企業の子育て支援というと、育児休業、短時間勤務、残業削減など、自社で働く従業員を対象とした制度を思い浮かべる人が多いでしょう。
代表的なのが、厚生労働省のくるみん認定です。
一方、こども家庭庁は2027年度に、新しい子育て支援企業の認定制度を創設する方針です。
同じように企業の子育て支援を評価する制度ですが、両者には大きな違いがあります。
くるみんが主として企業の内側を見る制度なのに対し、新制度では企業の商品やサービスを利用する顧客や地域社会まで視野に入れようとしているからです。
くるみんは従業員の子育てを支援する制度
くるみん認定は、次世代育成支援対策推進法に基づく制度です。
企業が一般事業主行動計画を策定し、仕事と子育てを両立できる職場づくりに取り組み、一定の基準を満たすと認定を受けることができます。
評価の中心にあるのは自社の従業員です。
例えば、男性が育児休業を取得できているか、子育てをしながら働き続けられる制度が整っているか、長時間労働を抑える取り組みが行われているかといった点が重要になります。
企業が何を販売しているかは基本的に別の問題です。
子育てとは直接関係のない商品を販売している会社でも、従業員が仕事と育児を両立しやすい職場をつくっていれば、くるみん認定の対象になり得ます。
つまり、くるみんは企業がどのような事業をしているかではなく、どのような職場をつくっているかを見る制度と考えると分かりやすいでしょう。
新制度は顧客や地域への子育て支援を見る
これに対して、こども家庭庁が2027年度の創設を目指している新しい認定制度は、企業の外側にも対象を広げようとしています。
企業の商品、サービス、店舗、住宅などが、子育て世帯にどのような価値を提供しているかを評価する考え方です。
例えば、子ども食堂に関する事業があります。
社会的な意義が大きくても、企業にとって十分な収益を確保しにくい分野です。
オフィス内シッターや子育て支援住宅なども対象とする方向です。
さらに、店舗の中に子どもが遊べるスペースを確保するといった取り組みも評価対象として検討されています。
従業員が働きやすい会社かどうかだけではなく、その会社が社会を子育てしやすくしているかを見るわけです。
商品やサービスを評価する意味
なぜ商品やサービスまで子育て支援政策の対象にするのでしょうか。
子育ての負担は職場だけで発生するものではないからです。
子どもを連れて買い物をする、外食する、住宅を選ぶ、移動するなど、日常生活のさまざまな場面で子育て世帯は負担を感じます。
企業の商品やサービスが少し変わるだけでも、その負担を軽くできる可能性があります。
例えばスーパーに子ども連れで利用しやすい設備があれば、買い物の負担を減らせます。
飲食店に子どもが過ごしやすいスペースがあれば、家族で外食しやすくなります。
住宅会社が子育てしやすい間取りや共用施設を整備すれば、毎日の育児負担を減らせるかもしれません。
子育て政策を雇用制度だけで考えず、生活全体へ広げる意味があります。
社会的価値だけでは企業が動きにくい
ただし、企業には利益を上げる必要があります。
子育て支援として社会的に価値のある取り組みでも、それだけで十分な売上や利益が生まれるとは限りません。
店舗に子どもの遊び場をつくれば、そのためのスペースが必要になります。
設備費や維持費もかかります。
子ども食堂などの支援では、企業が負担する費用に対して直接的な収益がほとんど生じないことも考えられます。
社会的には必要でも、企業の通常の投資判断だけでは資金が集まりにくい分野が存在するわけです。
そこで新しい認定制度では、認定企業を法人減税や補助金などの優遇対象とすることが検討されています。
社会的価値を生み出す企業に経済的なメリットも与えることで、民間企業の投資を促そうとしているのです。
公共調達でも認定企業を評価する
新制度では、税制や補助金以外のメリットも検討されています。
その一つが公共調達です。
国や自治体が企業から商品やサービスを購入するときの入札で、認定企業に加点する仕組みが検討されています。
これが実現すれば、子育て支援への取り組みが企業の受注競争力にもつながります。
企業にとって認定取得は、単なる社会貢献の証明ではなくなります。
税負担の軽減、補助金、公共部門からの受注、企業イメージの向上など、複数の経営上のメリットにつながる可能性があるからです。
子育て支援をコストではなく投資として考えやすくする仕組みといえます。
二つの制度は競合するものではない
新しい認定制度ができれば、くるみんは不要になるのでしょうか。
そういう関係ではありません。
二つの制度は評価する対象が異なるためです。
くるみんでは、自社の従業員が仕事と子育てを両立しやすいかを評価します。
新制度では、企業が商品やサービスなどを通じて、顧客や地域社会の子育てをどのように支援しているかを見る方向です。
企業によっては両方に取り組むことができます。
例えば、住宅会社が自社従業員の育児休業取得を促進すると同時に、子育て世帯向け住宅を開発するケースです。
前者はくるみんにつながり、後者は新しい認定制度の評価対象になる可能性があります。
社内と社外の両方で子育てを支援する企業が評価される構造になります。
子育て支援が企業経営そのものに広がる
この変化は、子育て支援に対する企業の考え方を変える可能性があります。
これまでの子育て支援は人事や労務の問題として扱われることが多くありました。
育児休業制度をどうするか、残業をどう減らすか、短時間勤務をどう整備するかといった問題です。
新制度では、商品開発、店舗設計、住宅開発、営業戦略、地域貢献などにも子育てという視点が入ってきます。
つまり、人事部門だけのテーマではなく、企業経営全体のテーマになります。
子育て世帯が何に困っているのかを考え、その問題を商品やサービスで解決できれば、新しい市場を生み出すことにもつながります。
少子化対策と企業の成長戦略を結び付けようとしている点が、新制度の大きな特徴です。
結論
くるみんと新しい子育て支援企業認定の最大の違いは、誰に対する子育て支援を評価するかにあります。
くるみんは、主として自社で働く従業員を対象とします。
育児休業取得や労働時間の改善などを通じて、仕事と子育てを両立できる職場をつくっているかを評価する制度です。
一方、2027年度の創設が検討されている新制度では、企業の商品やサービスを利用する顧客や地域社会まで対象を広げます。
子ども食堂、子育て支援住宅、シッターサービス、子ども連れで利用しやすい店舗など、事業そのものが子育て環境を改善しているかを評価する方向です。
くるみんが企業の内側を変える制度だとすれば、新制度は企業の力を使って社会の子育て環境を変える制度と考えることができます。
二つの制度を組み合わせることで、従業員にも顧客にも子育てしやすい企業を増やしていく。
企業の子育て支援は、福利厚生から商品やサービス、そして経営戦略へと対象を広げようとしています。
参考
日本経済新聞 2026年8月25日 朝刊 子育て向け商品・サービス提供企業に法人減税