個人向け国債はなぜ中途換金しても市場価格で売らなくてよいのか 国が額面で買い取る仕組み編

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一般的な債券は、満期になる前に売却すると、その時点の市場価格で取引されます。

そのため、購入後に市場金利が上昇して債券価格が下落すると、途中で売却した際に元本割れする可能性があります。

ところが、個人向け国債には一般的な債券とは大きく異なる仕組みがあります。

発行から1年が経過すれば、原則として1万円単位で中途換金できます。

しかも、通常の債券のように市場価格で第三者に売却するのではありません。

国が中途換金に応じる制度になっているからです。

そのため、金利上昇によって市場の国債価格が下落している局面でも、その下落した市場価格で売却する必要がありません。

個人向け国債が「金利上昇に強い」といわれる理由の一つが、この特殊な中途換金制度です。

一般的な債券は市場で売却する

まず、通常の債券を途中で売る場合を考えてみます。

例えば額面100万円、年1パーセントの10年国債を購入したとします。

その後、市場金利が上昇して、新しく発行される10年国債の金利が年3パーセントになったとします。

新しい国債を100万円購入すれば、単純化すると年間3万円の利子を受け取れます。

一方、以前購入した国債から受け取れる利子は年間1万円です。

同じ100万円なら、新しい年3パーセントの国債を購入した方が有利です。

そのため、年1パーセントの古い国債を100万円で売ろうとしても買い手が現れにくくなります。

そこで市場価格を下げる必要があります。

これが、金利上昇によって債券価格が下落する仕組みです。

途中で売れば元本割れが現実になる

例えば額面100万円の国債の市場価格が95万円まで下落したとします。

そのまま満期まで保有し、国が約束通り償還すれば、原則として額面100万円が返ってきます。

したがって、市場価格が95万円になっただけでは、直ちに5万円の損失が確定するわけではありません。

しかし、途中でお金が必要になって95万円で売却すれば、話は変わります。

100万円で購入したものを95万円で売るため、5万円の価格差が実現します。

一般的な債券では、この中途売却時の価格変動リスクがあります。

そのため、長期債を購入するときには「満期まで本当に持ち続けられる資金なのか」が重要になります。

個人向け国債は市場で売却する商品ではない

個人向け国債は、この点で一般的な市場性国債とは異なります。

個人向け国債には国による中途換金制度があります。

購入者が途中で資金を必要とした場合、市場で買い手を探して国債を売却する仕組みではありません。

購入した銀行や証券会社などの金融機関を通じて中途換金を申し込みます。

そして国が中途換金に応じます。

そのため、その時点の国債市場で価格が大幅に下落していても、その市場価格によって換金額が決まるわけではありません。

これが個人向け国債の非常に大きな特徴です。

国が額面金額を基準に中途換金する

例えば100万円分の個人向け国債を保有しているとします。

市場金利が大きく上昇し、同じような残存期間を持つ一般的な国債の市場価格が下落していたとします。

通常の国債なら、その低下した市場価格で売却しなければならない可能性があります。

一方、個人向け国債では市場価格を基準に売却するわけではありません。

額面金額を基準として中途換金されます。

そのため、市場価格が90万円相当まで下落していたとしても、個人向け国債100万円分を市場で90万円で売却するという仕組みにはなりません。

この意味で、個人向け国債では市場金利上昇による価格下落リスクを直接負担しなくてよい商品設計になっています。

ただし受取額が必ず額面と同じとは限らない

ここで注意したい点があります。

個人向け国債は額面を基準に中途換金できるからといって、中途換金したときに必ず額面金額とまったく同じ金額を受け取れるわけではありません。

中途換金調整額が差し引かれるからです。

原則として、直前2回分の各利子相当額に一定の税率調整をした金額が差し引かれます。

簡単にいえば、中途換金する代わりに直近1年分程度の税引前利子相当額を返すような仕組みです。

したがって、

市場価格の下落によって元本部分が減ること

と、

中途換金調整額が差し引かれること

は分けて考える必要があります。

個人向け国債では前者を避けられる仕組みになっていますが、後者は発生します。

なぜ中途換金調整額が必要なのか

もし個人向け国債をいつでも額面通り、何の負担もなく換金できるとすると、購入者にとって非常に有利な商品になります。

高い金利が付いている間は利子を受け取り、お金が必要になったらすぐに元本全額を取り戻せるからです。

それでは普通預金に近い流動性を持ちながら、長期国債に連動した金利を受け取れることになります。

そこで中途換金には一定の調整が行われます。

それが中途換金調整額です。

長期で保有する人と途中で換金する人とのバランスを取る役割があります。

発行後1年間は原則として中途換金できない

個人向け国債にはもう一つ重要な条件があります。

購入してすぐに中途換金できるわけではありません。

原則として発行から1年間は中途換金できません。

変動10年、固定5年、固定3年のいずれも基本的な考え方は同じです。

例えば半年後に住宅購入の頭金として使う予定の1000万円を個人向け国債に移してしまうと、必要な時期に換金できない可能性があります。

そのため個人向け国債を購入するときには、少なくとも1年間は使う予定のない資金かどうかを確認する必要があります。

1年経過後は1万円単位で換金できる

発行から1年が経過すれば、原則として中途換金できます。

しかも、保有している個人向け国債をすべて換金する必要はありません。

1万円単位で一部だけ換金できます。

例えば1000万円分を保有している人が300万円だけ必要になった場合、原則として300万円分を中途換金し、残り700万円分を運用し続けることができます。

この仕組みによって資金の自由度が高くなっています。

10年満期の商品を購入したからといって、10年間すべての資金を固定しなければならないわけではありません。

変動10年の10年は資金拘束期間ではない

変動10年という名称を見ると、「10年間使わないお金しか投資できない」と考える人もいるでしょう。

しかし、10年は満期までの最長期間です。

原則として1年間保有すれば、その後は中途換金できます。

例えば、

3年後に住宅の修繕費として使うかもしれない

5年後に自動車を買い替えるかもしれない

7年後に退職後の生活費として使い始めるかもしれない

といった資金にも利用を検討できます。

使う時期が明確に決まっていない中期資金の置き場所として使いやすい理由がここにあります。

金利上昇局面で使いやすい理由

個人向け国債の中途換金制度は、特に金利上昇局面で大きな意味を持ちます。

通常の固定金利債では、市場金利が上昇すると債券価格が下落します。

そのため「さらに金利が上がりそうだが、今の高い金利も利用したい」と考えて長期債を購入すると、その後さらに金利が上昇した場合に途中売却しにくくなります。

売れば元本割れする可能性があるからです。

個人向け国債では、発行後1年を経過すれば市場価格で売却する必要がありません。

さらに変動10年なら半年ごとに適用利率が見直されます。

つまり、

金利上昇に応じて受取利子が増える可能性がある

市場価格下落による中途売却損を直接負担しなくてよい

という二つの特徴を持っています。

これが変動10年が金利上昇局面で注目される大きな理由です。

一般的な10年国債とは商品性が大きく違う

同じ満期10年の国債でも、一般的な10年固定利付国債と個人向け国債の変動10年では性格が大きく異なります。

一般的な10年国債は市場で売買されます。

そのため途中で売却すれば市場価格の影響を受けます。

変動10年は個人向けに特殊な商品設計がされています。

半年ごとに金利が見直され、発行後1年経過後には国による中途換金制度を利用できます。

単に「どちらも日本国債だから同じ」と考えることはできません。

国債を選ぶときには発行体だけではなく、中途換金の方法まで確認することが重要です。

流動性と安全性を両立しやすい

金融商品には、収益性、安全性、流動性という三つの重要な要素があります。

一般的には三つすべてを高い水準で満たすことは難しいとされています。

例えば普通預金は流動性が非常に高い一方、一般的には長期の金利商品より金利が低くなりやすい特徴があります。

長期債は比較的高い金利を得られることがありますが、途中売却では価格変動リスクがあります。

個人向け国債は、発行後1年間という制約はあるものの、その後は1万円単位で中途換金できます。

しかも市場価格による売却ではありません。

この仕組みによって、安全性を重視しながら一定の流動性も確保しやすくなっています。

生活防衛資金とは分けて考える

ただし、個人向け国債を普通預金の代わりにすべての資金の置き場所にするのは適切ではありません。

発行から1年間は原則として中途換金できないからです。

病気、失業、住宅設備の故障など、突然まとまったお金が必要になることがあります。

こうした緊急時に備える生活防衛資金については、すぐ引き出せる普通預金などで確保しておく必要があります。

そのうえで、

当面使わない

しかし10年間使わないとまでは言い切れない

という資金について個人向け国債を検討する考え方があります。

中途換金制度があるからこそ、このような中間的な資金の置き場所として利用しやすいのです。

結論

個人向け国債は、一般的な債券のように市場で第三者へ売却するのではなく、発行から1年経過後であれば原則として国による中途換金制度を利用できます。

そのため、市場金利が上昇して国債価格が下落していても、その下落した市場価格で売却する必要がありません。

一般的な債券では、金利上昇によって額面100万円の債券の市場価格が90万円になれば、その時点で売却すると価格下落による損失が発生する可能性があります。

個人向け国債では市場価格ではなく額面を基準に中途換金されるため、この価格変動リスクを直接負担しない仕組みになっています。

ただし、中途換金では直前2回分の各利子相当額をもとに計算した中途換金調整額が差し引かれます。

また、原則として発行から1年間は中途換金できません。

つまり個人向け国債は「いつでも無条件で元本全額を引き出せる商品」ではありません。

それでも、発行後1年を経過すれば1万円単位で中途換金でき、一般的な債券のような市場価格による売却損を避けられることは大きな特徴です。

満期まで保有する安全性と、途中で資金を取り崩せる流動性を組み合わせた特殊な商品設計だからこそ、個人向け国債は「数年後に使うかもしれないお金」の置き場所として利用しやすいのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月29日朝刊 <ステップアップ>「変動10年」金利上昇に強く 中途売却でも元本確保

財務省 個人向け国債の商品概要

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