オンライン診療では、スマートフォンやパソコンを通じて医師の診察を受けることができます。
患者は症状を説明でき、医師は画面を通して顔色や表情などを確認できます。
電子聴診器などの医療機器を組み合わせれば、離れた場所にいる医師が心音や呼吸音を確認することも可能になっています。
それでもオンライン診療には対面診療にはない大きな限界があります。
医師が患者の体に直接触れられないことです。
医師の診察は、患者から話を聞くだけで行われているわけではありません。
見る、聞く、触るといった複数の方法で情報を集めています。
オンライン診療を安全に利用するには、何ができて何ができないのかを理解し、必要な場合には対面診療へ切り替えることが重要です。
医師は問診だけで診断しているわけではない
医師の診察というと、患者が症状を説明し、医師が質問する場面を思い浮かべるかもしれません。
これが問診です。
いつから症状があるのか。
どのような痛みなのか。
発熱しているのか。
過去にどのような病気をしたのか。
どのような薬を飲んでいるのか。
こうした情報は診断するうえで非常に重要です。
しかし、問診だけですべての病気を判断できるわけではありません。
医師は患者の体から得られる客観的な情報も組み合わせています。
その代表的な方法が視診、聴診、触診などです。
視診とは患者を見て確認すること
視診とは、患者の体や状態を目で見て確認する診察方法です。
例えば顔色を確認します。
皮膚に発疹が出ていないかを見ることもあります。
呼吸するときに苦しそうな動きをしていないか、体の一部が腫れていないかなども診察の材料になります。
視診はオンライン診療でも比較的行いやすい診察方法です。
カメラを通じて患者の顔や患部を見ることができるからです。
ただし、画面越しの視診にも限界があります。
カメラの性能や照明によって色が実際とは違って見えることがあります。
映像では患部の細かな状態が十分に確認できない場合もあります。
患者自身がカメラを動かす必要がある場合には、医師が見たい角度から確認できるとは限りません。
同じ見るという診察でも、対面とオンラインでは得られる情報量が異なることがあります。
問診はオンライン診療と相性がよい
問診はオンライン診療でも比較的行いやすい方法です。
医師と患者が離れていても、音声と映像によって会話できるからです。
慢性的な病気の経過を確認する場合などには、問診から多くの情報を得られることがあります。
例えば、
症状に変化がないか
薬をきちんと飲めているか
副作用が出ていないか
生活習慣に変化がないか
といったことを確認できます。
患者が家庭用血圧計などで測定したデータを持っていれば、それを医師へ伝えることもできます。
このためオンライン診療は、問診や経過観察を中心に診療できる患者とは比較的相性がよいと考えられます。
聴診は電子聴診器で補える場合がある
対面診療では、医師が聴診器を患者の胸や背中に当てて心音や呼吸音を確認します。
通常の自宅型オンライン診療では、医師自身が聴診器を患者に当てることはできません。
しかし、電子聴診器を利用すれば、この問題をある程度補える場合があります。
例えばD to P with Nです。
患者のそばに看護師がいて、離れた場所に医師がいます。
看護師が電子聴診器を患者の胸や背中に当て、その音をオンラインで医師へ送ります。
医師は離れた場所にいながら心音や呼吸音を確認できます。
オンライン診療の弱点の一部を、医療機器と看護師によって補う仕組みです。
触診とは患者の体に触れて調べること
オンライン診療で特に難しいのが触診です。
触診とは、医師が患者の体に直接触れて状態を確認する診察方法です。
例えば腹痛の患者を診察するとします。
医師は腹部のさまざまな場所を手で押しながら、
どこが痛むのか
どの程度痛むのか
腹部が硬くなっていないか
腫れやしこりがないか
などを確認します。
患者が自分でおなかを押して医師に痛みを伝える方法も考えられます。
しかし、医師自身が触ったときと同じ情報を得られるとは限りません。
どの程度の力で押したのかも一定ではありません。
体の硬さや微妙な反応などを医師自身の手で確認できないからです。
触診で初めて分かる情報がある
触診が重要なのは、患者自身では気づきにくい情報を医師が得られることがあるからです。
例えば腫れやしこりです。
患者は異常がないと思っていても、医師が触ることで気づく場合があります。
腹部を押したときの痛み方も診断の手掛かりになります。
どの場所を押すと痛むのか。
押しているときと手を離したときで痛みがどう変わるのか。
腹部の筋肉が硬くなっていないか。
こうした情報を組み合わせて、医師は緊急性の高い病気の可能性などを考えます。
オンライン診療では、こうした触覚による情報を直接取得することが難しいのです。
画面では分からない症状もある
オンライン診療で判断が難しくなる可能性がある症状は腹痛だけではありません。
例えば胸痛です。
胸が痛いという症状だけでも、原因はさまざまです。
筋肉などに原因がある場合もあれば、心臓や肺に関係する病気の可能性もあります。
頭痛やめまいなどでも、神経学的な診察が必要になる場合があります。
けがの場合には、骨や関節の状態を詳しく確認する必要があることもあります。
画面上では患者が比較的元気そうに見えても、検査をすると重大な異常が見つかる場合もあります。
オンライン診療は、見える範囲の情報だけで何でも判断できる仕組みではありません。
検査ができないこともオンライン診療の限界になる
対面診療では、診察だけで判断できなければ検査へ進むことができます。
血液検査
尿検査
エックス線検査
CT検査
MRI検査
超音波検査
などです。
自宅型オンライン診療では、その場でこうした検査を行うことは困難です。
医師が検査が必要だと判断すれば、患者は医療機関を受診する必要があります。
一方、来院型オンライン診療であれば、患者が医療機関にいるため、一定の検査や処置につなげやすくなります。
患者のそばに看護師がいるD to P with Nも、オンライン診療の情報不足を補う方法の一つです。
それでも必要な検査がその施設でできなければ、別の医療機関への受診が必要になります。
オンライン診療に向いている患者もいる
触診ができないからといって、オンライン診療に意味がないわけではありません。
オンラインでも十分な情報を得られる患者や症状があります。
例えば、すでに診断されている慢性疾患の経過観察です。
患者の状態が安定していて、定期的に症状や薬の使用状況を確認する場合には、オンライン診療を活用できることがあります。
医療機関までの移動が難しい患者にとっても大きなメリットがあります。
重要なのは、すべての患者をオンラインで診察することではありません。
オンラインで診療できる患者と、対面で診察すべき患者を適切に分けることです。
対面診療へ切り替える判断が重要になる
オンライン診療で医師が十分な情報を得られないと判断した場合には、対面診療へ切り替える必要があります。
例えば、
症状が急激に悪化している
強い胸痛や呼吸困難がある
意識状態に異常がある
詳しい触診が必要である
血液検査や画像検査が必要である
といった場合です。
患者の状態によっては通常の外来受診ではなく、救急医療が必要になることもあります。
オンライン診療の安全性を高めるうえでは、オンラインで診察を続ける技術だけでなく、オンライン診療をやめる判断も重要なのです。
対面とオンラインは競争相手ではない
オンライン診療と対面診療は、どちらが優れているかを競うものではありません。
それぞれ得意なことが違います。
オンライン診療は、
移動時間を減らす
遠隔地の医師とつながる
継続的な経過観察を行う
といったことに強みがあります。
対面診療は、
触診する
詳しい身体診察をする
検査を行う
その場で処置する
といったことに強みがあります。
オンラインと対面を患者の状態に応じて使い分けることが重要です。
結論
オンライン診療の大きな限界の一つは、医師が患者の体に直接触れられないことです。
医師の診察は問診だけではありません。
患者を見る視診、心音や呼吸音を聞く聴診、患者の体に触れる触診など、さまざまな方法を組み合わせて情報を集めています。
オンライン診療では問診や視診を比較的行いやすく、電子聴診器などを使えば聴診を補える場合もあります。
一方、触診を完全に遠隔化することは簡単ではありません。
腹部の硬さやしこり、押したときの患者の反応など、医師自身が触れることで得られる情報があるからです。
そのためオンライン診療で十分な判断ができない場合には、対面診療へ切り替える必要があります。
オンライン診療の進化とは、すべての診療をオンラインへ置き換えることではありません。
問診や経過観察はオンラインで行い、看護師や電子聴診器などを使って不足する情報を補い、それでも判断できない場合には対面診療につなぐ。
この役割分担が重要です。
オンライン診療の便利さだけでなく、できないことを正しく理解することが、安全で持続可能な医療につながるのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 進化するオンライン診療 看護師立ち会い、検査や処置
日本経済新聞 2026年8月22日 朝刊 駅で受診可能に