オンライン診療の普及によって、自宅や駅などから医師の診察を受けられる機会が増えています。
地方では、離れた場所にいる医師と患者のそばにいる看護師を組み合わせるD to P with Nも活用され始めています。
しかし、オンライン診療ですべての患者を診察できるわけではありません。
医師が患者の体に直接触れることができず、その場でできる検査にも限界があるからです。
そこで重要になるのが、オンライン診療から対面診療へ切り替える仕組みです。
オンライン診療の安全性は、オンラインだけでどこまで診察できるかではなく、必要な患者を適切なタイミングで対面診療へつなげられるかによっても左右されます。
オンライン診療に向いている症状とは何か
オンライン診療は、問診や視診などによって必要な情報を得やすい場合に活用しやすい診療方法です。
例えば、すでに診断されている慢性疾患について経過を確認する場合があります。
患者の状態が安定していて、
症状に変化がないか
薬をきちんと服用できているか
副作用が出ていないか
家庭で測定した血圧などに問題がないか
といったことを確認するのであれば、オンラインでも対応できる場合があります。
医療機関まで長時間移動しなければならない患者にとっては、通院負担を減らせるメリットがあります。
ただし、オンライン診療に向いているかどうかは病名だけで一律に決まるものではありません。
同じ病気でも患者の状態によって判断は変わります。
初めはオンラインでも途中で状況が変わることがある
オンライン診療を始めた時点では問題がなさそうでも、診察を進めるうちに対面診療が必要だと分かる場合があります。
例えば患者が発熱してオンライン診療を受けたとします。
問診を進めると、
呼吸が苦しい
意識がもうろうとしている
水分をほとんど取れていない
症状が急激に悪化している
といった情報が出てくるかもしれません。
画面上では判断できない異常が疑われることもあります。
オンライン診療を始めたから最後までオンラインで診療しなければならないわけではありません。
新しい情報が得られるたびに、オンラインで診療を続けてよいのかを判断する必要があります。
対面診療が必要になるのはどんなときか
対面診療への切り替えが必要になる代表的な場面の一つが、医師が十分な情報を得られない場合です。
オンラインでは問診や視診を行うことができます。
電子聴診器などを利用できる環境なら、心音や呼吸音などの情報を得られる場合もあります。
しかし、医師自身による触診が必要なケースがあります。
例えば強い腹痛です。
腹部のどの場所が痛むのか。
押したときにどの程度痛むのか。
腹部が硬くなっていないか。
こうした情報を医師自身が確認する必要があると判断すれば、対面診療が必要になります。
検査が必要なら対面診療につなぐ
オンライン診療だけでは行えない検査もあります。
例えば、
血液検査
尿検査
エックス線検査
CT検査
MRI検査
超音波検査
などです。
医師が患者の症状からこうした検査が必要だと判断すれば、患者は検査のできる医療機関を受診する必要があります。
重要なのは、オンライン診療で病気を必ず確定させることではありません。
オンライン診療によって、
そのまま経過をみてもよいのか
通常の外来を受診すべきなのか
すぐに救急医療を受けるべきなのか
を判断することにも大きな意味があります。
オンライン診療が対面診療への入口になるわけです。
緊急性の判断が特に重要になる
オンライン診療では、患者の緊急性を見極めることが重要です。
患者がオンライン診療を選んだからといって、軽症とは限りません。
本人が重大な病気だと気づいていない可能性もあります。
例えば強い胸痛や呼吸困難などがあれば、緊急性の高い病気が隠れている可能性があります。
意識状態に異常がある場合も慎重な対応が必要です。
オンライン診療でこうした状態が疑われた場合、通常の外来予約を勧めるだけでは不十分なことがあります。
患者の状態によっては、速やかな救急受診につなげる必要があります。
オンライン診療では診断能力だけでなく、緊急度を判断する能力も重要になります。
オンラインでは確認できないことを認識する
オンライン診療では、医師が患者のすべてを確認できるわけではありません。
例えばカメラに映っている患者の顔色が実際の色と同じとは限りません。
照明やカメラの性能によって見え方が変わることがあります。
患者が自宅にいる場合には、医師が見たい場所を適切にカメラへ映せないこともあります。
血圧や体温などについても、患者が正しく測定できているとは限りません。
オンライン診療で安全性を高めるには、画面に映っている情報だけで判断できると考えないことが重要です。
情報が不足していること自体が、対面診療へ切り替える理由になる場合があります。
看護師がいると判断材料を増やせる
D to P with Nでは、患者のそばに看護師がいます。
自宅型オンライン診療との大きな違いです。
看護師が患者の状態を直接観察できます。
体温や血圧、脈拍、血中酸素飽和度などを測定することもできます。
電子聴診器を利用すれば、遠隔地にいる医師が呼吸音などを確認できる場合があります。
これによって、オンライン診療だけでも医師が得られる情報を増やせます。
ただし、看護師がいるからすべての患者に対応できるわけではありません。
看護師から得た情報を踏まえても医師が対面診療を必要と判断すれば、患者を適切な医療機関へつなぐ必要があります。
来院型なら対面医療へつなぎやすい
来院型オンライン診療には、自宅型にはない強みがあります。
患者がすでに医療機関にいることです。
今回参考にした岩国市医療センター医師会病院では、夜間に患者が病院を訪れ、看護師が立ち会ったうえで離れた場所にいる医師がオンライン診療を行っています。
医師が診察した結果、必要な処置があれば病院内で対応できる場合があります。
さらに詳しい診察や検査が必要であれば、対面医療へつなぐことも考えられます。
自宅型の場合には患者自身がオンライン診療後に医療機関へ移動しなければなりません。
来院型では、最初から医療の拠点にいるため次の医療へ移りやすいことが特徴です。
近隣医療機関との連携が重要になる
オンライン診療を安全に行うためには、オンライン診療を提供する医師だけではなく、対面診療を担う医療機関との連携が重要になります。
特に遠隔地の医師が診察する場合です。
例えば東京にいる医師が地方の患者を診察した結果、すぐに対面診療が必要だと判断したとします。
そのとき患者がどこへ行けばよいのか分からなければ、診療が途切れてしまいます。
厚生労働省もオンライン診療について、医師の判断によって速やかな対面診療が必要になる場合があることを前提としています。
患者の居住地に近い医療機関と連携できる体制を確保しておくことが重要になります。
オンライン診療は、オンラインだけで独立して存在する医療ではないのです。
オンライン診療は振り分けにも使える
オンライン診療には、患者を適切な医療へ振り分ける役割もあります。
患者自身は、
病院へ行くべきなのか
翌日まで待ってよいのか
救急外来へ行くべきなのか
を判断することが難しい場合があります。
そこでオンラインで医師の診察を受けます。
医師が比較的軽症だと判断すれば、自宅での経過観察や通常の外来受診につなげます。
詳しい診察が必要なら対面診療を勧めます。
緊急性が高ければ救急医療へつなげます。
この振り分けが適切に機能すれば、高度な救急医療を必要としない患者が大病院へ集中することを減らせる可能性があります。
オンラインと対面を行き来する医療になる
これからのオンライン診療では、オンラインと対面を完全に別のものとして考えないことが重要になります。
例えば慢性疾患の患者なら、
最初は対面で詳しく診察する
状態が安定したらオンラインで経過観察する
症状に変化が出たら対面へ戻す
検査後に再びオンラインで結果を説明する
という使い方が考えられます。
毎回必ず病院へ行く必要はありません。
反対に、オンライン診療を選んだからといって、ずっとオンラインで診察を受け続ける必要もありません。
患者の状態に応じてオンラインと対面を行き来する医療が重要になります。
結論
オンライン診療から対面診療へ切り替えるのは、オンラインだけでは安全な診断や治療に必要な情報を十分に得られない場合です。
詳しい触診が必要なとき。
血液検査や画像検査などが必要なとき。
症状が急激に悪化しているとき。
緊急性の高い病気が疑われるとき。
こうした場合には、オンライン診療にこだわらず対面診療へつなぐ必要があります。
オンライン診療の目的は、すべての医療を画面の中だけで完結させることではありません。
オンラインで対応できる患者はオンラインで診察する。
看護師や医療機器によって不足する情報を補う。
それでも十分な判断ができなければ対面診療へ切り替える。
緊急性が高ければ救急医療へつなぐ。
こうした連続した仕組みとして考えることが重要です。
オンライン診療の安全性を高める鍵は、オンラインで診療を続ける技術だけではありません。
オンラインでは診られないと適切に判断し、速やかに対面医療へつなぐことも、オンライン診療を支える重要な仕組みなのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 進化するオンライン診療 看護師立ち会い、検査や処置
日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 駅で受診可能に