日本では長い間、住宅を買うなら新築という考え方が強くありました。
一方、欧米では中古住宅を売買しながら長く使うことが一般的です。
日本でも人口減少が進み、新築住宅の供給が減っていく中で、これまで以上に重要になるのが既存住宅流通です。
既存住宅とは、すでに誰かが所有したり住んだりしたことのある住宅を指します。
一般には中古住宅と呼ばれることが多いですが、住宅政策や不動産取引では既存住宅という言葉が使われます。
住宅を新しく建て続けるだけでなく、すでに存在している住宅を売買し、必要に応じて修繕しながら使い続けることができれば、新築不足を補うことができます。
しかし、日本ではこれまで既存住宅の流通が十分に広がってきませんでした。
その背景には、新築志向だけでなく、住宅の品質や修繕履歴が分かりにくいという問題もあります。
既存住宅とは何か
既存住宅とは、新築住宅ではない住宅です。
一度でも人が住んだ住宅や、完成から一定期間が経過した未入居住宅などが含まれます。
一般的な言葉では中古住宅です。
例えば、10年前に建てられた戸建て住宅を現在の所有者から購入する場合、その住宅は既存住宅です。
築20年のマンションを購入する場合も既存住宅です。
既存住宅には、
中古戸建て
中古マンション
中古の賃貸住宅
などがあります。
ただし、既存住宅だから必ず古いとは限りません。
築1年や築3年程度でも、一度人が住んだ住宅であれば中古住宅として取引されることがあります。
反対に、築年数が長くても、適切に修繕されていれば良好な状態を保っている住宅もあります。
重要なのは、単純な築年数だけではなく、建物の状態を見ることです。
既存住宅流通とは何か
既存住宅流通とは、すでに存在している住宅が売買され、新しい所有者へ引き継がれていくことです。
例えば、ある家族が戸建て住宅を売却するとします。
その住宅を別の家族が購入して住めば、既存住宅が流通したことになります。
マンションでも同じです。
所有者が売却し、別の人が購入することで住宅が次の世帯へ引き継がれます。
住宅市場は、
新しく住宅を建てる新築市場
すでにある住宅を売買する既存住宅市場
の二つに大きく分けることができます。
新築住宅を大量に供給できる時代であれば、新築市場が大きくても問題はありません。
しかし、大工不足や資材価格上昇によって新築住宅の供給が難しくなれば、既存住宅市場の役割が大きくなります。
すでにある住宅を使うことができれば、新しい住宅を一から建てる必要がないからです。
日本ではなぜ新築住宅が選ばれてきたのか
日本で新築住宅が好まれてきた理由はいくつかあります。
一つは、新しい住宅そのものに対する強い価値観です。
新品の住宅で暮らしたい。
自分たちが最初の入居者になりたい。
最新の設備を使いたい。
こうした考え方が根強くありました。
住宅設備や性能も時代とともに大きく進歩してきました。
耐震性能、断熱性能、キッチン、浴室、収納などを見ると、新築住宅の方が魅力的に見えやすい面があります。
さらに、日本では戦後長い間、新築住宅を大量に建設することで住宅不足を解消してきました。
住宅政策や住宅産業そのものが、新築を中心に発展してきたという歴史もあります。
その結果、住宅を買うなら新築という選択が自然なものになりました。
中古住宅は価値が分かりにくかった
日本で既存住宅流通が広がりにくかったもう一つの理由が、中古住宅の品質を判断しにくいことです。
中古住宅には一戸ごとに違いがあります。
同じ築20年でも、
定期的に修繕してきた住宅
ほとんど修繕していない住宅
雨漏りを修理した住宅
配管を交換した住宅
では状態が大きく異なります。
ところが、外から見ただけでは、その違いが分からないことがあります。
購入者からすると、
購入後にどのくらい修繕費がかかるのか
構造部分に問題はないのか
雨漏りや腐食はないのか
設備はあと何年使えるのか
といった不安があります。
こうした情報が十分でなければ、価格が安くても購入をためらいます。
その結果、多少高くても状態が分かりやすい新築住宅を選ぶ人が増えます。
築年数だけで住宅価値を判断する問題
日本の中古住宅市場では、長い間、築年数が住宅価値を判断する大きな基準となってきました。
築年数が古くなるほど建物価値が低く評価される傾向があります。
特に戸建て住宅では、一定期間が経過すると建物の評価額が大きく低下することがあります。
しかし実際には、住宅の寿命は築年数だけでは決まりません。
定期的に屋根や外壁を修繕し、設備を交換し、耐震改修や断熱改修を行っていれば、長く住める住宅もあります。
逆に比較的新しい住宅でも、管理や施工状態が悪ければ問題が発生することがあります。
つまり、
古いから価値がない
新しいから安全
とは単純には言えません。
既存住宅市場を発展させるためには、築年数だけでなく、住宅の実際の状態や修繕履歴を評価する仕組みが重要です。
既存住宅はどのように売買されるのか
既存住宅の売買では、まず所有者が住宅を売却します。
多くの場合、不動産仲介会社を通じて購入希望者を探します。
購入希望者は物件を見学し、価格や立地、築年数、間取りなどを確認します。
その後、条件が合えば売買契約を結びます。
ただし、新築住宅と違い、中古住宅では一戸ごとに建物の状態が異なります。
そこで重要になるのが、建物状況調査などです。
第三者の専門家が住宅の状態を確認することで、購入後に大きな問題が発覚するリスクを減らすことができます。
また、修繕履歴やリフォーム履歴が残っていれば、その住宅がどのように維持されてきたのかを判断しやすくなります。
既存住宅流通では、単に売り手と買い手を結びつけるだけではなく、住宅の状態についての情報をどれだけ透明にできるかが重要になります。
新築不足で既存住宅市場の重要性が高まる
これから日本では、新築住宅の供給が減る可能性があります。
人口減少による需要減少だけではありません。
大工などの建設人材不足が進み、住宅を建てる能力そのものが低下する可能性があります。
資材価格や人件費が上昇すれば、新築住宅価格も高くなります。
そうなると、住宅を必要とするすべての人が新築を購入することは難しくなります。
そこで既存住宅の役割が大きくなります。
例えば、新築戸建てが5000万円する地域で、状態の良い中古住宅を3500万円で購入し、500万円かけて改修できれば、総額4000万円で住宅を確保できる可能性があります。
もちろん、実際には住宅ごとに条件は異なります。
しかし、既存住宅を適切に評価し、必要な部分だけを修繕して使えるようになれば、住宅購入者の選択肢は大きく広がります。
既存住宅流通が増えると住み替えもしやすくなる
既存住宅市場が活発になることには、もう一つの利点があります。
住み替えがしやすくなることです。
例えば、子育て中は広い戸建て住宅に住み、子どもが独立した後は駅に近い小さなマンションへ移るとします。
そのとき、現在住んでいる住宅を適正な価格で売却できれば、住み替えの資金にできます。
しかし、中古住宅の流通市場が弱く、住宅を売りたくても買い手が見つからなければ、住み替えは難しくなります。
すると、
高齢者が広い住宅に住み続ける
子育て世帯は広い住宅を確保できない
という住宅ストックのミスマッチが起こりやすくなります。
既存住宅が適切に売買されれば、それぞれの世帯がライフステージに合った住宅へ移りやすくなります。
空き家対策にも既存住宅流通が重要になる
日本では空き家が増えています。
空き家を放置すれば、建物の劣化が進みます。
屋根や外壁が傷み、雨水が入り込めば、さらに住宅の価値は低下します。
長期間放置された住宅は、最終的に大規模な修繕や解体が必要になることがあります。
一方、比較的状態が良いうちに売却し、新しい所有者が住めば、住宅を有効活用できます。
つまり、空き家対策では、
空き家になってから長期間放置する
のではなく、
使わなくなった住宅を早い段階で市場に出す
ことが重要です。
既存住宅流通が活発になれば、空き家の増加を抑える効果も期待できます。
中古住宅は安さだけで選ばない
既存住宅市場が重要になるからといって、中古住宅なら何でもよいわけではありません。
中古住宅では、購入価格と改修費をセットで考える必要があります。
例えば3000万円の住宅を購入しても、耐震改修に500万円、断熱改修に300万円、水回り交換に300万円かかれば、住宅取得の総額は4100万円になります。
さらに屋根や外壁の修繕が近い将来必要になるかもしれません。
一方、3800万円でも状態が良く、大規模な改修が不要な住宅であれば、結果的に安くなる可能性があります。
そのため、中古住宅では、
売買価格
修繕費
今後の維持費
を合わせて判断する必要があります。
購入価格だけの比較では、本当の住宅コストは分かりません。
既存住宅市場では情報の質が重要になる
既存住宅流通を広げるためには、住宅情報の質を高めることが欠かせません。
例えば、
建築された時期
耐震性能
修繕履歴
リフォーム履歴
雨漏りの有無
設備交換の時期
マンションなら修繕積立金や大規模修繕の状況
などが分かれば、購入者は判断しやすくなります。
中古車を購入するときには、走行距離や修理履歴、車検などの情報を確認します。
住宅でも同じように、これまでどのように使われ、どのように維持されてきたのかが重要です。
既存住宅が単なる古い家ではなく、適切に管理されてきた資産として評価される市場を作ることが、新築不足時代には重要になります。
結論
既存住宅流通とは、すでに存在している住宅が売買され、新しい所有者へ引き継がれていく仕組みです。
一般には中古住宅市場と呼ばれます。
日本ではこれまで、新しい住宅への強い志向や、住宅政策、住宅産業の歴史などから、新築住宅が多く選ばれてきました。
さらに中古住宅では、一戸ごとに状態が異なり、修繕履歴や劣化状態が分かりにくいことも購入の不安につながってきました。
しかし、今後は状況が変わります。
大工などの建設人材が減り、資材費や人件費が上昇すれば、新築住宅をこれまでと同じように大量供給することは難しくなります。
そこで重要になるのが、すでにある住宅を長く使う既存住宅流通です。
中古住宅を適切に評価し、必要な修繕を行いながら次の所有者へ引き継ぐことができれば、新築住宅への依存を減らすことができます。
また、既存住宅が売りやすくなれば、高齢者から子育て世帯への住宅の移動など、ライフステージに応じた住み替えもしやすくなります。
ただし、既存住宅は価格の安さだけで判断してはいけません。
購入後の耐震改修、断熱改修、水回り交換などを含めた総費用を見る必要があります。
これからの住宅市場では、新築か中古かという単純な選択ではなく、住宅の状態と修繕費を正しく把握し、良質な住宅を長く使うという視点が重要になります。
新築不足時代に住宅を確保するためには、新しい家を建て続けるだけではありません。
今ある住宅を安心して売買できる既存住宅市場を育てることが、日本の住宅問題を考えるうえで大きな鍵になるのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月29日 朝刊 新築不足時代の住宅選び 立地や資金計画を見直し