美容クリニックを訪れると、最初から医師がすべての説明をするとは限りません。
施術の希望や予算を聞き、治療メニューを説明し、料金プランを提示する「カウンセラー」と呼ばれるスタッフが対応することがあります。
患者にとっては、医師より気軽に相談できる存在かもしれません。
クリニックにとっても、患者の希望を整理したり、料金や予約について説明したりするスタッフは必要です。
問題は、カウンセラーがどこまで関与するのかです。
美容医療も医療である以上、患者の状態を診断し、どの治療が必要なのかを医学的に判断する中心的な役割は医師が担います。
ところが、カウンセラーとの面談で事実上の治療内容が決まり、最後に医師が短時間確認するだけになれば、「誰が治療方針を決めているのか」という問題が生じます。
美容医療におけるカウンセラーの問題を考えると、医療と営業の境界線が見えてきます。
美容医療のカウンセラーとは何か
美容医療を提供するクリニックでは、医師や看護師以外にカウンセラーなどの名称でスタッフが配置されていることがあります。
カウンセラーという名称だけで、特定の国家資格を持った医療専門職であることを意味するわけではありません。
仕事内容は医療機関によって異なります。
例えば、
患者がどのような施術を希望しているのかを聞く
施術メニューについて案内する
料金を説明する
支払い方法を説明する
予約を調整する
といった仕事があります。
こうした業務そのものが直ちに問題になるわけではありません。
受付や事務、サービス内容の案内など、医療機関の運営には医師以外のスタッフも必要だからです。
重要なのは、患者への案内と医学的な判断を区別することです。
カウンセラーと医師では役割が違う
美容医療では、患者自身が希望する施術を決めて来院することがあります。
例えば、
二重まぶたにしたい
しわを目立たなくしたい
脂肪を減らしたい
といった希望です。
しかし患者が希望する施術が、その人にとって医学的に適切とは限りません。
患者の健康状態や既往歴、服用している薬などによっては、希望する施術が適さないこともあります。
別の方法の方が適切な場合もあります。
ここで必要になるのが医師による医学的判断です。
医師は患者を診察し、治療の必要性や方法、リスクなどを判断します。
一方、カウンセラーが料金や一般的なサービス内容を説明することと、患者の状態を医学的に評価して治療方法を決定することは別です。
この境界線が曖昧になると問題が生じます。
診断や治療方針を決めるのは誰なのか
美容医療でも、診断や医学的な治療方針の決定は医師が担うべき領域です。
例えば患者が、
この施術を受けたい
と希望したとします。
そこで必要なのは、単に希望した商品を販売することではありません。
患者の状態を確認し、
その施術を行ってよいのか
どの方法が適切なのか
期待できる効果はどの程度なのか
どのような副作用や合併症があるのか
ほかの治療方法はあるのか
などを医学的に判断する必要があります。
美容医療は患者自身の希望から始まることが多いため、一般の商品販売に近く見えることがあります。
しかし実際に行われるのは身体に作用する医療行為です。
患者が希望したから、そのまま実施すればよいわけではありません。
カウンセラーが事実上治療を決めると何が問題なのか
問題になるのは、医師の診察より前にカウンセラーとの面談で治療内容がほぼ決まってしまうケースです。
例えば患者が10万円程度の施術を考えて来院したとします。
カウンセラーから、
こちらの施術も追加した方が効果があります
このプランならさらにきれいになります
今日契約すれば割引になります
などと説明され、最終的に50万円の治療プランを契約することになったとします。
その後、医師が短時間診察し、カウンセラーが決めた内容をそのまま実施するような形になれば問題があります。
治療方法を決めた中心人物が誰なのか分からなくなるからです。
医学的な必要性よりも契約金額を増やすことが優先されれば、医療が商品販売に近づいてしまいます。
厚労省も不適切な事例を問題視している
美容医療をめぐるトラブルの増加を背景として、国も美容医療の適切な提供について対策を進めています。
その中では、医師の診察や説明が十分に行われず、カウンセラーなどとの相談によって治療内容が事実上決定されるような事例も問題になります。
患者からすると、クリニック内で説明している人であれば、医療の専門家だと思ってしまう可能性があります。
白衣に近い服装をしていたり、専門的な用語を使って説明したりすれば、医師や看護師との違いを意識しないこともあるでしょう。
だからこそ、
誰が医師なのか
誰が看護師なのか
誰がカウンセラーなのか
それぞれ何を説明しているのか
を明確にすることが重要になります。
美容医療では営業のインセンティブが生まれやすい
保険診療では診療報酬によって医療行為の価格が決められています。
一方、自由診療である美容医療では、医療機関が料金を設定できます。
患者が契約する施術が増えれば、医療機関の売上も増えます。
そのため構造的に、
より高額な施術
複数の施術を組み合わせたプラン
継続的なコース
などを販売するインセンティブが生じます。
これは一般企業であれば珍しいことではありません。
高額な商品や追加サービスを販売すれば売上が増えるからです。
しかし医療では事情が異なります。
患者には、その治療が本当に必要なのかを判断するための医学的知識が十分にない場合があります。
売り手側が医学的な情報を持ち、買い手側がその情報を持っていないという大きな情報格差があります。
だからこそ、通常の商品以上に営業と医学的判断を区別する必要があります。
今日契約すれば安くなるという勧誘にも注意が必要
美容医療では高額な契約になることがあります。
その場で数十万円、場合によってはそれ以上の契約を決めることもあります。
こうした場面で、
今日だけの価格です
今契約すれば割引します
この施術も一緒に受けた方がよいです
ローンなら月々の負担はこの程度です
などと契約を急がされれば、患者が冷静に判断できなくなる可能性があります。
医療には一度実施すると元に戻せない施術もあります。
一般の商品であれば返品できるものもありますが、手術や注射を返品することはできません。
そのため高額な美容医療ほど、患者が十分に考える時間を持つことが重要になります。
医師の説明が最後の形式的な確認になってはいけない
カウンセラーから詳しい説明を受けた後で医師の診察を受ける仕組み自体が問題なのではありません。
重要なのは、医師の診察が実質的なものになっているかです。
例えば、
患者の健康状態を確認する
治療が医学的に適切か判断する
期待できる効果を説明する
副作用や合併症を説明する
ほかの選択肢を説明する
必要でなければ治療を勧めない
といった役割を医師が果たす必要があります。
カウンセラーが作った治療プランについて医師が数分確認するだけであれば、医学的判断が形骸化する可能性があります。
医師には場合によって、
この施術は必要ありません
この患者には適していません
と判断する役割もあります。
患者側も誰から説明を受けているか確認する
美容医療を利用するときには、患者側も説明者の立場を確認することが大切です。
特に医学的な質問については、
この説明をしている人は医師なのか
医学的な判断は誰が行ったのか
医師から直接リスクについて説明を受けたか
ほかの治療方法について説明されたか
治療を受けないという選択肢についても説明されたか
といった点を確認することが重要です。
料金についてカウンセラーから説明を受けることと、医学的な説明までカウンセラーだけで完結することは同じではありません。
「誰が説明したか」は、美容医療を選ぶ際の重要なポイントになります。
医療と営業を完全に切り離すことは難しい
自由診療では、医療機関も事業として運営されています。
家賃や人件費、医療機器、広告費などを支払う必要があり、利益を上げなければ事業を続けることはできません。
したがって、
医療機関は利益を考えてはいけない
という話ではありません。
問題は、利益を得るための営業活動が医学的な判断を上回ることです。
患者に必要だから治療を勧めるのか。
売上を増やしたいから治療を勧めるのか。
患者から見れば、この二つを区別することは非常に難しいところです。
だからこそ、診断や治療方針を決める医師と、契約や料金を説明するスタッフの役割を明確にする必要があります。
結論
美容医療のカウンセラーは、患者の希望を聞いたり、施術メニューや料金、支払い方法などを説明したりするスタッフとして重要な役割を持つ場合があります。
カウンセラーが存在すること自体が問題なのではありません。
重要なのは、カウンセラーと医師の役割を混同しないことです。
美容医療も医療である以上、患者の状態を診察し、治療が適切なのかを医学的に判断し、治療方針を決める中心的な役割は医師が担います。
カウンセラーとの面談で事実上の治療内容や高額な契約が決まり、その後に医師が形式的に確認するだけになれば、医療と営業の関係が逆転する可能性があります。
特に自由診療では、治療を増やしたり高額なプランを販売したりすることが医療機関の売上につながります。
そのため患者には、
これは医学的に必要な治療なのか
それとも販売されている商品なのか
を判断しにくいという問題があります。
患者側も、料金を説明している人と医学的な判断をしている人を区別し、治療効果や副作用、合併症について医師から十分な説明を受けることが重要です。
そして美容医療の営業活動を考えるうえでもう一つ重要になるのが、患者をクリニックへ呼び込む「広告」です。
特にSNSやウェブサイトで目にするビフォーアフター写真などには、医療広告としてのルールがあります。
参考
日本経済新聞 2026年8月26日朝刊 不誠実な自由診療に歯止めを