個人向け国債の大きな特徴の一つが、発行から1年経過すれば原則として中途換金できることです。
一般的な債券を満期前に売却すると、その時点の市場価格で取引されるため、金利上昇などによって元本割れする可能性があります。
一方、個人向け国債では市場価格で売却する必要がありません。
ただし、途中で換金しても何の負担もないわけではありません。
中途換金すると「中途換金調整額」という金額が差し引かれます。
基本的には直前2回分の各利子相当額をもとに計算されます。
なぜこのような仕組みがあるのでしょうか。
中途換金調整額を理解すると、個人向け国債の「元本割れしにくい」という特徴をより正確に理解できるようになります。
中途換金調整額とは何か
個人向け国債は、変動10年、固定5年、固定3年のいずれについても、原則として発行から1年経過すれば中途換金できます。
その際、額面金額を基準として換金されます。
ただし、そこから一定の金額が差し引かれます。
それが中途換金調整額です。
現行制度では、原則として直前2回分の各利子相当額に税率調整をした金額が中途換金調整額になります。
個人向け国債の利子は半年ごとに支払われるため、直前2回分ということは、おおむね1年分の利子に相当します。
簡単にいえば、
途中で換金する場合には直近1年程度の受取利子を返す
というイメージで理解すると分かりやすくなります。
なぜ直前2回分なのか
個人向け国債の利子は年2回、半年ごとに支払われます。
そのため直前2回分の利子は1年間に対応します。
例えば半年ごとに4万円ずつの利子を受け取っていたとします。
直前2回分なら合計8万円です。
中途換金では、この8万円を基礎にして調整額が計算されます。
実際には税金に相当する部分を調整するため、単純に受け取った利子の額面をそのまま返すわけではありません。
しかし基本的な考え方としては、直近1年間の利子相当額を調整する制度です。
これによって、長期間保有する人と短期間で換金する人とのバランスを取っています。
なぜ中途換金にペナルティーが必要なのか
もし中途換金調整額がなかったらどうなるでしょうか。
個人向け国債は、発行後1年経過すれば市場価格に左右されず額面を基準に換金できます。
しかも保有中は利子を受け取れます。
中途換金に何の調整もなければ、
金利が高い間は国債を持つ
必要になったら元本をそのまま取り戻す
という非常に有利な利用が可能になります。
長期資金として国債を購入している人と、短期間だけ利用する人との公平性にも問題が生じます。
そこで中途換金すると一定期間分の利子を差し引く仕組みが設けられています。
中途換金制度という高い流動性を提供する代わりに、一定の調整を行っていると考えると分かりやすいでしょう。
実際にはどのように計算するのか
中途換金調整額は、単純に「直前2回分の利子を全額返す」という計算ではありません。
個人向け国債の利子には税金がかかります。
通常、利子を受け取る際には所得税や復興特別所得税、住民税が源泉徴収されます。
そのため中途換金調整額についても税金部分を考慮した計算が行われます。
基本的な考え方は、
直前2回分の各利子相当額に一定の税率調整を行った金額
です。
したがって、実際に差し引かれるのは直前2回分の税引前利子そのものではありません。
投資家が実際に受け取った税引後利子に近い金額が調整される仕組みです。
1000万円ならどのくらい差し引かれるのか
簡単な例で考えてみます。
1000万円分の個人向け国債を保有し、適用利率が年2パーセントだったとします。
単純化すると、年間の税引前利子は20万円です。
半年ごとの税引前利子は10万円になります。
直前2回分なら20万円です。
ただし、実際の中途換金調整額では税金に相当する部分が調整されます。
したがって20万円がそのまま差し引かれるわけではありません。
重要なのは、1000万円の元本そのものが市場価格によって950万円や900万円になるのではなく、額面1000万円を基準にして一定の利子相当額が差し引かれるという点です。
一般的な債券の市場売却とは損失の発生する仕組みが異なります。
元本割れしないという言葉には注意が必要
個人向け国債について「中途換金しても元本割れしない」と説明されることがあります。
この意味を正確に理解しておく必要があります。
一般的な債券のように、市場価格が下落したため額面100万円の債券を90万円で売却するという価格変動による元本割れは基本的にありません。
しかし、中途換金調整額は差し引かれます。
したがって、中途換金時の受取金額だけを見ると額面金額より少なくなることがあります。
これは債券価格の下落による損失ではなく、中途換金制度に伴う利子の調整です。
「市場価格による元本割れがない」と「何も差し引かれない」は同じ意味ではありません。
金利が高くなるほど調整額も大きくなる
中途換金調整額は利子を基準に計算されます。
そのため、適用利率が高くなれば調整額も大きくなります。
例えば1000万円を運用している場合を考えます。
年0.5パーセントなら年間の税引前利子は5万円です。
年2パーセントなら20万円です。
年3パーセントなら30万円です。
金利が高いほど保有中に受け取れる利子は増えますが、中途換金した場合に差し引かれる金額も増えることになります。
金利上昇は変動10年の収益性を高める一方、中途換金調整額にも影響するということです。
長く保有するほど調整額の負担感は小さくなる
例えば1年少しで中途換金した場合を考えてみます。
保有期間が短いため、それまで受け取った利子のかなりの部分が中途換金調整額によって相殺される可能性があります。
一方、5年間保有していた場合にはどうでしょうか。
5年間にわたって利子を受け取ったうえで、原則として直前2回分の利子相当額だけが調整されます。
それ以前に受け取った利子まで全て返すわけではありません。
そのため保有期間が長くなるほど、運用期間全体に占める中途換金調整額の負担は相対的に小さくなります。
個人向け国債は1年経過後に換金できる商品ですが、短期運用を目的とした商品ではないことが分かります。
1年定期預金とは意味が違う
発行から1年後に換金できるなら、1年定期預金と似ているように思えるかもしれません。
しかし商品設計は異なります。
1年定期預金は、基本的に1年で満期を迎える商品です。
個人向け国債の変動10年は最長10年間運用しながら、必要になれば発行後1年経過後に途中で資金を取り出せる商品です。
1年後の換金は本来の満期ではありません。
そのため中途換金調整額があります。
「1年間運用する商品」ではなく「長期間運用できるが1年後から出口も用意されている商品」と考える方が実態に近いでしょう。
短期間で使う予定のお金には向かない
中途換金制度があるからといって、個人向け国債が短期資金の置き場所として万能なわけではありません。
そもそも発行から1年間は原則として中途換金できません。
さらに1年を少し超えたところで換金すると、それまで受け取った利子の多くが中途換金調整額によって相殺される可能性があります。
例えば、
半年後の税金の支払い
1年以内の住宅購入資金
近いうちに必要になる教育費
などを個人向け国債に移すのは慎重に考える必要があります。
こうした短期資金については普通預金など、いつでも引き出せる金融商品の方が適しています。
数年後に使うかもしれない資金とは相性がよい
一方で「いつ使うか正確には決まっていないが、しばらく使わない」という資金には個人向け国債が利用しやすくなります。
例えば、
数年後の住宅リフォーム費用
将来の自動車購入資金
退職後に徐々に取り崩す資金
などです。
使わなければそのまま利子を受け取りながら運用を続けられます。
必要になれば発行から1年経過後に1万円単位で中途換金できます。
中途換金調整額というコストはありますが、市場価格下落による大きな売却損を心配する必要性は小さくなります。
このバランスが個人向け国債の特徴です。
変動10年では金利上昇と中途換金を両立できる
特に変動10年では、中途換金制度との組み合わせが重要になります。
半年ごとに適用利率が見直されるため、市場金利が上昇すれば受取利子も増える可能性があります。
それでも10年間必ず保有しなければならないわけではありません。
発行から1年経過すれば中途換金できます。
つまり、
金利が上昇すれば高くなった利子を受け取る
必要になるまで運用を続ける
資金が必要になれば中途換金する
という柔軟な使い方ができます。
その代わり、中途換金時には直前2回分の利子相当額を基礎とした調整額を負担します。
流動性を確保するためのコストと考えることができます。
結論
個人向け国債の中途換金調整額とは、発行から1年経過後に満期前の個人向け国債を換金するときに差し引かれる金額です。
原則として、直前2回分の各利子相当額をもとに計算されます。
個人向け国債では、市場金利が上昇して一般的な国債価格が下落していても、その市場価格で売却する必要はありません。
額面金額を基準として中途換金できます。
その代わりに一定期間分の利子を調整することで、中途換金できるという高い流動性とのバランスを取っています。
したがって「個人向け国債は中途換金しても元本割れしない」という説明は、市場価格の下落によって元本部分が減る仕組みではないという意味で理解することが重要です。
中途換金調整額まで存在しないわけではありません。
また、短期間で換金すると、それまで受け取った利子に対して調整額の負担が大きくなります。
個人向け国債は短期の資金置き場というより、「当面使わないが数年後には使うかもしれない資金」を運用するための商品として考えると、その特徴を生かしやすくなります。
参考
日本経済新聞 2026年8月29日朝刊 <ステップアップ>「変動10年」金利上昇に強く 中途売却でも元本確保
財務省 個人向け国債の商品概要