額面だけではなく、退職所得控除と2分の1課税まで含めて生涯の手取りを考えることが重要になります。

参考

日本経済新聞 2026年8月31日夕刊 退職金、なくなるの? 人材流動化で見直しも

タイトルとURLをコピーしました