企業が人を採用するとき、
週5日勤務
1日8時間
残業に対応できる
という条件を当然のように設定することがあります。
しかし、この条件を満たせないからといって、仕事をする能力がないわけではありません。
育児のため午後5時までしか働けない人。
親の介護のため毎日8時間は働けない人。
さまざまな事情からフルタイム勤務が難しい人はいます。
こうした人たちを、
フルタイムで働けない
という理由だけで採用対象から外してしまえば、企業は大きな人材の集団を自ら手放すことになります。
人手不足が進む中では、人材を探すだけではなく、働ける条件そのものを広げることが重要になります。
その方法の一つが時短勤務です。
潜在的な労働力とは何か
働く能力や意欲があっても、現在の求人条件では十分に働けない人がいます。
例えば、
子育て中の人
介護中の人
一定時間だけ働きたいシニア
学び直しをしている人
などです。
こうした人の中には、勤務時間などの条件が合えば働ける人もいます。
企業側から見ると、採用条件を柔軟にすることで新たな人材候補になる層です。
求人を出しても応募者が集まらない場合、
人がいない
と考えるだけでは十分ではありません。
自社の勤務条件が応募できる人を狭めていないかを考える必要があります。
フルタイムという条件が応募者を減らす
例えば、ある会社が営業職を募集するとします。
条件は、
午前9時から午後6時まで勤務
とします。
午後5時までしか働けない人は、この求人に応募できません。
しかし会社が、
午後5時までの時短勤務も可能
とすれば、その人も応募できます。
仕事に必要な能力は同じでも、勤務時間という一つの条件を変えるだけで採用対象が広がるわけです。
企業が人材不足に悩んでいる場合、
応募者の能力
だけでなく、
求人条件
にも原因がある可能性があります。
育児中の人材を採用できる
特に勤務時間の制約が生じやすいのが育児中の人です。
例えば保育園のお迎えがあるため、
午後5時には会社を出たい
という人がいます。
午前9時から午後6時までの求人なら応募できません。
しかし、
午前9時から午後5時まで
あるいは、
午前8時から午後4時まで
といった働き方が選べれば、応募できる可能性があります。
勤務時間が短いだけで、過去の経験や専門能力が失われているわけではありません。
経験者を採用できる可能性がある
育児中の人の中には、出産前まで長期間働いていた人もいます。
例えば、
営業経験10年
経理経験15年
システム開発経験10年
という人がいたとします。
フルタイム勤務が難しいという理由だけで採用対象から外せば、企業はその経験を利用できません。
一方、
1日6時間でも可
とすれば、経験豊富な人材を採用できる可能性があります。
採用では、
何時間働けるか
だけでなく、
その時間で何ができるか
を見ることが重要になります。
参考記事でも応募者が増えている
参考記事では、時短勤務を人材採用に利用している企業の事例が紹介されています。
しゅふJOBを運営するビースタイルメディアでは、営業職について短時間で働ける人材の採用を進めています。
記事によると、求人の終了時間を午後5時にすると応募が大きく増えるといいます。
ここには重要な意味があります。
午後5時までなら働ける。
しかし、それより遅い時間までの勤務は難しい。
そうした人が一定数存在しているということです。
勤務時間の条件を少し変えるだけで、企業が接触できる人材の数が変わります。
仕事の中身まで変える必要はない場合がある
時短勤務者を採用すると、
補助的な仕事しか任せられない
と考える会社もあります。
しかし、必ずしもそうではありません。
参考記事で紹介されたビースタイルメディアでは、時短勤務者も営業の仕事を担当しています。
記事では、時短勤務で働く社員が担当顧客の売り上げを伸ばし、社内表彰を受けた例も紹介されています。
短時間勤務だから重要な仕事ができないわけではありません。
勤務時間と能力を分けて考える必要があります。
午後5時以降の仕事は本当に必要なのか
企業が時短勤務者を採用するとき、
午後5時に帰られると顧客対応ができない
と考えることがあります。
しかし、本当に午後5時以降に担当者本人が対応しなければならない仕事がどれだけあるのかを確認することも重要です。
参考記事で紹介された企業では、午後5時以降に届く顧客メールを調べました。
その結果、その日のうちに返信が必要なメールは、1人当たり月に1件程度だったとされています。
つまり、
営業なら夜まで働かなければならない
という前提が、実際の業務と一致していない可能性があります。
介護中の人材も対象になる
勤務時間に制約があるのは育児中の人だけではありません。
親の介護をしている人もいます。
例えば、
夕方に親の食事を準備する
介護施設へ迎えに行く
定期的に病院へ付き添う
といった事情があります。
こうした人も、
毎日午後6時まで勤務
という条件では働きにくい場合があります。
しかし短時間勤務や柔軟な勤務時間を選べれば、仕事を続けられる可能性があります。
シニア人材にも利用できる
高齢になっても働きたい人は増えています。
しかし、
週5日で毎日8時間働くのは負担が大きい
という人もいます。
例えば長年、
経理
営業
技術
管理職
などを経験した人が、
1日5時間なら働きたい
と考えている場合があります。
フルタイム勤務だけを採用条件にすれば、その人材は対象外になります。
短時間正社員などの仕組みを用意すれば、経験豊富なシニア人材を活用できる可能性があります。
採用条件を柔軟にする意味
人手不足になると企業は、
求人広告を増やす
採用サイトを改善する
人材紹介会社を利用する
採用時の給与を上げる
といった対応をします。
もちろん、これらも重要です。
しかし、もう一つの方法があります。
それが、
応募条件そのものを見直す
ことです。
例えば、
週5日必須
1日8時間必須
午後6時まで勤務必須
全国転勤可能
という条件の中に、本当に仕事をするうえで必要ではないものが含まれているかもしれません。
不要な条件を外せば、採用対象を広げられます。
人材不足と労働時間不足は違う
企業が、
人が足りない
と考えていても、実際には、
必要な時間帯に働ける人が足りない
という場合があります。
例えば8時間勤務の社員1人を採用できなくても、
4時間働ける人を2人
採用できれば、一定の仕事を分担できる可能性があります。
もちろん、すべての仕事を単純に分割できるわけではありません。
しかし、
フルタイム人材が採用できないなら採用を諦める
のではなく、
仕事を分けられないか
働く時間を変えられないか
と考える余地があります。
採用した後の仕組みも必要になる
時短勤務可と求人票に書くだけでは十分ではありません。
採用した人が実際に働ける職場を作る必要があります。
例えば、
重要な会議を夕方以降に開かない
顧客情報を共有する
仕事を属人化させない
タスクを見える化する
退社後の対応ルールを決める
といった仕組みです。
時短勤務者を採用したのに、
結局毎日残業しなければ仕事が終わらない
という状態では定着しません。
採用条件と職場の仕事設計をセットで変える必要があります。
採用から定着まで考える
企業にとって重要なのは、人を採用することだけではありません。
採用した人に長く働いてもらうことです。
時短勤務を理由に、
重要な仕事を任せない
昇進の対象にしない
補助業務だけにする
という状態なら、経験のある人材ほど会社を離れる可能性があります。
短時間でも成果を上げれば評価する。
重要な仕事にも挑戦できる。
将来のキャリアも描ける。
こうした環境があって初めて、時短勤務が人材確保の仕組みとして機能します。
会社が人に合わせる発想
これまで企業の採用では、
会社が決めた働き方に対応できる人を探す
という考え方が中心でした。
しかし、人手不足が深刻になるほど、それだけでは採用できる人が限られます。
そこで、
この人は何時間なら働けるのか
どの時間帯なら働けるのか
その条件でどの仕事を任せられるのか
と考えることが重要になります。
社員だけが会社に合わせるのではなく、会社側も人材に合わせて仕事を設計する発想です。
結論
時短勤務が人材採用に強い理由は、フルタイムという条件を外すことで、それまで応募できなかった人を採用対象にできるからです。
育児中の人。
介護中の人。
シニア人材。
学び直しをしている人。
こうした人の中には、
1日8時間は働けないが6時間なら働ける
という人がいます。
働ける時間が短いことと、能力や経験が不足していることは同じではありません。
企業がフルタイム勤務だけを前提にすれば、こうした人材を自ら採用対象から外すことになります。
人手不足の時代には、
応募者を増やすために求人広告を増やす
だけではなく、
応募できる人を増やすために勤務条件を変える
という発想が重要です。
そして時短勤務者を採用した後は、仕事の属人化をなくし、タスクを共有し、限られた時間で成果を出せる職場を作る必要があります。
企業が探すべきなのは、
長時間働ける人
だけではありません。
必要な仕事を、働ける時間の中で担ってくれる人です。
フルタイムという条件を外すことは、これまで企業が見落としていた人材へ採用市場を広げることにつながるのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月31日朝刊 「時短」勤務者は重要な戦力 人員確保に効果 管理職の意識変わる
日本経済新聞 2026年8月31日朝刊 シフトを選べる企業も