地元密着ビジネスが過去最多 ローカル10000プロジェクトが地域の新事業を生み出す仕組み

人生100年時代

人口減少が進む地方では、地域経済をどう維持するかが大きな課題になっています。

大企業の工場や大型商業施設を誘致できれば雇用や消費を生み出せますが、すべての地域が企業誘致に成功するわけではありません。

そこで注目されているのが、その地域にすでに存在する特産品、歴史的建築物、観光資源、農産物などを使って新しい事業を生み出す方法です。

こうした地域密着型ビジネスを国、自治体、地域金融機関が一緒になって支援する制度が、総務省のローカル10000プロジェクトです。

制度が始まった2012年度から2026年7月までの採択件数は690件に達しました。

特に最近は利用が増えており、2025年度の採択件数は108件と過去最多になっています。

地方創生というと大規模な公共事業を想像しがちですが、ローカル10000プロジェクトが目指しているのは、それとは少し違います。

地域の中にある小さなビジネスの種を、持続可能な事業へ育てる仕組みなのです。

ローカル10000プロジェクトとは何か

ローカル10000プロジェクトは、地域資源を活用した新しい事業などに対して、初期投資を支援する制度です。

特徴的なのは、国から単純に補助金を出して終わる仕組みではないことです。

国や自治体による支援に加えて、金融機関からの融資などを組み合わせます。

つまり、公的資金と民間資金を組み合わせて事業を立ち上げます。

ここには重要な意味があります。

補助金だけで事業を始めるのであれば、事業そのものの採算性が十分に検討されない可能性があります。

一方、金融機関が融資する場合には、将来その事業から収益を生み出し、返済できるかどうかを確認する必要があります。

金融機関が事業計画を見ることで、採算性や継続可能性について民間の視点が加わるわけです。

地方創生と金融を組み合わせた制度と考えると分かりやすいでしょう。

15年間で採択件数は690件

ローカル10000プロジェクトは2012年度に始まりました。

2026年7月までの採択件数は690件に達しています。

特に近年は増加傾向が続き、2025年度には108件が採択されました。

これは制度開始以来最多です。

都道府県別では兵庫県が69件と最も多くなっています。

北海道が39件、奈良県が31件と続きます。

興味深いのは、大都市だけではなく山間部や島などでも活用されていることです。

人口の少ない地域であっても、その土地ならではの資源があればビジネスを生み出せる可能性があります。

特産品のユズがクラフトビールになる

兵庫県では、地域の農産物と酒造会社の技術を組み合わせた事業が生まれています。

神戸市に本社を置く菊正宗酒造は、ローカル10000プロジェクトを利用してクラフトビール事業を始めました。

国と兵庫県による1000万円の交付金と、JA兵庫信連からの融資を活用して醸造設備を導入しました。

ビールには兵庫県神河町の特産品であるユズを使用しています。

ポイントは、単に新しいビールを販売するだけではないことです。

クラフトビールをきっかけに若い顧客を取り込み、将来的にはユズの摘み取り体験などにつなげる構想があります。

一つの商品を作ることで、農業、食品加工、観光を結び付ける可能性が生まれます。

地域資源を加工して付加価値を高める典型的な取り組みといえるでしょう。

廃校も地域の経営資源になる

地域資源は農産物だけではありません。

人口減少によって使われなくなった公共施設も、新しい事業の資源になります。

兵庫県淡路市では、旧小学校の建物を活用したワーケーション施設事業が2025年度に採択されました。

人口減少地域では学校の統廃合が進み、使われなくなった校舎が増えています。

そのままにしておけば維持管理費がかかります。

しかし、宿泊、仕事、交流などの機能を持たせれば、新しい地域拠点として再利用できます。

地域外から人が訪れ、長期間滞在することで、その地域を知ってもらう機会も増えます。

そこから移住や起業につながれば、単なる施設再利用を超えた効果が期待できます。

地域金融機関の役割が大きい

ローカル10000プロジェクトを考えるうえで見逃せないのが、地域金融機関の存在です。

市区町村別の採択件数で全国最多となっている兵庫県豊岡市では、16件が採択されています。

この地域では但馬信用金庫が積極的に制度を活用しています。

同信用金庫によるローカル10000関連の融資は、周辺自治体を含めて27件に達しています。

地域金融機関は地域企業の財務状況だけでなく、経営者や取引先、地域産業などについて多くの情報を持っています。

そのため、地域にどのような事業機会があるのかを見つけやすい立場にあります。

さらに、一つの成功事例が生まれると、その経験が金融機関や自治体に蓄積されます。

どのような事業なら制度を利用できるのか。

どのように事業計画を作ればよいのか。

どのように国への申請を進めればよいのか。

こうしたノウハウが蓄積されれば、次の事業者も制度を利用しやすくなります。

一つの事業が次の事業を生む循環が形成されるわけです。

1億3000万円のイチゴ園投資も支援

長野県佐久市では、観光農園の拡張にも制度が利用されています。

井上寅雄農園は2020年に予約制のイチゴ狩り園を開業しました。

初年度は新型コロナウイルスの影響がある中でも5000人が来場しました。

その後、需要の拡大に対応するためハウスを増設しました。

総事業費は1億3000万円です。

このうち約4200万円をローカル10000プロジェクトによって賄いました。

新しいハウスの面積は32アールで、既存施設の約2.5倍です。

植え付け本数は4.5倍になり、直近の来場者数は年間1万5000人に達しました。

ここで重要なのは、補助金によって赤字事業を維持しているのではなく、すでに需要が確認された事業の成長投資に制度が使われていることです。

地域ビジネスを小規模なままで終わらせず、一定規模まで成長させるための資金としても利用できることが分かります。

小田原では昼の利益を地域交流に使う

神奈川県小田原市では、地域ビジネスと社会貢献を組み合わせた取り組みが行われています。

箱根口ガレージ 報徳広場です。

地域にゆかりの深い二宮尊徳の考え方を地域づくりに取り入れています。

施設には地元食材を使ったカフェや洋菓子店などが入り、昼間は観光客などが利用します。

特徴は営業終了後です。

夜になると地域住民が集まる地域食堂などが開かれます。

昼間の営業で得た利益の一部を地域活動に回します。

事業として収益を生み出し、その利益によって地域の交流を支える仕組みです。

施設整備には横浜銀行の融資やファンドからの出資に加え、ローカル10000プロジェクトによる3500万円の交付金が使われました。

公的支援、地域金融、民間事業を組み合わせた地域再生の一例です。

土浦では酒蔵が地域のハブになる

茨城県土浦市では2026年5月、市内唯一となる酒蔵の土浦醸造が開業しました。

整備には約5000万円が必要でした。

このうち国と土浦市からローカル10000プロジェクトを通じて約1600万円を調達し、残りを金融機関からの融資と自己資金で賄いました。

製造するのはクラフトサケです。

米、米麹、水に加えて、地元名産のレンコンや桜の木のチップなどを使用します。

イチゴやメロンなどを使った商品も開発し、開業から約3カ月で12品目を発売しました。

酒蔵の目的は酒を造ることだけではありません。

地元農家、観光地、飲食店などを結ぶ拠点になることも期待されています。

農家や観光名所を自転車で巡り、最後に地酒を楽しむツアーなども構想されています。

一つの酒蔵を中心として農業、観光、飲食、小売を結び付けるわけです。

歴史的建築物も収益を生み出せる

千葉県香取市の佐原地区では、歴史的な町並みそのものが事業資源になっています。

2019年度には元酒蔵を利用したウエディング事業が採択されました。

ローカル10000プロジェクトの交付金5000万円などを利用して建物を改修しました。

現在は分散型ホテルの一棟として、結婚披露宴などに利用されています。

地域の香取神宮で神前結婚式を行い、花嫁舟で川を移動し、披露宴では地元伝統のおはやしを演奏するなど、地域文化を結婚式というサービスに組み込んでいます。

古い建物を保存するだけでは維持費が必要です。

しかし、宿泊や結婚式などの事業に利用すれば、歴史的建築物そのものが収益を生み出す資産になります。

文化財や古民家を守ることと地域経済を活性化することを両立できる可能性があります。

地域資源は組み合わせることで価値が高まる

各地の事例には共通点があります。

兵庫ではユズとクラフトビール。

淡路島では廃校とワーケーション。

佐久市では農業と観光。

小田原では飲食と地域交流。

土浦では酒造りと農業と観光。

佐原では歴史的建築物と宿泊と結婚式です。

単独では大きな経済価値を生み出しにくい地域資源でも、別のサービスと組み合わせることで新しい商品になります。

地方創生では、地域に何が足りないかを考えるだけではなく、すでに地域にあるものを別の視点から組み合わせることが重要なのです。

採択件数より事業が残るかが重要

ローカル10000プロジェクトの採択件数は増えています。

しかし、採択件数が増えれば地域再生が成功したことになるわけではありません。

本当に重要なのは、支援終了後も事業が続くかどうかです。

事業の継続率はどうなっているのか。

地域に新しい雇用を生み出したのか。

売り上げは増えているのか。

地域外から観光客や消費を呼び込めているのか。

こうした成果を長期間確認する必要があります。

補助金を受けて施設を作ったものの、その後利用されなくなってしまえば地域活性化にはつながりません。

逆に、一つの事業が成長し、地域企業との取引や雇用を増やし、新しい事業者まで呼び込めれば、支援額を超える経済効果が生まれます。

地方創生の評価は、いくら交付したかではなく、その資金からどれだけ持続的な地域経済が生まれたかで判断する必要があります。

結論

ローカル10000プロジェクトは、地域資源を使った新しいビジネスの初期投資を、国、自治体、地域金融機関が協力して支援する制度です。

2012年度の開始から2026年7月までの採択件数は690件となり、2025年度には過去最多となる108件が採択されました。

ユズを使ったクラフトビール、廃校を利用したワーケーション施設、イチゴ狩り園、地域食堂、クラフトサケ、歴史的な酒蔵を利用したウエディングなど、事業の形は地域によって大きく異なります。

共通しているのは、その地域にすでに存在する資源を新しい組み合わせによって事業化していることです。

さらに、地域金融機関が融資という形で参加することで、単なる補助金事業ではなく、採算性や継続性を持つビジネスへ育てる仕組みになっています。

地方創生では、巨大な企業を外から呼び込むことだけが地域経済を立て直す方法ではありません。

地域にある農産物、建物、文化、人、技術を組み合わせ、小さな事業を一つずつ育てる方法もあります。

そして一つの成功事例が生まれれば、自治体や金融機関にノウハウが蓄積され、次の起業や第二創業につながります。

ローカル10000プロジェクトの本当の成果は採択件数ではなく、こうした地域内の事業創出の循環をどこまで作れるかにあると考えます。

参考

日本経済新聞 2026年8月29日朝刊 地元密着ビジネスが最多 総務省採択、昨年度108件

日本経済新聞 2026年8月29日朝刊 神奈川・小田原の交付金事業 尊徳が導く相互扶助の輪

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