AIの時代において、資源とは何を指すのでしょうか。
かつて資源国といえば、石油、天然ガス、鉄鉱石、レアメタルなどを持つ国を意味しました。産業が重化学工業を中心に動いていた時代には、エネルギーと鉱物資源を握る国が大きな交渉力を持ちました。
しかし、生成AIが社会の基盤になりつつある現在、資源の意味は変わり始めています。
AIを動かすには、膨大な計算能力が必要です。その計算を支えるのが半導体であり、特に大量のデータを高速で処理するための高性能メモリーです。韓国はこの分野で世界的な存在感を持っています。
そのため、韓国株への注目は単なる株式市場の流行ではありません。AI時代において、韓国が新しい意味での資源国になれるのかという問いにつながっています。
AI時代の資源とは何か
AIは目に見えない技術ですが、その裏側には非常に物理的なインフラがあります。
データセンター、電力、冷却設備、通信網、半導体、メモリー。これらがそろわなければ、AIは動きません。
とりわけ生成AIでは、膨大なデータを瞬時に読み書きする能力が重要になります。そこで必要になるのが、高帯域幅メモリー、いわゆるHBMです。
AI半導体というと、米国のエヌビディアのようなGPUメーカーが注目されがちです。しかし、GPUだけではAIは動きません。GPUの性能を十分に発揮するには、高性能メモリーが不可欠です。
つまり、AI時代の競争力は、計算する半導体だけでなく、その計算を支えるメモリーを誰が供給できるかにも左右されるのです。
この意味で、メモリー半導体はAI時代の新しい資源といえます。
韓国が握る高性能メモリーの強み
韓国には、SKハイニックスとサムスン電子という世界的な半導体企業があります。
両社は長年、DRAMやNAND型フラッシュメモリーで世界市場をリードしてきました。そこに、AI向けのHBM需要が重なりました。
HBMは単に大量生産すればよい製品ではありません。高度な設計、積層技術、歩留まり管理、顧客との共同開発が必要です。特にAI向けでは、GPUメーカーやクラウド企業との関係が重要になります。
ここで韓国企業は強みを発揮しています。
メモリー半導体は景気循環の影響を受けやすく、かつては市況商品に近い面がありました。価格が上がれば投資が増え、供給過剰になれば価格が下がる。その繰り返しです。
しかし、AI向け高性能メモリーは、従来型メモリーよりも技術差が出やすく、顧客との結びつきも強い分野です。韓国企業がここで優位を維持できれば、単なる市況株ではなく、AIインフラ企業として評価される可能性があります。
「資源国」としての韓国の可能性
資源国の強みは、世界が必要とするものを供給できることにあります。
石油産出国は、エネルギーを必要とする世界経済に対して交渉力を持ちました。同じように、AI時代に高性能メモリーを安定供給できる国は、デジタル経済に対して重要な立場を持ちます。
韓国がAI時代の資源国と見られる理由は、三つあります。
第一に、AIインフラに不可欠な半導体を供給していることです。
第二に、その供給能力が一部の企業に集中しており、代替が簡単ではないことです。
第三に、米中対立の中で、韓国が西側陣営の重要な供給拠点として位置づけられていることです。
半導体は、もはや単なる民間企業の製品ではありません。国家安全保障、産業政策、外交戦略の中心にあります。
そのため、韓国の半導体企業は、単に利益を稼ぐ企業というだけでなく、国家の交渉力を支える存在になりつつあります。
ただし資源国には弱点もある
もっとも、韓国がAI時代の資源国になれるとしても、そこにはリスクがあります。
第一のリスクは、メモリー市況の変動です。
メモリー半導体は需要が強いときには利益が急増しますが、供給過剰になると一気に採算が悪化します。AI需要が本物であっても、投資が過熱すれば、いずれ供給調整の局面が来る可能性があります。
第二のリスクは、顧客依存です。
AI向けメモリーの需要は、GPUメーカーや大手クラウド企業の投資計画に大きく左右されます。特定顧客への依存度が高まれば、価格交渉力や投資判断にも影響が出ます。
第三のリスクは、地政学です。
韓国は中国市場とも深く関係してきました。一方で、米国主導の半導体規制や供給網再編の中では、対中ビジネスに制約がかかる可能性があります。
つまり韓国は、AI時代の資源国になれる可能性を持つ一方で、米中対立の前線にも立たされているのです。
日本との違い
ここで日本との違いも見えてきます。
日本も半導体関連の強みを持っています。製造装置、材料、精密部品、検査装置などでは、今も重要な役割を担っています。
しかし、日本は最終製品としてのメモリー半導体や先端ロジック半導体で、かつてほどの存在感を持っていません。
一方、韓国は完成品としてのメモリー半導体を世界に供給しています。これは資本市場から見ると、成長テーマが非常に分かりやすい構造です。
日本は「半導体を支える国」、韓国は「半導体を供給する国」として見られやすい。
この違いが、投資家の関心の集まり方にも影響しています。
半導体覇権は企業だけで決まらない
AI時代の半導体覇権は、企業の技術力だけでは決まりません。
電力供給、研究開発投資、人材確保、政府支援、国際連携、規制対応。これらが一体となって競争力を左右します。
韓国は大企業主導でスピード感ある投資を進めやすい一方、財閥依存の構造や国内市場の小ささという課題もあります。
また、AI半導体の主導権は、米国の設計企業、台湾の受託製造企業、韓国のメモリー企業、日本の材料・装置企業が分担する構造になっています。
どこか一国がすべてを支配するというより、供給網の中で欠かせない位置を取れるかが重要です。
韓国が目指しているのは、まさにこの「欠かせない位置」です。
結論
韓国は、AI時代の資源国になり得る条件を持っています。
それは、天然資源を持っているからではありません。AI経済に不可欠な高性能メモリーを供給できるからです。
今後、生成AI、データセンター、自動運転、ロボット、軍事技術、金融システムなど、あらゆる分野で計算需要は増えていきます。その裏側で、メモリー半導体の重要性はさらに高まるでしょう。
ただし、韓国の強みは同時にリスクでもあります。メモリー市況、顧客依存、地政学、過剰投資。これらを乗り越えられなければ、資源国としての地位は一時的なものに終わる可能性もあります。
それでも現在の世界マネーが韓国株に注目しているのは、韓国がAI時代の供給網の中で、代替しにくい位置を取りつつあるからです。
かつて石油が産業社会を動かしたように、これからの時代は半導体とメモリーがデジタル社会を動かします。
その意味で、韓国は「AI時代の資源国」という新しい国家像に近づいているのかもしれません。
参考
日本経済新聞 2026年5月14日夕刊「韓国株、プロも個人も傾倒」
日本経済新聞 2026年5月13日朝刊「学校で、軍隊で…韓国若者に投資ブーム」
日本経済新聞 2026年5月13日朝刊「日本株買い、安倍相場超え」
日本経済新聞 2026年5月12日朝刊「『下げ知らず』が呼ぶ株高 若手投資家、高値でも買い」