地域医療構想とは何か 国が病院を直接減らさなくても病床再編を進める仕組み編

人生100年時代
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日本では人口減少と高齢化が同時に進んでいます。

人口が減れば患者数も減少していきますが、医療需要が一律に減るわけではありません。高齢者が増えることで、救急医療やリハビリ、慢性期医療、在宅医療などの需要が相対的に高まる地域もあります。

そこで問題になるのが、現在ある病院や病床の構成が将来の医療需要と合わなくなることです。

急性期病床が多すぎる地域がある一方で、回復期の機能が不足する地域もあります。

こうした将来の医療需要を予測し、地域ごとに必要な医療提供体制へ組み替えていく仕組みが地域医療構想です。

地域医療構想の基本

地域医療構想は、将来の人口構成や医療需要を推計し、それぞれの地域でどのような医療機能がどの程度必要になるのかを考える仕組みです。

これまでの地域医療構想は2015年から進められてきました。

大きな特徴は、単純に病院数や病床数だけを見るのではなく、病床がどのような役割を担っているのかまで考えることです。

従来は病床機能を主に高度急性期、急性期、回復期、慢性期に分けていました。

たとえば大きな手術を受けた直後の患者と、手術を終えて自宅復帰に向けたリハビリをする患者では、必要となる医療サービスが異なります。

したがって、地域に1000床あればよいという単純な問題ではありません。

1000床のうち、急性期が何床必要で、回復期が何床必要なのかという病床の中身まで考える必要があります。

地域医療構想は、この病床機能の組み替えを進める仕組みでもあります。

なぜ地域ごとに考えるのか

医療需要は全国で同じではありません。

人口が増えている都市部と、急速に人口が減っている地方では事情が大きく異なります。

さらに同じ都道府県の中でも、県庁所在地周辺と山間部では人口構成も病院の配置も違います。

そこで地域医療構想では、一定の地域ごとに将来の医療需要を考えます。

この単位が構想区域です。

住民が通常の入院医療を受ける範囲などを考慮して設定されます。

つまり地域医療構想は、全国一律に何床減らすという政策ではありません。

地域ごとの人口動態や患者数を踏まえて、必要となる医療提供体制を考える政策なのです。

医療計画とは何が違うのか

地域医療構想と混同しやすい制度に医療計画があります。

医療計画は、都道府県が地域の医療提供体制について定める基本的な計画です。

救急医療、災害医療、周産期医療など、地域で必要となるさまざまな医療提供体制について計画します。

また、病床が際限なく増えないようにするため、地域ごとの基準病床数なども医療計画の中で定められます。

一方、地域医療構想では、将来の医療需要を予測して、どのような機能の病床が必要になるのかをより具体的に考えます。

簡単に整理すると、医療計画は地域医療全体の設計図であり、地域医療構想はその中でも将来の人口構造を踏まえた医療機能の配置を考える仕組みと理解すると分かりやすいでしょう。

地域医療構想は医療計画の一部として位置付けられています。

必要病床数とは何か

地域医療構想を理解するうえで重要なのが必要病床数です。

必要病床数とは、将来の医療需要などをもとに、その地域でどの程度の病床が必要になるのかを推計したものです。

重要なのは、現在存在する病床数から考えるのではないことです。

まず将来人口を予測します。

次に年齢構成などから、どの程度の患者が発生すると考えられるのかを推計します。

そして、その患者を受け入れるためにどの程度の病床が必要なのかを計算します。

そのため、現在1000床ある地域でも、将来の必要病床数が800床になる場合があります。

反対に、高齢者人口が増加する地域では、特定の医療機能について現在より需要が増えることもあります。

病床数だけではなく機能別に考える

さらに重要なのは、必要病床数を機能別に考えることです。

仮に地域全体では病床が余っていたとしても、すべての種類の病床が余っているとは限りません。

急性期病床が200床多い一方、回復期病床が100床不足しているということもあります。

この場合、単純に200床を廃止することだけが解決策ではありません。

急性期病床の一部を回復期病床へ転換するという方法があります。

つまり地域医療構想の目的は、単純な病床削減ではなく、医療需要に合わせて病床機能を組み替えることにあります。

人口減少時代には、この機能転換が特に重要になります。

なぜ国が病院を直接減らさないのか

では、国が将来必要な病床数を計算できるのであれば、過剰な病院や病床を直接廃止すればよいのではないでしょうか。

実際には、それほど単純ではありません。

病院の多くは国が所有しているわけではありません。

地方自治体が運営する公立病院もありますが、医療法人などが運営する民間病院も多数あります。

行政が必要病床数を計算したからといって、民間病院に対して直ちに病床を廃止するよう命令できる制度ではありません。

また、病床が多いか少ないかだけで病院の必要性を判断することもできません。

救急医療を担っている病院や、その地域で唯一入院できる病院などもあります。

単純な数字だけで病院をなくせば、住民が必要な医療を受けられなくなる可能性があります。

話し合いによって病床再編を進める

そこで地域医療構想では、地域の医療関係者が話し合いながら病床機能の再編を進める方法が採用されてきました。

その中心となるのが地域医療構想調整会議です。

都道府県や医療機関などの関係者が、将来必要となる医療機能について協議します。

たとえば急性期病床が多い地域であれば、どの病院が急性期機能を維持し、どの病院が回復期などへ転換するのかを話し合います。

行政が一方的に病院を閉鎖するのではなく、地域の医療機関自身が役割分担を調整していく考え方です。

なぜ病床再編がなかなか進まないのか

ただし、この方法には大きな難しさがあります。

地域全体では病床を減らした方がよくても、個々の病院にとっては病床を減らすメリットがない場合があるからです。

病床は病院の収入に直結します。

急性期病床を回復期へ転換すれば、診療報酬や患者構成が変わり、病院経営にも影響します。

病院職員の配置や医療設備を変更しなければならない場合もあります。

地域全体では合理的な再編でも、一つ一つの病院から見れば大きな経営判断になります。

そのため関係者の話し合いだけでは、なかなか再編が進まないことがあります。

これまでの地域医療構想が抱えてきた大きな課題の一つです。

補助金や診療報酬が重要になる

そこで病床再編を進めるためには、話し合いだけでなく経済的な仕組みも重要になります。

たとえば病床を転換するための施設改修費を補助する方法があります。

病院を統合したり再編したりするための資金を支援する方法もあります。

さらに大きな影響を持つのが診療報酬です。

急性期病床を維持した方が収益性が高ければ、病院には急性期病床を残す動機が生まれます。

反対に、将来必要になる病床機能の診療報酬を手厚くすれば、病院が自主的に転換する可能性があります。

行政による命令ではなく、病院自身の経営判断によって医療提供体制を変えていくわけです。

2040年に向けて対象はさらに広がる

新たな地域医療構想では、2040年を見据えた医療提供体制を考えていくことになります。

しかも対象は病床だけではありません。

高齢者が増える社会では、入院医療だけを考えていても地域医療は成立しません。

外来医療、在宅医療、介護、高齢者救急などとの連携が重要になります。

病院で治療を受けた患者がリハビリを行い、その後自宅や介護施設へ戻るという一連の流れを地域全体で考える必要があります。

したがって、これからの地域医療構想は病床再編だけではなく、地域の医療と介護をどのように組み合わせるのかという、より大きな制度へ変わっていくことになります。

結論

地域医療構想とは、国が全国の病院に一律の病床削減を命じる制度ではありません。

将来人口や医療需要をもとに地域ごとの必要病床数や必要な医療機能を考え、医療機関同士の役割分担や病床機能の転換を進める仕組みです。

重要なのは、病床の数だけではなく中身を変えることです。

急性期病床が余るのであれば、その一部を将来需要が高まる機能へ転換するという考え方になります。

一方、地域全体にとって必要な再編と、個々の病院にとって合理的な経営判断が一致するとは限りません。

そのため、話し合いだけで病床再編を進めることには限界があります。

2040年に向けた新しい地域医療構想では、どの病院を減らすのかという発想だけではなく、診療報酬やさまざまな経済的な仕組みを使いながら、限られた医療資源を必要な場所へどう移していくのかが重要になります。

人口減少時代の地域医療政策は、医療資源を増やす時代から、今ある医療資源を組み替える時代へ移りつつあるのです。

参考

日本経済新聞 2026年8月27日朝刊 2040年の地域医療構想上 病床の取引市場制度 創設を

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