病床稼働率とは何か 患者が少ない病院ほど病床削減の対象になりやすい理由編

人生100年時代
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病院に100床のベッドがあっても、毎日100床すべてが患者に使われているとは限りません。

平均して90床が使われている病院もあれば、60床程度しか使われていない病院もあります。

このように、病院が持っている病床のうち実際にどの程度が患者に利用されているのかを見る指標が病床稼働率です。

人口減少によって将来の患者数が減る地域では、病床稼働率は病床再編を考える重要な材料になります。

ただし、稼働率が低い病院だから不要だと単純に判断できるわけではありません。

救急医療や災害医療などでは、普段は使われていない病床を一定程度確保しておくことにも意味があるからです。

病床稼働率とは何か

病床稼働率とは、病院が保有している病床がどの程度実際に患者に利用されているのかを示す指標です。

簡単に考えると、100床の病院で平均90床が患者に使われていれば、病床稼働率は90パーセント程度になります。

平均60床しか使われていなければ、60パーセント程度です。

ただし実際の指標では、どの病床数を分母として使うかなどによって計算方法や名称が異なる場合があります。

重要なのは、病床数そのものではなく、持っている病床がどの程度利用されているのかを見る数字だということです。

同じ100床の病院でも、90床使われている病院と50床しか使われていない病院では、病床需要が大きく異なります。

空床とは何か

患者が入院していない病床を一般に空床といいます。

100床ある病院で70人が入院していれば、単純に考えると30床が空いていることになります。

しかし空床があること自体が悪いわけではありません。

病院には毎日新しい患者が入院します。

救急搬送される患者もいます。

すべての病床が常に埋まっていれば、新しい患者を受け入れることができません。

ホテルであれば満室は売上の最大化につながりますが、病院の場合には常に満床であることが必ずしも望ましいとは限りません。

一定の余裕を持って病床を運営する必要があります。

病床稼働率が高ければよいとは限らない

病床稼働率が高い病院は、病床が効率的に利用されているように見えます。

経営面では、一定程度高い稼働率を維持することが重要です。

病院は病床を維持するために、医師や看護師などを配置します。

建物や設備にも費用がかかります。

患者がほとんど入院していない病床を大量に維持すれば、固定費の負担が重くなります。

一方で稼働率が高すぎれば、新しい患者を受け入れる余力がなくなります。

特に救急医療を担う病院では、急に入院が必要になる患者のために一定の余裕が必要です。

したがって病床稼働率は、高ければ高いほどよいという単純な指標ではありません。

病床稼働率と病院経営

病床稼働率は病院経営にも大きく関係します。

病院は病床を持っているだけでは収入を得られません。

基本的には患者へ医療を提供することで診療報酬による収入を得ます。

そのため多くの空床を抱えていると、病床を維持するための費用に対して収入が少なくなります。

特に人口減少地域では、この問題が深刻になる可能性があります。

地域人口が減れば患者数も減少します。

複数の病院が従来と同じ病床数を維持すれば、一つ一つの病院に入院する患者が減ります。

すると病床稼働率が低下し、病院経営が難しくなります。

人口減少で稼働率が下がる仕組み

たとえば、ある地域に3つの病院があり、それぞれ100床を持っているとします。

地域全体では300床です。

以前は平均270床程度が利用されていたとします。

地域全体の病床稼働率は単純化すれば90パーセント程度です。

ところが人口減少によって入院患者が200人まで減ったとします。

病床数が300床のままであれば、多くの空床が生まれます。

それぞれの病院が100床を維持するより、地域全体の病床数そのものを見直した方が効率的になる可能性があります。

人口減少時代に病床再編が必要になる理由です。

患者が少ない病院ほど削減しやすい理由

地域全体で病床を減らす必要がある場合、すべての病院から同じ割合で削減する方法があります。

しかし病床稼働率が病院ごとに大きく異なれば、一律削減は合理的とは限りません。

A病院には100床あり、平均95床が使われているとします。

B病院にも100床ありますが、平均60床しか使われていないとします。

両方から10床ずつ削減すれば、A病院は患者の受け入れが難しくなる可能性があります。

一方、B病院には40床程度の空床があります。

地域全体として20床削減するのであれば、B病院からより多く削減した方が患者への影響を小さくできる可能性があります。

このため病床稼働率は、病床再編を考える重要な材料になります。

病床権取引との関係

病床稼働率の違いを市場によって調整しようという発想が病床権取引市場につながります。

患者が多く病床稼働率の高い病院は、病床を減らしたくありません。

一方、空床が多い病院では、病床を減らしても患者への影響が比較的小さい場合があります。

そこで病床を減らせる病院が病床権を売却し、病床を必要とする病院が購入できるようにします。

病床稼働率の低い病院には、余分な病床を手放して売却収入を得るという選択肢が生まれます。

病床稼働率の高い病院は、対価を支払って必要な病床を維持できます。

結果として地域全体の病床数を減らしながら、患者が多く集まる病院に病床を残せる可能性があります。

稼働率だけで病床削減を決められない理由

ただし、病床稼働率だけを基準に病床を削減することには問題があります。

たとえば地域の救急医療を担う病院では、普段は病床に余裕があっても、感染症の流行などによって患者が急増することがあります。

災害時に多くの患者を受け入れる役割を持つ病院もあります。

人口の少ない地域では、患者数だけを見れば病床稼働率が低くても、その病院がなくなると住民が遠方まで移動しなければならないことがあります。

さらに診療科によっても事情が違います。

したがって、稼働率が低いという数字だけで病床が不要だと判断することはできません。

病床機能によって適切な稼働率も違う

病床にはさまざまな機能があります。

高度急性期。

急性期。

包括期。

慢性期。

それぞれ受け入れる患者や医療の内容が異なります。

救急患者を多く受け入れる急性期病院では、突然の入院に備える必要があります。

一方、予定された入院が中心となる病床では、患者数を比較的予測しやすい場合があります。

長期療養を担う病床では、患者の入れ替わり方も急性期とは異なります。

そのため、すべての病床について同じ稼働率を理想とすることはできません。

病床機能や地域での役割と組み合わせて評価する必要があります。

病床を減らすと人材を集約できる

病床削減の目的は、空いているベッドを片付けることだけではありません。

重要なのは医療人材です。

100床を維持するには、その病床を運営するための医師や看護師などが必要になります。

患者が少ない複数の病院がそれぞれ多くの病床を維持すると、限られた医療従事者が分散します。

病床を集約すれば、人材も集約できる可能性があります。

特に急性期医療では、夜間や休日も含めて医療従事者を確保する必要があります。

人口だけでなく働き手も減少する2040年には、患者がどこにいるかだけではなく、医療従事者をどこへ配置するかという観点が重要になります。

空床が多くても病院が病床を手放さない理由

病床稼働率が低いのであれば、病院が自主的に病床を減らせばよいと思うかもしれません。

しかし病院には病床を維持したい理由があります。

現在は患者が少なくても、将来増える可能性があります。

病床を一度減らすと、必要になったときに簡単に増やせない可能性もあります。

また病床数は病院の事業規模にも関係します。

そのため現在使っていない病床があるからといって、病院が積極的に病床を返上するとは限りません。

ここでも地域全体の合理性と個々の病院の合理性に違いが生まれます。

病床稼働率は再編の答えではなく判断材料

病床稼働率は非常に分かりやすい数字です。

しかし地域医療構想では、稼働率だけで病院の必要性を判断するべきではありません。

救急搬送の受け入れ件数。

手術件数。

地域住民の病院までの移動時間。

医師や看護師の配置。

他の病院との役割分担。

将来人口。

こうした情報と組み合わせて考える必要があります。

病床稼働率は病院再編の答えそのものではなく、限られた病床をどこへ残すべきかを考えるための重要な判断材料なのです。

結論

病床稼働率とは、病院が保有している病床が実際にどの程度患者に利用されているのかを見るための指標です。

人口減少によって患者数が減れば、病床数を維持したままでは空床が増え、病床稼働率が低下する可能性があります。

地域全体で病床を削減する場合には、患者が多く稼働率の高い病院から一律に病床を減らすより、空床の多い病院がより多く削減した方が患者への影響を抑えられる場合があります。

この考え方は、病床を減らせる病院と維持したい病院の間で病床権を取引するという発想にもつながります。

ただし病床稼働率が低いからといって、その病院が不要とは限りません。

救急医療や災害医療、地域住民のアクセスを確保するために、一定の余裕が必要な場合もあります。

2040年に向けた病床再編で重要なのは、単純に稼働率の低い病院から病床を削ることではありません。

病床稼働率を一つの材料として、患者がどこにいるのか、どの医療機能が必要なのか、限られた医療人材をどこへ集めるのかを地域全体で考えることです。

病床稼働率とは、病院のベッドが余っているかを見るだけの数字ではなく、人口減少時代の医療資源をどこへ配置するべきかを考えるための重要な指標なのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月27日朝刊 2040年の地域医療構想上 病床の取引市場制度 創設を

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